表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「K」  作者: フィジ05
3/6

第2話 知性の怪物


《1. 新たな脅威》


 千葉県の刑務所、独房。佐藤悠斗さとう ゆうとはベッドに座り、娘・あおいの手紙を握りしめていた。


「パパ、早く帰ってきてね。公園でまた一緒に遊ぼう」


 8歳の娘の拙い文字が、悠斗の心を温め、締め付ける。3年前、隣家の一家殺害事件の冤罪で死刑を宣告され、妻・美咲みさきと葵と離れ離れになった。月に一度の電話で聞く葵の声が、彼の生きる希望だった。


 3日前、千葉の廃倉庫での初戦。Kとの戦いで勝利を収めた悠斗は、K対策特務課――通称「K特課」の信頼を勝ち取った。

 だが、Kの恐ろしさも実感していた。銃弾を跳ね返す皮膚、鉄骨をへし折る力。そして、自分もまた同じ怪物になるのだ。背筋が冷える思いだった。


 鉄格子の向こうに、K特課の主任・黒川誠くろかわ まことが現れた。スーツ姿の彼は無表情だが、目には緊張が滲む。


「佐藤、新たなKの目撃情報だ。今度は一筋縄ではいかない」


 悠斗は立ち上がり、眉をひそめた。


「どういうことだ?」


 黒川はタブレットを取り出し、監視カメラの映像を見せた。深夜の新宿歌舞伎町、雑踏の中を縫うように動く人型のK。

 黒い霧のようなオーラをまとい、異様に長い腕がうねる。街灯を一振りで叩き折り、逃げ惑う人々を追う姿が映っていた。


「こいつは…自我を保っている可能性が高い」


 悠斗の胸がざわついた。初戦のKは獣のように本能で動いていた。だが、自我を持つKは知性と戦略を持つ。戦いは遥かに危険になる。


「どんな能力を持ってる?」


「まだ不明だ。だが、自我を持つKは特殊な能力を持つケースが多い。慎重に動け」


 黒川は黒い金属製のデバイスを手渡し、付け加えた。


「成功を重ねれば、釈放の可能性が高まる。娘に会いたいんだろ?」


 悠斗の目が鋭くなった。


「葵のためなら、どんな敵でも倒す」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


《2. 歌舞伎町の戦場》


 深夜0時、新宿歌舞伎町はK特課によって封鎖されていた。ネオンの光が薄暗い街を照らす中、装甲車が周囲を固め、隊員たちがライフルを構える。

 だが、誰もが知っていた。銃はKに効かない。頼みの綱は悠斗ただ一人だ。


 K特課本部の作戦室から、調査チームのリーダー・林美穂はやし みほが通信機越しに指示を出す。


「佐藤さん、Kは歌舞伎町の中心、飲食店街にいます。民間人は避難済みですが、建物への被害を最小限にしてください」


 悠斗はデバイスを握りしめた。USBメモリに似た形状、ボタンを押すと鋭い針が飛び出す。黒い金属の冷たさが手に伝わる。

 心臓が早鐘を打つ。葵の笑顔を思い浮かべ、深呼吸を一つ。デバイスを首に押し当て、ボタンを押した。


 焼けるような痛みが全身を駆け巡る。身体が膨張し、筋肉が異様に発達。爪が鋭く伸び、目が赤く輝く。

 Kとしての姿――純粋なパワーとスピードが極限まで高まった怪人へと変身した。


 飲食店街に踏み込むと、Kが悠斗を見据えていた。黒い霧のようなオーラが揺らめき、長い腕が不気味にうねる。赤い目が悠斗を捉え、低い声が響いた。


「ほう…お前もKか。面白い」


 悠斗は驚いた。声。自我の証だ。


「何者だ? なぜこんなことをする?」


 Kは金属を擦るような笑い声を上げた。


「知る必要はない。だが、味わうがいい…私の闇を!」


 瞬間、Kの周囲から黒い霧が爆発的に広がり、視界を奪った。闇の中で腕が鞭のように襲い、悠斗は咄嗟に跳び上がる。霧が地面を侵食し、アスファルトが溶けるように崩れる。


「なっ…!」


 林の声が通信機から響く。


「佐藤さん、そのKの能力は黒い霧! 腐食性があるようです、近づかないで!」


 悠斗は歯を食いしばり、スピードを全開にした。霧の中を突き進み、Kの位置を感覚で捉える。

 拳を振り下ろすが、Kの腕が分裂し、複数の触手のように伸びてきた。触手がビルに突き刺さり、ガラスが砕け散る。

 悠斗は触手をかわし、Kの懐に飛び込む。拳がKの胸を捉え、鈍い音が響く。


 Kは後退したが、すぐに霧を濃くし、触手を振り上げた。悠斗の肩を切り裂き、血が飛び散る。痛みに顔が歪む。


「葵に…会うんだ…!」


 悠斗は娘の顔を思い浮かべ、痛みを押し殺した。霧が薄れる一瞬の隙を見つけ、Kの首にデバイスを突き刺した。


「これで終わりだ!」


 デバイスが作動し、ウイルスが吸い出される。Kは悲鳴を上げ、身体が乾いた粘土のように崩れ始めた。だが、最後にKが呟いた。


「お前も…いずれ…飲み込まれる…」


 数秒後、そこにはやせ細った人間の死体が残っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


《3. 戦いの後》


 K特課の隊員たちが現場を封鎖。悠斗は人間の姿に戻り、肩の傷を押さえた。林が駆け寄り、応急処置を施す。


「佐藤さん、無事でよかった…! あのK、自我がある上に腐食性の霧を操るなんて…」


 悠斗は息を切らしながら言った。


「あいつ…何か知ってた。『飲み込まれる』って…何だ?」


 黒川が近づき、短く答えた。


「それは我々も追っている。よくやった、佐藤。自我を持つKを倒したのは大きい」


「釈放…どれくらい近づいた?」


  悠斗の声にはかすかな希望が滲む。


「一歩前進だ。だが、道は長い」


 黒川の無表情な答えに、悠斗は唇を噛んだ。独房に戻り、葵の手紙を読み返す。


「パパ、大好き」


 涙が滲む。Kの言葉が頭を離れない。


「飲み込まれる」


 黒幕の存在か? Kの真実か?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


《4. 深まる陰謀》


 K特課本部、分析室。林美穂が暗号化された通信ログを解析していた。


「主任、デバイスは大阪と東京の黒市場を経由して広がっています。『Kプロジェクト』という言葉が頻出しますが、発信元はまだ…」


 黒川はモニターを見つめ、呟いた。


「自我を持つKが現れた。こいつらはただの怪物じゃない。誰かが意図的に生み出している。佐藤悠斗が鍵になる」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