第1話 神?そんなものはいない
新連載です。
よろしくお願い致します。
本日は12時頃に3回更新する予定です。
『神無魔魅さん、貴女は死んでしまいました! おお、死んでしまうとは不甲斐ない!』
最悪の目覚めだった。
状況が全く理解できなかったんだけど、目の前には純白のローブのようなものを身に付けた変人がいた。立ち姿は美しく、ウェーブがかった金髪に蒼い目、端整な顔立ちと見た目は悪くないのだが……。
そいつが何かほざいたんだよ。
当然、何言ってんだこいつは?ってなるよね。
「は?」
だから私の第一声はこれ。
思わず威圧しそうになったほどだ。
『いやいや、ですから貴女は死んじゃったんですよねぇ。だから天界へ呼ばれたって寸法です』
思わず眉間を押さえて考えてしまった。
てんかい?
てんかいとは?
周囲を見渡すと確かに何だかよく分からない真っ白な空間だ。
遠近感も何もないし、奥行きの感覚すらないおかしな場所。
でもありがちと言えば、ありがちよね。
目の前のやたらキラキラとしたエフェクトを纏っている男は、その長い金髪をふさぁっとダイナミックに掻き上げる。
そこでようやく私の様子がおかしいことに気付いたご様子。
『だからここは天国なんですよ。それで私は神です。OK?』
「何を言ってるんだあんたは」
全く持って意味が分からない。
言うにこと欠いて神?
そう言うのはフィクションの中だけの話。
冗談はほどほどにして欲しいもんだわ。
神、そんな者はいない。
そんなヤツがいたらもっと世の中マシだったでしょーがよ。
『うーん。時々いるんですよねぇ……自分の死を受け入れられない方が……』
「いや別に死んだのはいいんだけど」
『えっいいんですか!?』
いや良いか悪いかで言われたら、まぁどっちでもいいとしか言えない。
特段、未練があった訳じゃなし。
いや、科学技術を極められなかったのが僅かばかりの心残りかな?
家族に何もかもを否定され、虐待されて過ごした幼少期。
心が痛かった思い出しかなくて、大人になった今でもトラウマが甦る日々。
自分が傷付いた分、他人に対しては決してそんなことはすまいと誓い、出来得る限り優しく時には厳しく面倒を見て来たつもりだ。
私が一向に口を開かないことに焦れたのか、自称神が仕方ないと言ったような態度で話し始めた。
『貴女は過労死したんですよ。大変でしたねぇ……残業時間400時間。無能な上司からの理不尽な叱責から部下を護るために奔走した上に研究まで手伝う始末……これはもうお人好しの局地ですわ。スキルで【お人良しの極意】とか授けたいレベルですよ』
変人の自称神が、なんか心当たりがあることを言っている気がするが、『すきる』って一体なんだろう。
あ、スキルかな?
異世界ファンタジー好きな私としたことがうっかりしちゃった。
「ほーん。私死んだんですね。まぁ好きでやってた部分もあるし。そうですか、じゃあそれでは!」
自称神が何か言っているが私には関係ないので考えるのを止めた。
取り敢えずお家に帰ろう。
話はそれからだ。
踵を返してスタスタと歩き出すと、慌てた感じでまたまた声を掛けられた。
『ちょいちょいちょい! 待ってくださいよ! 『それでは!』じゃないんですよ! そんなキリッとした表情しないでくださいよ!』
「いや、だってもう終業時間とっくに過ぎてるし流石にそろそろ帰らないと」
いくら私が科学技術中毒者とは言え、流石に七徹はキツい。
たぶん死ぬわね。
『だーかーらー! 貴女は死んだんですって。覚えてないですか? 仕事を手伝ってる最中に意識を失って今際の際に『まぁ悔いはない……願わくば来世は……』とか考えてましたよね!?』
「いや、正確には『まぁ悔いはない……願わくば来世は……いや、そんなものないのにな……私としたことがらしくない……』ですね」
『覚えてるじゃないですかーやだー!』
しれっと訂正した私に自称神が突っ込みを入れてくる。
面倒なヤツもいたもんだ。
思わずため息が漏れる。
『話が進まないのでいいですか? 貴女は人の痛みを知る情の深い女性です……そんな方が死んでしまうなど世界の損失ッ!! そこで貴女にはチートな力を授けて異世界に転生して頂こうと思いまして呼び出したんですよ』
めげないな……こいつも。
と言うかチートかー。
これまた異世界ファンタジーの定番を持ってくるなこいつ。
思わず私は可哀そうな目で自称神を見つめてしまう。
だって現実と妄想の区別がついていないのだから……。
となると私の答えは決まっている。
「いえ、そう言うのはいいんで」
拒否だ。徹底的にッ断固拒否するッ!
こんな怪しいどこぞのカルトかキャッチかは知らないが、引っ掛かるほど私は馬鹿じゃないし。
『そんなぁ!? 私たちの出番なんて最初くらいしかないんですから! 助けると思ってぇぇぇ!!』
「あ、じゃあ私は帰るんで」
私の足元に縋りつく、半泣き顔の自称神。
『せっかく素晴らしい器を持ってるんです! もったいない!』
「器ぁ? まぁいいか……んじゃ帰るんで」
『何度も何度もしつこいですよ!』
あんたがな。
そう言えば出口はどこだろう。
キョロキョロと辺りを確認するが、やはり白い空間が広がるばかりでそれらしいものは見つからない。そんな様子が可笑しかったのか、不敵な笑みを浮かべて何やら胸を張って自慢げな態度を取り始める自称神。
『ふっふっふ……ここからは出られませんよ? これで信じたでしょう! 神の存在を!』
「なんだ夢か……久しぶりの休養だしね。たまには変わった夢もいいかもね」
地面に転がってみると意外と床が柔らかい。
まるでふかふかのカーペットのような感触でとても寝心地がいい。
夢の中で寝るのも一興だろうしね。
そして私の意識は薄れていった。
―――
――
―
「んあ……? あれ? まだ夢の中かな……もっかい寝るかぁ」
目が覚めたと思ったらまだ夢の中にいた。
何を言っているか分からないと思うが、私にも分からなかった。
『くぉらあ! もういいです! いいですよ! ふっ貴女が信じないと言うのなら信じさせて差し上げましょう……』
そこには荒ぶる自称神がいた。
目を吊り上げて怒りを露わにしているがちっとも怖くない辺り、良い人ではあるのだろう。
と言うかまだいたのか……。
私がもう1度眠りにつくべく目を閉じようとすると、自称神は自棄になったように叫び出す。
『ええい! サービスしちゃうぞーーー!! 強制的に転生させちゃいますからね! 私は! 貴女が信じるまで! チート能力を与えるのを止めない!』
その言葉を聞いた瞬間、私の意識は遠のいていく。
ああ、夢なんだから良い夢だといいな……。
家族に愛されて仲良く暮らして……後はそうだな、しばらくは研究開発に追われずにまったりと過ごしたい。
そう言う夢が……。
これが私に自称神がストーキングを始めるきっかけだった。
ありがとうございました。
また読みにいらしてください。
明日は12時の1回更新です。
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