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その日の晩、俺は彼女に電話をかけた。
「こんばんわ、あの、今日神社で会った者です。」
「はい、こんばんわ。さっきぶりですね。身体の具合はどうですか?」
「いや、とくには。」
「とりあえず名前を聞いておいてもいいですか?」
「長田です。」
「下の名前は?」
「一です。」
「長田一さんね、私は東宮八です。」
「よろしくお願いします。八さん。」
「よろしく。ところであなた、どんな悪いことしちゃったの?」
「んー。」
「うん。」
「人を殺しかけちゃったのと、あとは、直接的ではなくても人を殺してしまったことです。」
「ありゃ、それは大変。」
「詳しくは聞かないんですね。」
「ええ。だって、ちゃんと反省してそうだったから。」
「それで、僕の背中にいる幽霊ってのはどんなやつなんですか?それと、どうすればいいんですか。」
「んー、1人目はおじいちゃんね。腰が曲がってる。あとは若い女性この方は足がないわ。あと男の子。5歳くらいかしら。」
「…はい。」
「除霊は簡単よ。でも、私のやり方はちょっと変わってて、あなたの人となりをしっかりと知らないとできないやり方なの。だから1度あなたとしっかりと会う必要があります。明日か明後日は空いてます?」
「明日か明後日って、平日は無理ですよ。週末なら一応。あと、正直にいうとちょっと怪しいですよ。いきなりこんな。別に身体に不調があるって訳でもないのに。」
「んー、でもあなた、このままじゃたぶん事故にあいますよ?事故かはわからないけど。」
「なんでそんな事がわかるんだよ。」
「長年の勘です。」
「…」
「…」
「んー、やっぱりイマイチ信用できないよ。」
「だったら結構。私だって暇じゃないの。せっかくあなたのためを思って連絡してるのに、残念。」
「…はい。」
「どうするの?やるの?やらないの?」
「…やります。お願いします。」
「よろしい、じゃ、土曜日、東京、12時。あとでショートメールで場所送るので。」
日程を決めてしまった。
それにしても、霊が着いているというのはとても信じられない。
彼女が言っていたおじいさんと女性と男の子、なんというか、身に覚えがないもの達ばかりだ。もしくはあの神社に霊がいて、その霊たちを持ち帰ってしまったとか。霊感がない自分には判断しかねた。
それよりも問題は土曜日だ。まだよく知らない女性と会うのだ。自分が霊に関して半信半疑であることが彼女と会う気をより後退させた。むしろ、なにか高額商品を買わされるのではないか。もしくは美人局にあうとか。そのような可能性もあると感じているのだ。
しかし、行かない理由にしては少々薄いようにも感じてしまう。彼女がヤバいやつである可能性はないものとして、仮に良くない理由で声をかけていたとしても、自分をその標的にする理由があまりないのだ。
とくにお金持ちそうには見えないだろうし、妻子がいることを理解しているだろう。自分が人を騙す立場であれば、もっと弱そうでお金を持っていそうな、とどのつまりちょろそうな奴を狙うに違いない。
そう考えると、彼女は本当に霊感があって自分を助けようとしているのだとも思えた。
別に、乗りかかった船ではあるし、例えばこの機会に乗らずに原因不明の事故などにあったら嫌だ。
それに、粋花や笑花を残して死ぬことはできないのだ。
自分は土曜日に東京へ出向くことを決意した。
電話を終え、リビングに出ていくと、粋花がまだ起きていた。
「ずいぶん夜遅くまで起きてるんだね。」
「なんとなくね、最近は自由な時間が取れなくて。」
「そうだね、いつもありがとう。大好きだよ。」
「なによ急に。私こそ大好きよ。笑ちゃんも5歳になったし、早いわね。」
「そうだね。もう俺も30歳になってしまうよ。」
「私だって、もう歳をとりたくないわ。そうだ、笑ちゃんが将来はケーキ屋さんになりたいって言ってたの。」
「ケーキ屋さんね、今日ケーキを食べたからかな?」
「たぶんそうだと思う。かわいい子だよね、ほんと。」
「あ、そうだ。次の土曜日さ、お仕事の仲間と東京へ行くことになったんだ。」
「あら、そうなの。わかったわ。行ってらっしゃい。」
「うん。じゃあ寝ようかな。」
「私も寝るわ。おやすみなさい。」