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兄の帰還(公園から)

四歳上の兄が公園から帰ってきた。4歳上っていうか、兄は4月生まれで私は三月生まれなので、実質五歳差の四学年差だけども。

兄はサッカー選手になりたいっていってる。名前ともあってて、良いんじゃ無いかな。叶うかどうかは知らんけど。まぁ信じない夢は叶わないっていうし、夢見る権利くらいはあるでしょ、子供だし。


「ただいまー!え、お父さん!?帰ってたんだ!」

「あぁ。」


兄も目を丸くしてるよ。どんだけ家に帰ってないんだ父。


「もうご飯出来てるわよ。早く手を洗いなさい。」

「うん!」


私が生まれてから初めての家族四人での食事が始まった。いや、いくらなんでも初めてって……。そんなことある?いや今実際そうなんだけど。


「「「「いただきます」」」」


私は味噌汁に手をつけた。ワカメと豆腐、揚げがはいったごく普通の味噌汁だ。母はわりと育ちが良いのか、上品な味付けのTHE・和食を好む。作って貰っといてあれだけど、たまには洋食食べたい。シチューとかさ。


「それにしてもお父さん、なんで帰ってきたの?しかもこんなに早く。」


それは私も聞きたかった。


「大学の水道管が漏れてな。急遽、全体点検することになった。私の研究室の水道を初め、今の時点でいくつか不備が見つかったらしいから、工事でしばらく休みになる。」

「へー!あ、じゃあ明日土曜だし、サッカーしよ!」

「論文の執筆をするから無理だ。」

「そっ……かぁ。」


父ぃ……そんなにばっさり切り捨ててやんなよ時間くらい捻出してやれ相手は小2だぞ、と思ったけどよく見たら薄らと隈がある。これほんとに忙しいやつだ。

その後は、兄がひたすら学校やサッカーの話をしていた。算数のテストで100点とった、サッカーで沢山ゴールを決めた、クラスのかけっこで一番だった、昼休みに告白された……え!?えー……ふーん……。進んでるのね。私は前世で喪女だったのに。

兄はモテるようだ。男女問わず。いや別に腐向けタグはいらない。人気者って意味。納得はできる。4月生まれだからというのもあってか、勉強も運動もできるし。この年齢の一年は大きいからね。身内の贔屓目抜きでも顔もそれなりに整っているし、明るくて人懐っこい。むしろこれで人気が出ないほうがおかしいだろう。

母はそれを褒めている。まぁ自慢の息子だろう。ごめんね私はそうあれなくて。大きくなったら友達くらい出来るはずだからさ。父は一応、頷いてはいるけど聞いてるのか聞いてないのか分からん。私?聞いてる聞いてる。多分明日には忘れてるけど。


「ごちそうさま」


父が食器を持って立ち上がった。いきなりぶった切ってやんなよ……。


「もうお代わり良いんですか?」

「あまり食べ過ぎると頭が働かなくなるからな。まだ論文が残っているんだ。」


そうして父は、先に食事を終えた。

んー……。んー……?


「翼も栞も、ああいうのはね、まねしちゃだめよ?ほんとは一人だけご飯を先に終わらせるなんて、とってもお行儀悪いんだから。」


心を推し量るのが得意じゃない私でもわかるくらい、母の言葉には棘が含まれていた。食卓の気温が一気に下がった気がした。思わず兄と顔を見合わせる。


「「うん。」」


逆らっていいことなんてないし、お行儀よく頷いておく。


「ほんとにお父さんは……。あのね栞、お父さんはあんな、勉強できるほうがいいみたいなこといったけどね、あんまり女の子がお勉強するもんじゃないのよ。男より勉強が出来るなんて、可愛げがないって思われるわ。もっとちゃんと愛想よくしないと、お嫁に行けないわよ。」

「あいそー?」


言葉が分からないふりをして首を傾げる。また長々と、と思う。

ちゃんと、ってなんだよ。そんなことで可愛げがないって思う程度の学力の男なんて、こっちから願い下げだし。そもそも私に結婚願望は無いんだわ。恋人くらいならともかく。子供はまぁ、一人くらいなら?

そんなあれやこれやを、心の底に押し込める。分かってるよ、母に悪気が無いことは。母の考え方がこの時代のスタンダード。けどなぁ。知らんよそんなこと、と言いたくなる。口には出さんけど。


「とりあえず、もっとちゃんとニコニコ可愛くしてなさい。お友だちともちゃんと遊びなさい。」


私、ちゃんとって言葉、嫌い。


「はーい」


思ってることを飲み込み、子供らしい元気な返事をした。

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