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第5話 魔法?使えないらしい

お読み頂きありがとうございます!

 私は激怒した。


 かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の皇帝を除かなければならぬと決意した。

 私には政治が分からぬ。


 お父様から魔法に付いて色々と聞かされた私は、少しばかりやさぐれていた。

 激怒はしていないし、別に皇帝を除こうとも思っていないが。

 なんでもアントワネット公爵家は魔法を使えない――英雄の血統に連なっていない貴族であると言うことだ。


「すまないね、マミ……本当は君が大人になってから言おうと思っていたのだが……」


 目の前には申し訳なさそうに(こうべ)を垂れるお父様の姿。

 あまりに痛々しく感じられて居心地が悪い。

 普段、家族が集まる大部屋の空気はとても重いものになっていた。


「でもお父様、この国の皇帝……陛下は魔法が使えるのでしょう? その公爵家ともなれば血を受け継いでいてもおかしくないのではありませんか?」


「そうなのだが、我が家から皇帝へ嫁いだ者はいるが、こちらへ降嫁されたことはないのだよ」


「マミちゃん、ごめんなさいね。古くから続く由緒ある血統の貴族家なのだけれど、何故か魔法は使えないの」


 お父様やお母様が悪い訳ではないので責めるつもりもないし、しゅんと落ち込んだ表情をされると私は申し訳なく思った。


「我が家は公爵家でありながら魔法が使えない、無魔貴族と呼ばれて馬鹿にされておるのだ……」


 でもそっかぁ。

 魔法が使えないのかー。

 残念だなー。

 貴重なファンタジー分が摂取できないじゃないか。


「これを機に話しておこうか。我が公爵家は隣国ニールベーグ王国との戦争で武功を上げ領土を賜ったのだ。そしてこの領都ルイズに面する大湖に繋がる水運を利用して大きな利を生み出した。ネス湖から流れる川は各地に枝葉を伸ばしているからな。様々な場所へ輸送できる」


「そうなの。それで五代前に皇帝へ女子が嫁いでから公爵家となって帝室と太いパイプを持つようになったのね」


 なるほど、そうだったんだ。

 やっぱり水利を抑えることって重要なんだな。

 でも今後、私はどうなっちゃうんだろ。


 英雄の血に連なるでもない金持ち貴族令嬢に待ち受けるのは――


「私はずっとこの家で穏やかに過ごしていたい……」


 私が言わんとしていることに気付いたのか、お父様とお母様の目からハラハラと涙が零れ落ちている。

 室内にいる侍女たちもどこか沈痛な面持ちをしている者が多い感じだ。


「マミは本当に聡い()だね。すまないね……」


 お父様は優しく私を抱き寄せた。

 もうすっかり情が移っているのだ。

 私も釣られて泣いてしまいそう。


 その刻――自称神の声が耳に届いた。


『そろそろ現実に気付きましたか? 私ならどうにかして差し上げられますが』


 どうにかってどーするのよ。

 あんたが貴族令嬢にしたってんなら責任取りなさいよ!

 神だってんならお父様とお母様たちも一緒に救ってよ!


 心が悲鳴を上げる。



 だが――



 いや、神などいないんだ。

 それにこの世界が夢だろうが現実だろうが関係なんてない。

 今見えている私の未来は私が切り開く。


 ―――


 そう思ってから私は領政に絡み始めた。

 とは言っても現実みたいに働き過ぎないようにだけどね。


 まずは財政の整理からだ。

 このアントワネット領を強くしていこう。


「あー私って結局はいつも働いてないと不安なのかもね」


 帳簿を捲りながら私は考える。

 どこかに嫁ぐ日が来るまで、家族や屋敷の皆と仲良く暮らせればいいか。

 後は本を読もう。

 知識は後から役に立つ。


 ―――


 刻は流れ――


 私は15歳を迎え、帝國内では『エルスタンの女傑』と呼ばれるようになっていた。


 この帝國……のみならず世界は魔法至上主義。


 魔法のことを知ってからもどんどん知識を吸収していく内に、血統のお陰で貴族ほど魔法の恩恵を受け、血が薄かったり血自体が混じってなかったりする者には生きにくい世界だと理解させられた。


