第12話「度重なる勧誘が面倒なので、マイホーム周辺の岩盤をくり抜いて『空中要塞』にしてみた」
ボロボロになった騎士団が逃げ帰った後。
俺はコンクリートハウスの庭先で、腕を組んで思案していた。
「……あの様子だと、次は軍隊規模で押し寄せてきそうだな」
俺の防壁は物理攻撃も魔法も通さないが、家の周りを何千人もの兵士にウロウロされるのは非常にうっとうしい。せっかくの美味しいご飯も、外が騒がしくては台無しだ。
「レン様、いかがなさいますか? もし軍隊が来るなら、私が全て斬り伏せますが……」
「いや、クレアに人殺しはさせたくないし、血で庭が汚れるのも嫌だ。……よし、引っ越そう」
「お引っ越し、ですか? ですが、この立派なお家と、せっかく育った美味しいお野菜の畑はどうするのですか?」
クレアが悲しそうな顔で極上トマトの苗を見つめている。
「置いていくわけないだろ。家も畑も『まるごと』持っていく」
「……はい?」
クレアが首を傾げている間に、俺は地面に両手をかざし、極大の魔力を大地の下――地下深くの岩盤へと流し込んだ。
(土魔法の真髄は元素操作。ならば、地中に含まれる鉄やニッケル、そして希土類を集積・配列し、巨大な『ネオジム磁石』の層を形成することは可能なはずだ)
俺がイメージするのは、超強力な磁場と、星そのものが持つ地磁気との反発力。
さらに、岩盤の質量を魔法でコントロールし、マイスナー効果(超伝導体によるピン止め効果)を疑似的に再現して空中に固定する。
「家と畑を含めた半径五十メートルの岩盤を、円錐状に切り離す。……いくぞ」
俺は息を吸い込み、魔力を一気に解放した。
「【土魔法・地磁気反発浮遊】!!」
ズズズズズズズズッ!!!
「ひゃああっ!?」
クレアが悲鳴を上げ、俺の腕にしがみついてきた。
大地が凄まじい音を立てて鳴動する。
だが、家は一切揺れていない。揺れているのは『眼下の景色』の方だった。
「……れ、レン様! じ、地面が……私たちが、空に……っ!?」
クレアが震える指で外を指差す。
俺たちが立つコンクリートハウスと極上の畑は、巨大な岩盤の土台ごと大地から切り離され、ゆっくりと、しかし確実に上空へと浮き上がっていたのだ。
眼下に広がる『処刑の草原』が、どんどん小さくなっていく。
数十メートル、数百メートル、そして――雲を見下ろす高度数千メートルの空域で、俺たちの家はピタリと静止した。
「よし、高度固定完了。風よけの結界(空気の層)も張ったから、息苦しさも寒さもないはずだ」
俺は満足げに頷き、眼下に広がる壮大なパノラマを見下ろした。
遠くに、俺を追放したグランツ王国の王都が小さく見える。あそこからどれだけ見上げても、雲の上に浮かぶこの要塞に気づくことはできないだろうし、気づいたところで絶対に手出しはできない。
「す、すごいです……。お家ごと空を飛ぶなんて……まるで、神話に登場する天空の神殿……」
「天空の神殿っていうか、ただの『自分専用の空中要塞』だな。これで地上の面倒な連中に邪魔されることなく、究極のスローライフが送れるってわけだ」
俺が笑うと、クレアは尊敬と熱烈な好意の入り混じった瞳で俺を見つめ、ギュッと腕に抱きついてきた。
「はいっ! 地上の煩わしいことなど全て忘れて、この空の上で、私と二人きりの素晴らしい生活を送りましょうね、レン様!」
「お、おいクレア、胸が当たってるって……」
かくして、王国のしがらみを物理的な高度で完全に断ち切った俺は、美少女メイドのクレアと共に、誰にも邪魔されない天空のマイホームでのんびりとした日々をスタートさせたのだった。
――一方その頃。
大軍を率いて再び『処刑の草原』へとやってきた国王と勇者一行は、忽然と姿を消した家と、大地にポッカリと空いた巨大なクレーターを見下ろし、絶望のあまり泡を吹いて気絶することになるのだが……それはまた、別のお話。
お読みいただきありがとうございます!
地面ごと浮上して「空中要塞」化。
これでもう、地上の国は手出しできません。
王様と勇者には、空を見上げて呆然としてもらいましょう。
「家ごと飛ぶのは規格外すぎる!」
と楽しんでいただけましたら、ぜひ応援をお願いします!
▼次回予告
空の旅へ出発!
目指すは隣国の「迷宮都市」。
極上のスパイスと、新たな素材を求めて……新章(冒険者編)スタートです!




