第3話 初回訓練は地獄だった
翌朝。城の訓練場。
石造りの広いスペースに、木製の人形や的が並んでる。これで初めてのチーム訓練か。不安しかない。
「おはようございます、タナカ様」
ルナが爽やかに挨拶してくれる。白いシスター服が朝日に映えて美しい。清楚。本当に清楚。こんな子を戦場に連れて行くなんて、心が痛む。
「おはようございます」
「今日はどんな訓練を?」
期待に満ちた瞳。責任重大だ。
「まずは基本的な連携から」
具体的なプランは?ない。まったくない。
「よお、勇者」
ガルスがやってきた。でかい。改めて見ると、本当にでかい。身長190センチはある。筋肉の塊だ。こんな人が暴走したら?考えるだけで恐ろしい。
「おはようございます」
「で、何をするんだ?」
「連携訓練です」
「連携?」
ガルスが首をかしげる。
「協力して戦う練習です」
「ふーん」
興味なさそうだ。この人、チームプレイの概念あるのか?
「おはようございます!」
レインが颯爽と登場。決まってる。歩き方から何から、すべてが決まってる。絶対に鏡の前で練習してる。
「今日は僕の実力をお見せできますね」
自信満々だ。根拠のない自信。営業でよく見るタイプ。
「まずは、それぞれの能力を確認しましょう」
とりあえず現状把握から。
「ガルスさん、剣の技を見せてください」
「おう」
ガルスが剣を抜く。重そうな両手剣。振り下ろす。
ズガン!
木製の人形が真っ二つ。うわ。威力がやばい。
「すげー」
思わず声が出た。
「当然だ」
ガルスがドヤ顔。でも、動きが荒い。力任せだ。
「レインさんもお願いします」
「はい!」
レインが弓を構える。的を狙う。集中してる。
パシュ!
矢が飛ぶ。的の外側。え?
「あれ?」
レインが困惑してる。
「風が……風のせいです」
言い訳が始まった。
「もう一度お願いします」
「はい!」
今度は気合十分。パシュ!また外れた。的にすら当たらない。
「おかしいな……」
レインが焦ってる。ガルスが呆れ顔。
「おい、お前本当に天才か?」
「僕は天才です!今日は調子が悪いだけです!」
典型的な言い訳。営業でも聞き飽きた。でも、責めるわけにはいかない。
「大丈夫です。練習すれば上達します」
「ありがとうございます!」
レインが感動してる。
「さすが天才軍師!僕を理解してくれる!」
理解してない。全然してない。ただフォローしただけだ。
「じゃあ、連携練習を」
「連携って何をするんだ?」
ガルスが聞く。
「えーっと……」
具体的なプランがない。営業でも連携なんてしたことないし。
「まず、意思疎通から」
適当に言った。
「意思疎通?」
「合図とか、声かけとか」
「ふーん」
ガルスが興味なさそう。
「僕はわかります!戦術的な連携ですね!」
レインが手を上げる。戦術?知らない。まったく知らない。
「そうです」
嘘をついた。
「では、実際にやってみましょう」
敵役の人形を設置。
「ガルスさんが前衛、レインさんが後衛、ルナさんが回復」
基本的な布陣。RPGでよく見るやつ。
「俺が突っ込んで、レインが援護か」
「そうです」
「わかりました!」
レインが張り切ってる。
「いきますよ!」
ガルスが突進。速い。めちゃくちゃ速い。あっという間に人形に到達。
ズガン!
人形粉砕。でも。
「うおおおお!」
止まらない。別の人形にも突進。ズガン!また粉砕。
「ガルスさん!」
声をかける。聞こえてない。完全に我を忘れてる。
「まずい」
レインが矢を番える。
「援護します!」
パシュ!
矢が飛ぶ。ガルスの方向に。
「危ない!」
ルナが悲鳴を上げる。ガルスが振り返る。矢が肩をかすめた。
「何をする!」
怒ってる。完全に怒ってる。
「すみません!狙いが……」
レインが謝る。
「お前、本当に弓使いか?」
「僕は天才です!」
「天才が味方を撃つのか?」
「偶然です!」
言い争いが始まった。これはまずい。チーム崩壊の予感。
「皆さん、落ち着いて」
「タナカ様……」
ルナが不安そう。当然だ。俺も不安だ。
「今日は初日なので、問題があって当然です」
フォローに回る。営業で鍛えた技術。
「問題?」
ガルスが振り返る。
「連携は練習が必要です」
「練習って何を?」
具体的なプランは?ない。
「えーっと……コミュニケーションです」
適当に言った。
「コミュニケーション?」
「お互いを理解することです」
営業でよく使う言葉。
「なるほど!」
レインが感動してる。
「さすが天才軍師!」
天才じゃない。適当に言っただけだ。
「具体的には?」
ガルスが聞く。困った。本当に困った。
「まず、それぞれの得意なことを話しましょう」
またも適当。
「俺は戦うことだ」
ガルスが即答。
「僕は弓です」
レインも答える。下手だけど。
「私は回復魔法です」
ルナも答える。
「タナカ様は?」
ルナが聞く。俺の得意なこと?
「営業です」
「営業?」
「えーっと……交渉とか、計画とか」
「なるほど!それで軍師なんですね!」
レインがまた感動。軍師じゃない。ただの営業マンだ。
「じゃあ、今度は役割分担を明確にしましょう」
また適当。でも、これは重要かも。
「ガルスさんは前衛で敵を倒す。レインさんは後衛で援護。ルナさんは回復と支援。僕は指揮と戦術」
戦術なんて知らないけど。
「わかった」
ガルスが頷く。
「理解しました!」
レインも張り切ってる。
「はい!」
ルナも元気よく。本当に大丈夫か?不安しかない。
「もう一度やってみましょう」
人形を設置し直す。
「今度は声をかけ合いながら」
「了解!」
ガルスが構える。
「行くぞ!」
「援護します!」
レインが弓を構える。ガルスが突進。今度は少し冷静?人形に到達。
ズガン!
一撃で破壊。でも、また別の人形に向かう。
「ガルスさん、止まって!」
声をかける。
「あ、そうだった」
止まった。おお、効果があった。
「援護射撃!」
レインが矢を放つ。パシュ!人形に命中。
「やった!」
レインが喜ぶ。意外とできるじゃないか。
「素晴らしいです!」
ルナが拍手。
「ちょっとはマシになったな」
ガルスも満足そう。
「僕の実力が発揮されました!」
レインが自慢してる。まあ、一応成功か。
「今日はここまでにしましょう」
「お疲れ様でした!」
みんなで片付け。
「明日もやるのか?」
ガルスが聞く。
「はい。毎日練習しましょう」
「わかった」
「僕も頑張ります!」
レインが元気。
「私も応援します!」
ルナも笑顔。いい感じ?でも、不安は残る。
ガルスの暴走癖。レインの実力不足。ルナの戦闘経験ゼロ。課題だらけだ。
それでも、少しは前進した。かもしれない。
訓練場を後にする。歩きながら考える。チームマネジメント。営業でも苦手分野だった。でも、やるしかない。この世界の人たちのためにも。ルナのためにも。
田中和也、26歳。管理職修行は続く。