第1話「ハズレ枠の廃棄処分と、元素周期表」
「すべての属性に適性なし。持っているのは最底辺の『土魔法』のみ……。ええい、不愉快だ! このゴミをさっさと『処刑の草原』へ転移させろ!」
豪華な王座の間。
王冠を被った太った男の罵声と、周囲の嘲笑。
それが、俺の最後の記憶だった。
◆ ◆ ◆
頬を撫でる風の感触と、青臭い草の匂いで目が覚めた。
体を起こすと、見渡す限りの大草原。遠くにファンタジーな山脈が見える。
そして、目の前には半透明の青いウィンドウが浮かんでいた。
「……なるほど。集団転移に巻き込まれて、ハズレ枠として即廃棄されたってわけだ」
俺は前世で、理系の研究職をしていた。
過労で倒れた後のことは覚えていないが、どうやらテンプレ通りの異世界転移をテンプレ通りに追い出されたらしい。
状況を受け入れるのは早かった。まずは現状把握だ。
俺はウィンドウに表示されたステータスに目を走らせる。
名前:レン
種族:人間
職業:魔術師(見習い)
Lv:1
【保有スキル】
・土魔法(適性:極大)
【属性適性】
火:なし
水:なし
風:なし
「……うわぁ」
思わず声が出た。
火、水、風が「なし」で、土だけが「極大」。王様が激怒するのも頷ける極端さだ。
「土魔法かよ……。一番地味なやつじゃないか。火でドカンとやったり、風で空を飛んだりできないのか? これじゃあ、異世界で農地開拓でもしろってことか?」
俺はため息をつき、足元の土を蹴った。
ポス、と乾いた音がする。
その時だ。
草むらがガサガサと揺れ、体長1メートルほどの巨大な角を持った猪――「ホーンボア」が飛び出してきた。真っ赤な目でこちらを睨み、蹄で地面を掻いている。
「なるほど、これが『処刑の草原』か! いきなり戦闘イベント発生……って、装備は麻の服だけ!?」
武器はない。逃げようにも、周囲は隠れる場所もない草原だ。
俺は焦りながら、唯一のスキル【土魔法】を意識する。
(くそっ、どうする!? 土壁でも作って防ぐか? いや、あんな突進を受けたら壁ごと粉砕される!)
焦る頭の中で、前世の知識が走馬灯のように駆け巡る。
研究室。実験器具。そして、壁に貼られていた「元素周期表」。
――待てよ?
俺の動きが止まる。
猪が突進の構えに入った。だが、俺の意識は別のところに向いていた。
「『土』って、まさか園芸用の土のことじゃないよな?」
この世界の住人はそう思っているかもしれない。だから「最底辺」と馬鹿にしたのだ。
だが、現代地球の知識を持つ俺にとっては違う。
土とは、すなわち鉱物の集合体だ。
ケイ素、アルミニウム、そして――鉄。
「土魔法が『土系成分の操作』を意味するなら……できるはずだ」
俺は迫りくる猪から目を逸らし、足元の地面に手をかざした。
魔力を練り上げる。イメージするのは、曖昧な「土の塊」ではない。
土中に含まれる砂鉄。その中から不純物を徹底的に排除し、鉄原子を結びつける。
さらに、硬度を上げるために微量の炭素を均一に混ぜ合わせる。
(イメージしろ。鋳造じゃない。鍛造でもない。分子レベルでの結合だ!)
【土魔法・物質生成】!
「ブヒィィィィン!」
猪が地面を蹴り、砲弾のように突っ込んできた。
その鼻先が俺に届く直前。
ジャリッ!
足元の土が渦を巻き、俺の右手に収束した。
瞬時に形成されたのは、一振りの「剣」だった。
装飾も何もない、無骨な暗灰色の剣。
だが、その刀身は、この世界のどんな名工が打った剣よりも、緻密で、滑らかで、冷徹な輝きを放っていた。
俺は出来上がったばかりの剣を、無造作に横へ薙ぎ払った。
「――え?」
手応えが、なかった。
空振ったかと思った。
だが。
俺の目の前を通り過ぎようとした猪の体が、鼻先から尻尾まで、綺麗に上下にずれた。
遅れて、鮮血が噴水のように舞い上がる。
ドサッ、と二つになった肉塊が地面に転がった。
猪は自分が死んだことにすら気づいていないような、間の抜けた顔をしていた。
「…………」
俺は自分の手の中にある剣を見つめる。
刃こぼれ一つない。血すら付着していない。あまりにも表面が滑らかすぎて、液体が留まることすらできないのだ。
俺が今作ったのは、ただの鉄剣ではない。
不純物を極限まで取り除き、炭素量を完璧に調整した「超高純度炭素鋼」の剣だ。
「……これ、切れ味の設定ミスったな」
俺は頬を引きつらせながら、誰もいない草原で呟いた。
最底辺のハズレ枠だと追放された俺の【土魔法】は。
どうやら、とんでもない「物理チート」の入り口だったらしい。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「理系知識×土魔法」という、ありそうでなかったチートで無双していく物語です。
ここから主人公の快進撃と、快適すぎるスローライフが始まります!
もし「続きが気になる!」「主人公のチートをもっと見たい!」と思っていただけましたら、
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▼次回予告
街へ出たレンが、自作の剣をギルドで鑑定。
「その辺の土で作った」と言ったら、鑑定士が腰を抜かして……?
お楽しみに!




