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粋花に浮気疑惑が出てから自分は彼女の監視を始めた。
しかし、彼女はボロを出さなかった。部屋に監視カメラをしかけたが、こちらに誰かを連れてくる様子はない。ドラレコを確認しても、ただどこかへ行くだけだった。粋花どころか笑花の様子にも変化がないことが不思議だった。やはり浮気は早とちりだったのだろうか。きっとそうに違いないし、そう思いたい。しかし、事実として、自分に隠して2人は毎週のようにどこかへ出かけていく。この謎の正体を知りたい気持ちはいっそう深まった。
長い間監視を続けたが手がかりが掴めなかったため、ついに粋花の尾行をすることにしたのだ。
「じゃあ、行ってくるね。」
「ああ、行ってらっしゃい。実は俺もこの後外出するんだよね。」
「どこへいくの?」
「同級生に飲みに誘われてさ。」
「そうなの。気をつけてね。ちゃんと連絡してね。」
「粋花こそね。じゃ、また。」
粋花が外出したことを確認した後、すぐに身支度を整えて自分も外へ出た。
粋花はこちらが尾行していることに気がつく様子はなく、ただスマホを見ながら歩き続けた。
簡単に尾行は成功した。
粋花はアパートの一室に入っていったのだ。
やはりそういう事だったのか。自分は落胆したが、とにかく写真だ。自分の悲しい気持ちなどは一旦気にせず、証拠を掴まなければならないのだ。
彼女が入った後にその部屋の前まで行ってみたが、表札も付いていないような部屋だった。
もっと詳細にこの物事を知りたかったが、今の自分にできることはここまでなのだと思った。
とにかく、アパートとその201号室だと言うことだけはわかった。
粋花を問いただすためには十分な情報だった。
その日の夜、自分はついに粋花にこの一件を聞くことにした。
「粋花、話があるんだ。」
「どうしたの?」
「最近さ、いつもどこか行っちゃうじゃん。」
「うん。どこかっていうか、佐伯さんの所ね。」
「そうね、佐伯さんのところね。」
「それがどうしたの?」
「ごめん、粋花。俺さ、どうしても粋花の外出先が気になってさ、粋花のこと尾行しちゃったんだよね。あの、前に佐伯さんに会ってさ、粋花のこと聞いたら、特に会ったりはしてないって言ってて、それで、ちょっと怪しいかなって思ってさ。」
「…」
「だから、その辺、本当はどうなんだろうって。聞きたくなってさ。」
「…」
「説明、してくれるかな。」
「…違うよ。浮気じゃないよ。」
「…」
「お友達ができたの。そのお友達の作る料理がすごく美味しくて、それで私も料理が上手になりたくて、教えて貰っていたの。」
「ふーん。そのお友達とはどこで出会ったの?」
「成り行きだよ。突然声をかけられて、サンドイッチもらったの。それを食べたらすごく美味しくて。」
「どこで?」
「保育園の近くの公園。」
「へー、にわかには信じられないけどね。」
「本当だよ。」
「俺だって、本当だって信じたいよ。でもこれじゃ信じられないよ。それに、それならどうして俺にその事を言ってくれないんだよ。」
「その人、名前は田中さんって言ってさ、田中さんがね、旦那さんには言わない方が良いって。上手になってから振舞ってビックリさせなって。笑花を時々連れて行ったのだって、私の料理の変化を見てもらうためで。」
「そんなことあるのかなぁ。」
「本当だよ。笑花に聞いてみなよ。」
粋花の説明では納得ができなかった。彼女は天然気質なところはあるが、あまりにも信憑性にかける話だと思ったのだ。しかし、翌日笑花にこの事を聞いてみると、本当に粋花の言う通りだと言うのだ。
粋花が嘘をついている可能性、もしくは笑花が嘘をついている可能性。色々な可能性があり、自分はよくわからなくなってしまった。
「ね、笑花も言ってたでしょ。信じてくれた?」
「うん。一応、ね。」
「一応なの?」
「うん。ごめんね。」
「…田中さんがね、私のお料理ももうすぐ完成するって言ってたの。だから、もう少しだけ行ってもいい?」
「…」
「…」
「俺、もうわかんねえや。いいよ。行っておいで。」