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八と会うようになってから5週間後の金曜日の夜に、粋花からふとこんなことを言われた。
「ねぇ。明日もどこかへいっちゃうの?」
「…うん。」
「どこへ行くの?」
「カフェだよ。」
「カフェね。」
「…」
「誰と行くの?」
「会社の人と。」
「名前は?」
「名前は、高木さん。って人。」
「高木さんね。」
「もしかして疑ってる?」
「いいえ、そんなことはないわ。でも、ちょっと心配なの。最近毎週のように遊びに行っちゃうし、なんだかよそよそしいじゃない。」
「そんなことないと思うけどな。」
「私がなにかしちゃったなら謝りたいの。それに、私がなにか至らない点があるなら言って欲しいの。私、直すから。」
「いや、粋花は悪くないよ。もうすぐ終わるから安心して。でも今は言えないんだ。でも事が終わったらちゃんと言うから。今はごめんね。」
「…うん。」
たしかに粋花には悪いことをしていると思っている。
しかし、ここまで来てしまった以上、引くに引けなくなってしまっているのだ。
このことを粋花や笑花に話せば、呪いがそちらに移るのだと八が言っていた。
それこそ良くないじゃないか。
除霊をすることこそが最前に取り組むことだと思い、自分に言い聞かせる。
しかし、心の奥底では、本当は八と会う時間が楽しいという気持ちがあるのかもしれない。
いや、それは嘘だ。
と思う。
翌日も東京で八と会った。
しかし、今日は様子が違うのだ。
いつものサブカルな印象とは異なり、初めて彼女にあった人のような、威圧感のある女性になって集合場所に登場した。
「八さん。めずらしいね。」
「そろそろ除霊をしてもいい頃合いなの。だから真面目な格好をしてきちゃった。」
「ほんと?やっぱりまだ僕には幽霊が着いているのですか?」
「ついていますよ。3体ね。みんな元気そう。」
「おばけに元気とかあるんですね。」
「今日は、私の家に来てもらいます。除霊の準備もできているから。」
「え、家ですか。」
さすがにまずいか。そう思いはしたが、今日で最後だ。そして念願の除霊をしてもらえるのだと思うと、別に悪いことではないような気もしてきた。
最悪、粋花にバレなければいいのだ。
家からここまでは遠いし、バレようがない。そしてこの除霊を機会に八との距離を取れば良い。そう思った。そう、これはあくまでも除霊のためなのだ。
やましい気持ちなど1ミリたりともないのだから。
八の家は、そこから10分程度歩いた所にあった。
かなり古くからありそうな平屋で、立派な作りだったが、中に入ってみると、薄暗く嫌な気持ちになった。
「…おじゃまします。」
「この家、私以外居ないから大丈夫ですよ。」
「そうなの?」
「うん。」
「着いてきて。」
案内された部屋に入ると、その部屋はまさに異様そのものだった。
明かりは全くなく、黒のカーテンで四方八方が塞がれており、真ん中にはロウソクが炊かれている。よくよく周りを見渡すと、周囲には御札が貼られていた。
こんなに大掛かりな除霊が始まるとは思わなかった。
八は部屋には入ってこなかった。
「長田さん、聞こえる?」
「はい。」
「ロウソクの周辺に、赤い座布団が置いてあるでしょう?底に正座して。」
「…はい。」
「そしたら、服を脱いでください。」
「…はい?」
「脱いだら近くにカゴがあると思うからその辺に置いておいて。」
「いや、服を脱ぐんですか?」
「私語厳禁、黙って私の指示に従って。あなた、死ぬわよ。」
「…はい。」
「ロウソクの前に目隠しがあるからして。」
「……はい。」
目隠しをした所で部屋のドアが開いた。
八が入ってきたのだ。
「八さん。」
「黙って。喋っちゃダメ。ただ、言うことを聞いて。返事は「はい」だけ。」
「…はい。」
八は扉を閉め、ゆっくりと動き出した。
彼女の気配から、自分の後方にいることを感じ取った。
何が始まるのかと思い緊張していると、背中につめたくてヌメヌメした感触がした。
おそらくそれはローションだった。
「ひぇ。」
驚いて声を出すと、八に背中を叩かれた。
どうやら、八が背中を触っているようだった。
八は身体全体をゆっくりと触り、ローションを身体全体に塗っている。恥ずかしさとくすぐったさから声を出してしまうこともあったが、その度に背中を叩かれた。
全身がローションだらけになった。
俺はすっかり興奮していた。
一段落付いたのか、八が背中から手を離した。
目隠し越しからでも少量の光が入ってきたことから、八が部屋の明かりを付けたことがわかった。
「長田さん。目隠し取っていいですよ。」
目隠しを取って驚愕した。
八が服を着ていなかったのだ。
とても動揺してしまった。
部屋に裸の男女2人、しかも身体中がローションまみれになっている。
「え、ええと。八さん。」
あたふたしていると、八が自分の前に座った。
「いれて。」
…
……
………
「…え?」