第11話「食後に玄関を開けたら、王国の精鋭騎士団が息切れして倒れていた件。〜今さら戻れと言われても困ります〜」
「ごちそうさま。今日も美味かったよ、クレア」
「お粗末様でした、レン様! ふふっ、お野菜が美味しいから、お料理が本当に楽しいんです」
極上の朝食を終え、俺は食後のコーヒー(似の木の実を焙煎したもの)を飲みながら一息ついた。
さて、今日も畑の様子を見つつ、スローライフを満喫するか。
俺は立ち上がり、重厚なコンクリート製の玄関扉のロックを解除して、外へと押し開けた。
「……ん?」
扉を開けた瞬間。
俺の家の前(完璧に整地された庭)には、数十人の武装した男たちが、ゼーゼーと荒い息を吐きながら地面にへたり込んでいた。
よく見ると、全員が王城で見かけたような立派な鎧を着ている。だが、なぜか彼らの持っている剣はボロボロに刃こぼれし、中には根元から折れている者までいた。
「ハァ……ハァ……ッ。な、なんだこの扉、魔法陣すら……ないのに、ビクとも……」
顔を煤だらけにした一人の騎士が、開いた扉と俺の顔を交互に見比べた。
「あ、開いた……!? き、貴様は、数日前に廃棄された『土魔法』のガキ……ッ!!」
「ん? ああ、あんたらか。俺をここに捨てた王様の部下だな」
俺が呑気に相槌を打つと、騎士団長らしき男が血走った目で立ち上がった。
「生きていたか、ハズレ枠め! 貴様を王城へ連れ戻すために来てやったぞ! さあ、すぐに荷物をまとめろ! 魔物で外壁が崩れ、勇者様の聖剣も打ち直せないのだ! 貴様の土魔法で直させてやるから、感謝して――」
「お断りだ」
俺は間髪入れずに即答した。
「は……?」
「いや、馬鹿なのか? 自分たちで『ゴミだから死の草原で死ね』って捨てておいて、壁が壊れたから直せ? 冗談は休みに言ってくれ。俺は今、忙しいんだよ」
「い、忙しいだと……!? 貴様、こんな魔物だらけの荒野で、何をしているというのだ!!」
騎士団長が声を荒げた、その時だ。
「レン様、食後のデザートに甘いトマトを冷やしておきまし――あっ」
俺の後ろから、エプロン姿のクレアが顔を出した。
艶やかな銀髪に、風呂上がりのように透き通った白い肌。その手には、氷水でキンキンに冷やされた、宝石のように輝く巨大なトマトが乗った皿がある。
「なっ……!? き、貴女は、クレア・ヴァン・ローズ公爵令嬢!? なぜ、行方不明になっていた貴女がこんな所に……しかも、その信じられないほど美味そうな果実はなんだ!?」
騎士たちは目をひん剥いた。
彼らが知るクレアは、魔力なしの無能として家を追い出されたボロボロの令嬢のはずだ。だが目の前にいる彼女は、王族よりも遥かに健康で、美しく、そして贅沢なものを口にしようとしている。
「あら、王国の騎士団の方々ですね。レン様の安眠の邪魔をした『小石』というのは、あなた達のことでしたか」
「こ、小石だと……ッ!? 我々の全力の攻撃を……! ええい、言うことを聞かんのなら力ずくで連行するまでだ!」
騎士団長が腰から予備の剣を引き抜き、俺に向けて踏み込んできた。
だが、俺は動かない。
代わりに、クレアがため息をつきながら前に出た。
「レン様に刃を向けるなど、万死に値します」
彼女は腰に差していた『超高純度炭素鋼の剣』を静かに抜き放った。
そして、騎士団長の剣を軽く下から弾き上げる。
キンッ!
「――あ?」
騎士団長の剣が、まるで飴細工のようにあっさりと半分の長さで切断され、宙を舞った。
「な、なんだその剣は!? 魔力強化もなしに、ミスリル鋼の剣をいとも容易く……ッ!?」
「レン様が作ってくださった『普通の剣』です。あなた方のナマクラと一緒にしないでください」
クレアは冷たい視線で騎士たちを見下ろした。
折れた剣、全く効かなかった魔法。そして、目の前にある常識外れの白い家と、伝説級の武器。
「バ、バカな……! 土魔法のハズレ枠だぞ!? なぜ、こんな……ッ」
彼らはようやく理解したのだ。
自分たちが『ゴミ』として捨てた少年が、実は国家の武力も魔法も一切通じない、理外のバケモノであったということに。
「悪いが、俺は今の生活が気に入ってる。王様に伝えてくれ。『自分専用の家を作って超快適なので、間に合ってます』ってな」
俺は絶望で顔を蒼白にする騎士団の目の前で、バタン、と容赦なくコンクリートの扉を閉めた。
外の騒音は、再び完全に遮断されたのだった。
お読みいただきありがとうございます!
「間に合ってます」
この一言が言いたくて、ここまで書いてきました(笑)。
クレアもすっかりレン色に染まって、頼もしい限りです。
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▼次回予告
しつこい勧誘が面倒なので、物理的に「距離」を取ることにしました。
次回、タイトル回収。「空中要塞」爆誕です!




