トランプはしない
目が覚めた。ぴぃぉぴぃぉ、といつも聞いてるけど名前は知らない鳥の声がする。
「んぅー」
ぐぅ、と伸びをする。父と話して、すっきりしたのでよく寝られた。今日は土曜。幼稚園は午前だけ。2000年代なら週休二日制なのに。……まぁ毎日行くよりはマシか。
そんなことを考えていても仕方ないので、布団をばさりと横に除けた。湿気が篭もらないように裏返しておく。終わりかけとはいえ、今は梅雨。湿気てはいけない。
「おなかすいた」
朝ごはんは恐らく、いつも通りご飯とお味噌汁におかず少々だろう。たまにはパン食べたい。フランスパンにすりおろしニンニクとオリーブオイルで、ガーリックトーストしたい。和食としての完成度は高いんだけどさぁ、やっぱりガッツリしたのが食べたい時はあるよね。
「おはよっ、おにーちゃ!」
「おはよー」
部屋の扉を開けると、兄も起きたところだった。兄の頭が凄いことになってる。兄の、というか私もだけど、髪の毛が細いのですぐ寝癖がつくのだ。その代わり水をつければすぐとれるけど。
「そういえばね、おにーちゃ、よる、おはなつみにいったとき、ぱぱがおきてて、ろんぶんかいてた!」
「家に居るときは、いっつもそうだよ。」
雄助の父さんも志朗の父さんも、休日はキャッチボールしてくれるのにさ。そう言って兄は溜息をついた。あー、それは辛いね。
「もしかしたら、ぱぱ、うんどう、にがてなのかも。」
「だとしても、トランプくらいはしてくれてもいいだろ。ずーっとだんまりでさぁ。」
ごめんね昨日の夜ちょっと喋った。
……父、あんまり得意じゃ無いんだろうな。子供の相手が、というだけでなく、人と接するのが。コミュ症なんだろう、きっと。父自身も親と遊んだことなんて無さそう(推測)
だし。そもそも人間にあんまり興味無い、というか期待してない?気がする。
「トランプ、あとでする?」
「栞ちゃん、数字分かるの?」
「わかるよ!なにがしたいの?」
兄が沈黙してこちらを見た。かなり胡乱げな目をしている。……しまったトランプできる三歳児は不気味か?でも、母と二人でトランプはけっこうしんどくない?二人じゃ、できるのなんて限られてるよね。うーん。
「できるもん!」
とりあえず、意地を張っているとでも見えるように、言い張って誤魔化すことにした。うるうる、とした目で見上げる。
「……トランプタワーでも作ろっか。」
ぶりっ子した甲斐があり、幼児の戯れ言として流されたようで、よしよしと兄に頭を撫でられた。いい子だね、兄は。めんどうみが良くて。
「ご飯よー」
母が呼ぶ声がした。いつの間にか長々と話しすぎたようだ。
「「はーい」」
まぁ、この家族も悪くないなって、ふと思えた。