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「K」  作者: フィジ05
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第4話 炎の支配者

《1. 届かぬ記憶》


 千葉県の刑務所、屋外作業場。佐藤悠斗さとう ゆうとは、監視員の目を盗んでポケットに隠した娘・あおいの写真を見つめていた。

 8歳の葵が花火を手に笑う姿。3年前、隣家の一家殺害事件の冤罪で死刑を宣告され、妻・美咲みさきと葵と離れ離れになった。あの夏、葵と約束した花火大会の記憶が、悠斗の心を突き刺す。


 秋葉原での戦いから1日。鏡を操るKが残した「本性を映す」という言葉が、悠斗の頭を離れない。Kへの変身が自分を侵食している不安が募る。

 K特課の主任・黒川誠くろかわ まことの「核心に近づいた」という言葉も気になる。釈放への希望か、自分の力の秘密か? 葵との記憶が、遠く感じる。


 作業場のスピーカーから、調査チームのリーダー・林美穂はやし みほの声が響いた。


「佐藤さん、緊急任務! 東京湾の工業地帯で新たなKが確認されました!」


 悠斗は写真をしまい、目を鋭くした。


「また自我を持つやつか?」


 林が駆けつけ、タブレットで映像を見せた。東京湾の倉庫街、炎に包まれた一角。赤い炎をまとう人型のKが、鉄骨を溶かし、隊員を追い詰める。炎は蛇のようにうねり、意志を持つ。


「自我を持ち、炎を操ります。K特課の前線部隊が壊滅状態です」


 悠斗の胸がざわついた。炎を操るK? 自我を持つ敵の能力が異常さを増している。


「黒川は?」


「主任は本部で『Kプロジェクト』の調査中。私が指揮します」


 林はデバイスを渡し、言った。


「佐藤さん、主任が…『これを成功させれば、釈放交渉が本格化する』と」


 悠斗はデバイスを握りしめた。


「葵との約束を守る。行くぞ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


《2. 東京湾の戦場》


 深夜2時、東京湾の工業地帯はK特課によって封鎖されていた。炎の残響が倉庫街を赤く染め、焼け焦げた鉄の匂いが漂う。隊員たちがライフルを構えるが、銃はKに効かない。希望は悠斗ただ一人だ。


 林の声が通信機から響く。


「佐藤さん、Kは倉庫C-3にいます。民間人は避難済みですが、炎の範囲が広がっています。冷却剤を用意しましたが、効果は未知数です」


 悠斗はデバイスを握りしめた。黒い金属の冷たさが手に伝わる。心臓が早鐘を打つ。葵の笑顔を思い出し、深呼吸を一つ。デバイスを首に押し当て、ボタンを押した。


 焼けるような痛みが全身を駆け巡る。身体が膨張し、筋肉が異様に発達。爪が鋭く伸び、目が赤く輝く。Kとしての姿――純粋なパワーとスピードが極限まで高まった怪人へと変身した。


 倉庫C-3に飛び込むと、Kが悠斗を見据えていた。人型だが、全身から赤い炎が立ち上り、蛇のようにうねる。赤い目が悠斗を捉え、低く響く声。


「Kか。私の炎で灰になれ」


 悠斗は地面を蹴り、距離を詰める。


「人を傷つける理由は? 答えてみろ」


 Kは唇を歪め、炎を爆発させる。


「理由? ただ燃やすのが私の存在だ!」


 炎の蛇が倉庫を突き抜け、鉄骨を溶かす。悠斗は咄嗟に跳び上がり、炎を回避。爆風が壁を砕き、瓦礫が飛び散る。


 林の声が通信機から響く。


「佐藤さん、炎は意志を持ってる! 冷却剤の隙を狙って!」


 悠斗はスピードを全開にし、炎の蛇をかわす。Kが新たな炎を放つと、倉庫が爆発的に燃え上がり、熱波が悠斗を襲う。

 悠斗は瓦礫を盾にし、Kの懐に飛び込む。拳を振り下ろすが、Kは炎の壁を展開し、攻撃を弾く。


「その程度か?」


 Kが嘲笑う。炎が悠斗の腕を焼き、激痛が走る。


「葵との約束…守る…!」


  悠斗は歯を食いしばり、冷却剤タンクを蹴り飛ばす。蒸気がKを一瞬包み、炎が弱まる。悠斗はタンクを掴み、Kに叩きつける。Kがよろめく隙に、首にデバイスを突き刺した。


「終わりだ!」


 デバイスが作動し、ウイルスが吸い出される。Kは悲鳴を上げ、炎が消え、身体が乾いた粘土のように崩れ始めた。崩れる直前、Kが吐き捨てた。


「力は…お前を灰にする…」


数秒後、焼け焦げた人間の死体が残っていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


《3. 戦いの傷跡》


 K特課の隊員たちが現場を封鎖。悠斗は人間の姿に戻り、焼けた腕を押さえて倉庫の外に倒れ込んだ。林が駆け寄り、応急処置を施しながら叫んだ。


「佐藤さん、無事で…! あの炎、誰も近づけなかったのに!」


 悠斗は荒い息で言った。


「林、あのK…『灰にする』って。俺の力、どこまで安全なんだ? 黒川は何を知ってる?」


 林は一瞬目を逸らし、静かに答えた。


「主任は…あなたの力のデータに異常を見つけたって。『Kプロジェクト』の核心に関係してるかも」


 通信機から隊員の声。


「林リーダー、主任から緊急連絡! 佐藤を本部に! 『Kプロジェクト』の証拠が揃った!」


 悠斗は立ち上がり、林を鋭く見つめた。


「証拠? 釈放か? それとも俺が…危険な存在になるってことか?」


 林は目を合わせ、言った。


「主任が全て話すって。佐藤さん、葵ちゃんのために…私も戦うよ」


 独房に戻り、悠斗は葵の写真を手に取った。焼けた腕が疼く。Kの言葉が頭を離れない。


「力は…お前を灰にする」


 自分の力が本当に葵を守れるのか? 黒川の「証拠」とは何か? 希望か、奈落か?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


《4. 迫る真相》


 K特課本部、分析室。林美穂が暗号化された通信ログを解析していた。


「主任、今回のKのデバイスに、佐藤さんのDNAデータへのアクセス記録が…まるで誰かが彼の力を意図的に試してる」


 黒川はモニターを見つめ、呟いた。


「Kの進化は制御されている。佐藤悠斗の力…その秘密が『Kプロジェクト』の鍵だ。彼をどこまで試すべきか…」

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