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三滝家別邸


さてやって参りました三滝家別邸、with父&兄。なんかこう、凄く豪邸。私達が普段住んでいる所が本家らしいから、ここが別邸。……別邸ってなんだったっけ。なんかこう、和風。苔むした岩とかがごろっとしてる。多分秋は紅葉が綺麗。

でも、今は冬。うっすらと雪が積もっていて、静まり返っている。これはこれで美しい。父と繋いだ右手をぎゅっと握り、無言で前を歩く祖母の背中を見つめた。未だ兄との関係が修復されてないのに、さらに家庭環境がややこしくなるなんて。


いかにも気に入らないというように見てきた眼が忘れられない。そんなに公立小学校に入るのが嫌か?

門を潜ってから五分くらい。やっと玄関が見えてきた。遠いよ。

玄関には和服姿の初老の女性が立っている。


「お帰りなさいませ、大奥様、旦那様、若様、お嬢様。」

「ただいま帰りました、菊乃さん。」


菊乃、と呼ばれた女性が静かに玄関扉を開けた。そのまま邸宅の中に入る。祖母が上に羽織っていたショールを菊乃さんに手渡す。父も上着を渡したので、私もそうした。うーん、家ではしないけど、ここではこうするのが自然だな。

私たちはそのまま応接室に入った。火鉢があり、ちろちろと炭が燃えていた。そして上座には老紳士が一人。父が老けたらこんな感じになるだろう、というような……つまりこの人が私の祖父だな。杖を横に置いているから、足が悪いんだろう。


「お久しぶりです、父上。」


……父上!?驚いて父を見る。父、そんな呼び方するんだ。


「まぁ、座りなさい。」


ふかふかの座布団を示される。正座か……苦手なんだよな。まぁ正座するけど。

祖父、祖母、父、私が全員席についた所で、お茶とお菓子が出された。抹茶っぽいのと、和菓子。こんなところまで和風で格式高い。急にポテチ食べたくなってきた。


「父上、母上、こちらが娘の栞です。……栞、自己紹介しなさい。」

「三滝栞です。どうぞ、よろしくお願いいたします。」


前世、就活の時に学んだ礼儀作法を頭から引っ張り出しながら、出来るだけ上品に頭を下げる。


「わたくしは三滝文子です。

……挨拶は出来るようですね。三滝の名に恥じぬよう、これからも努々、精進を忘れてはなりませんよ。翼さんもお久しぶりですね。」

「僕は三滝俊之だ。よろしく、栞さん。」

「お久しぶりです、お祖父様、お祖母様。」


……うへぇ、まだ自己紹介しかしてないのに帰りたくなってきた。三滝家(うち)が名門だってのも最近知ったばっかりなのに。というか、兄もああやって、お祖父様お祖母様って呼ぶんだな。


「徹さん。翼さんから聞きましたが、栞さんを公立小学校に通わせるとは事実ですか?」

「はい。」


兄ぃぃいいい!!!チクったのはお前か!隣に座る兄をみる。兄は相変わらず無表情で、こちらを見なかった。


「何を考えているのです!?栞さんは三滝家の娘ですよ!?」

「栞のためです。」

「何故!?しかも、もう六歳にもなろうというのに茶道も華道も和歌も書道も習っていないなど……!」


激高する祖母とは裏腹に、父はどこまでも冷静だった。

しかし、祖母とは気が合いそうにないな。私は理系なので、芸術系の習い事に興味が無い。べつに茶道とかを否定するわけじゃないけど、出来ないと三滝沢橋の名前に傷がつく、なんて理屈は理解できない。

そこまで考えて、気付いた。これ、父も同じだ。父、祖母のこと、苦手だな?


「栞には、ITの才能がありますから。」

「だから何だというのです!?将来働かせて三滝の恥を晒すつもりですか!?」

「私は、栞が働くのが恥ずかしいとは思いません。」

「な、ぁ……!」

「結婚し、家を盛り立てるのは翼や美香子でも出来ますが、これからのIT業界を発展させるのは栞にしか出来ません。」


しん、とその場が静まる。美香子ってだれ、とか言えない雰囲気。

にしても父、そんなに私のこと評価してくれてたんだ。20で只人、みたいにならなきゃ良いけど。


「三滝家の当主は既に私です。そして、栞は私の娘です。ですから、栞の教育に母上が口出しする権利はございません。本日はそれを申し上げに来たのです。」


う……わ……父……。私からすれば凄く頼もしいけど、祖母、凄い顔色だよ……。赤を通り越して黒くなってる。そのまま祖母は、ぱくぱくと口を開け閉めする。


「そう、ですか……!」


ギリィ、と歯を食いしばる音がした。えー、こっっわ。まぁしゃーなし。これからどんどん時代は変わる。祖母がこのまま、家名に固執するのか変わるのかは知らないがまぁ、ほどほどにやってくれ。私の居ないところで。







美香子は妹。

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