 特に平民は魔力がない。と言うか体内で練成できない。

 昔読んだ本では平民の中にも、英雄の血統を持っている者もいると書いてあった気がするが……。

 となれば魔法以外の価値観を広めることで苦しんでいる人々を救えると考えた私は、魔法に科学的な見地から踏み込むことにした。


 昔取った杵柄と言う訳よ。


 私は未だ、神など信じていない。

 魔法も神の奇跡などではなく、科学で説明が付く。



『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』



 そして神の存在も否定できると確信している。



『十分に高度な地球外の知性は、神と区別できない』



 つまり自称神は神などではなく、地球以外の高度文明による監視者であり、私の望みを叶えようと躍起になっていたのも自らのプライドから来る行動だ。圧倒的な技術力を持つ文明であるが、本質は人間と変わらない知的生命体――それが私の出した結論。


 とは言えこれはあくまで仮説であり、実は神と言う線も捨てきれないが、それはおいおい調べていけばいい。

 齢を重ねることで自称神のやったことも理解した。

 見えてくるものもあったのも確かだ。


 この世界は現実。

 それは認めようじゃないか。

 私はその科学技術をこの魔法が幅を利かせている世界で広めよう。

 そして仮説を証明してやろう。


 ―――

 ――

 ―


「お嬢様! お嬢様ったら!」

「んあ? あ、ああ……アリスかぁどしたん?」


 何となく声が聞こえた気がして目を開くと、私の顔を覗き込むアリスがいた。

 いつも通り心配げな表情で見つめてくる。


「せっかくのお茶会なんですから寝てちゃ駄目ですよ!」


 何だか夢を見ていたみたいだが……。

 夢の中で何か考え事をしていたような気がする。


「でもね。アリス。お茶会なんて面倒だと思わない?」

「そうは言われましてもですね! お嬢様も15歳! 許嫁のアルバート様もお()でなんですから……」


 アルバートと言うのはザルツトス帝國の第三皇子であり、私が8歳の時に許嫁に選ばれた男だ。

 肩より長く伸ばした金髪で碧眼の、所謂イケメンと言うヤツである。

 はいはい異世界ファンタジー、異世界ファンタジー。

 金髪碧眼とか、まさに異世界だよ。


「その皇子様は何処にいらっしゃるのかな?」

「お嬢様が『かがくぎじゅつ』の話ばかりするから席を外されましたよ……」


 全く、将来の妻の話くらい聞いてくれたったいいじゃない。

 アルバートは結構、俺様体質みたいなんだよね。


「これからは魔法だけの時代は終わりを迎えると言うのにねぇ。少しは時代の潮流ってもんを感じて欲しいわ」

「でもお嬢様はまだ実績がございませんし……あっ領地経営の手腕はかなり評価されていますけど! と言うかお嬢様は皇子殿下との会話の流れを読んで欲しいんですけど……」


 まー流れ云々はいいんだけど……そうなんだよね。

 この領地開発で領内をかなり富ませたせいで『エルスタンの女傑』と呼ばれるようになってしまったんだ。領都の東側にはかなりの大森林が広がっているので、伐採開拓して農地に変えて特産品を作るべく果実畑にした。


 例えば魔苺と呼ばれる、地球で言う苺そのものの甘い果実。

 練度の高い魔力を常時注ぎ込んで、それはもう手間暇掛けて作られる魔苺を、魔力注入なしでも栽培できるように品種改良したのが私。

 魔苺はそれはもう付きっきりで面倒をみなくちゃいけないんだけど、科学的にマギカを組み込んでして放置しても育つようにしたんだよね。

 マギカってのは要は元素のような物でいて違う性質も持っていて、昔本で読んだように体内で集中、凝縮、具現化、練成、放出なんでも出来る。

 つまり、元素でありながらその性質は可変。

 どのような形状にもなる上に、どのような性質にも変わり得る特殊な物質である。


 血統魔法に色々な効果があるように、ある条件下で同様な効果が得られることが判明したのだ。

 これはまだ公表していないし、両親にすら話していない。


 後はネス湖の周辺は自然保護区にして豊かな大自然を保持しているので、多種多様な生態系を見ることができる。

 魔物の管理はちょっと大変だけど、マギカの解明には大いに役に立ったよ。


 他には湖から流れるネイル川から水を引き灌漑を整備して稲作を始めた。

 今では米は特産品となり、貴族から平民に至るまで人気の主食になるほどに成長した。

 どうして異世界に稲があるかって?

