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半信半疑のまま、また時間は過ぎていった。とにかく状況がわからないのだ。自分には粋花の言うことを信じる以外にできることがなかった。
ある日、いつも通り、粋花と笑花が外出し、帰ってきた。しかし、明らかに普段よりも早い時間に帰ってきたのだ。あれ、まだ18時なのに。どうしたんだろう。と思っていると、粋花が笑顔で話しかけてきた。
「今日ね、お料理が完成したの!早速作るね。あ、あとね、田中さんがあなたに会いたいって。私が普段からあなたの良い事ばかり言っているから、だから今、お外に居るの。会ってきてくれる?」
「それはもちろん、田中さん、ね。普段からお世話になっているみたいだから調度良い。」
自分が玄関を出ると、そこには小柄で歳の近い女の子が立っていた。そして直感した。間違いない。雰囲気が違えど、彼女は八だと確信した。
「ええと、はじめまして。いつも粋花がお世話になっております。」
「はじめまして?わかっているくせに白々しいですね。」
「わかってる?何をです?」
「そうですか。じゃあわからないままでも良いです。」
そう言って彼女は俺に袋に入れた1粒の錠剤を渡してきた。
「これは?」
「解毒薬です。」
「解毒薬?」
「ええ。あなたの奥さんと娘さん、先程家でお食事なさったの。カレーを振舞ったんだけど、すごく美味しいって言ってくれたわ。でもね、隠し味に蜂蜜を入れようと思ったんだけど、間違えて毒を入れちゃったんだ。その毒はね、大体6時間をかけて身体中を巡って死に至るわ。だから、薬を渡しに来たの。」
「は?毒?錠剤は1個しかない。けど。」
「私、あなたのこと恨んでるから。大切な人を失うといいわ。」
そう言い残して八は走ってその場を去っていった。
6時間という時間設定だが、おそらく食事を撮ってから2時間は経っていると見られる。とどのつまり、俺の選択で、今、粋花か笑花のどちらかを選ばなければならなくなったのだ。
俺は、粋花と出会うまでは、ろくでもない人間だった。いや、今だってそうだ。粋花は俺の全てを変えてくれたのだ。対に笑花は、俺たちの、大事な娘だ。彼女がいるから私は楽しく暮らして行けるし、なにより、粋花は笑花を生かすことを望むだろう。
如何様にして結論を出そうか。しかし、俺にとってこの結論は決まっていたのだ。