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「粋花、あのさ、なにも疑わずにこの薬を飲んでくれないかな。」
「え?なにこれ?」
「ちょっとした薬さ。」
「んー。わかったわ。なんだか昔飲んだことがある気がするわね。」
「いや、あれとは、ちがうよ。」
粋花は、薬を飲んだ。
よかった。粋花はこれで助かるのだ。それと同時に、笑花に申し訳がない気持ちでいっぱいになってしまった。
俺が、笑花を殺したのだ。
でも、しかたなかった。俺にとって大事なのは粋花だ。俺が好きで、俺が選んだ。それが粋花だから。
この気持ちを隠して、笑花に薬を与えることなど考えられなかったのだ。
「粋花、話があるんだ。」
もう、薬は飲んだから、笑花が毒に侵されていることを伝えなきゃ。
粋花は返事をしなかった。
「粋花?どうした?粋花?」
粋花はその場に倒れ込んでいた。
なんの前兆もなく倒れていた。目を見開いた状態で、もう助からないのだと見ただけでわかってしまった。
一瞬何が起こったのかがわからなかった。なぜ、解毒薬を飲んだ粋花がこうなったのか。八がなにか細工をしたにちがいない。
「おい!八!いるんだろ。出てこいよクソッタレが。」
急いで玄関に出てみるが、八の姿はなかった。代わりに、玄関に一通の手紙が落ちていることに気がついた。八からだと勘づいた俺は、すぐにその手紙を破り開いた。
「ごめんなさい。また、間違えちゃった。さっき渡した薬、解毒薬じゃなくて、毒薬だったの。しかも猛毒。すぐに身体に回って喋るまもなく死に至るやつ。ごめんなさい。あ、あとね。さっきのお料理には毒なんて入っていなかったの。さっきのはほんの上段。あなたなら笑ってくれるよね。
P.S.私を愛せないなら、死ね。」
俺は、もうなにもできないから、泣くことしかできなかった。