 そりゃあ――


『いやぁあの時は大変でしたねぇ』


 だから急に出てくるな。あんたは。


「ちょっと! 毎回びっくりするじゃない!」

『どうせ貴女にしか見えてないんですからいいじゃないですかー。ホントにあの時は煽られて思わず種籾を出しちゃいましたよ』


「煽り耐性がないのよ。あんたは。それにチート能力をくれるって言ってたじゃないの」

『まぁそうなんですが。いやーでも、まさかアレでも私を神だと信じないとは思ってもみませんでしたよ』


「私の中ではあんたは自称神なのよ。所詮は地球の文明より高度な技術を持っているに過ぎないって訳」

『嫌でも信じないんですねぇ……全く強情と言うかなんと言うか』


「いつも言ってるでしょ? 私は神を信じない。いつかは原理を解明して見せるわ」


 そう。原理――私は領政だけでなく『科学技術』についても研究し続けている。

 色々と取り組んでいるのだが――


 そこへ何処かへ行っていたらしいアルバートが戻ってきた。

 私が気付いて居住まいを正すと、自称神も邪魔にならないように配慮したのか、すっと背後に回る。


 こいつでも配慮ができたのね……。


「あら、アルバート様。お戻りになられましたか」

「ああ、戻ったぞ! しかし俺が席を外したと言うのに気にも掛けんのか貴様は!」


「アルバート様? 女性を貴様などと呼ぶものではありませんわよ? せいぜいが『お前』くらいじゃないと」

「ふん。もう良いのだ。貴様はその『かがくぎじゅつ』とやらと結婚すれば良い。最早、愛想が尽きたわ! 今日限りで許嫁は解消! 結婚の話もなかったことにさせてもらおうか!」


 あらら急展開。

 これ何て異世界恋愛?

 典型的な婚約破棄かーらーのーってヤツじゃない?


 アルバートは私に指を突きつけてそう言い捨てると、踵を返してスタスタとこの場を後にした。

 私は全く動じず余裕の態度でそれを見送った。


「はわわわわわ! お、お嬢様! いいのですか!? 固まってないで動いて下さいよう」


 アリスが何やら驚いて取り乱しているが、別に私はショックを受けている訳ではない。むしろあまりにもテンプレな展開だったから、こんなことが本当に起こるんだと思ってちょっぴり嬉しかっただけなのよ。

 だってまさか現実に体験できるなんて夢にも思わないじゃない?


「いやーアルバート様もお可愛らしいところがおありで……要は仕事に嫉妬したのね」

「こんな時まで冷静に分析しないで下さい!」


 突っ込みを入れられるが本当のことなのだから仕方ない。

 要は『私と仕事、どっちが大切なの!?』ってヤツだと思うの。


「落ち着きなさい、アリス。考えてもご覧なさい。いくら第三皇子だからとは言え、帝國屈指の有力貴族に対して一方的な婚約破棄を行うなんてできると思う?」

『いやー貴女はいつでも冷静ですねぇ……』

「た、確かに……その通りかもですが……」


 私の言葉にアリスも幾分納得してくれたようだ。

 面子を潰すような真似はしないはず、そう言う目算が私にはあった。

 それに別に俺様、アルバート様な御方と結婚すると大変そうと言うのもある。

 私としては温かい家庭と言うものに憧憬はあるんだけどね。


 後はずっと研究開発してきたアイテムに目途が立ちそうだし。

 これが発表されれば世界は変わる。


 私は自覚しないまま口角を吊り上げていた。

ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日は12時の1回更新です。


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