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日記  作者: 雨野雫
4/6

冒険

 大学生になったのを機に、一人暮らしを始めた。詳細はいろいろあるのだが、とにかくまあ遠いところに飛び出したのである。親も友人も親戚も、知人ひとりすらいない場所に身を置くというのは、躊躇してしまうものではあるが、住めば都とはよく言ったもので意外と楽しいものである。

 土地勘もなにもない場所はまさに冒険の地である。文明の利器が発達した時代、こんなことを言っても苦笑されるかもしれない。しかしながら、やはり見知らぬ土地というのは、どこか人をわくわくさせてしまうのだ。

 というわけで、私は歩き回るのである。

 マップ?そんなものは見ない。己の勘と道の先への期待を胸に歩き出すのだ。

 今日はそんな冒険の最中に見つけたものを紹介しようと思う。


 日が傾き始めた頃、私は歩き出した。夕方と呼ぶにはまだ早い時間。この季節でも太陽はジリジリと私を焼き付けていた。

 近場のスーパーに向かう予定だったのだが、近所のバス停の視察をしておかなければならないことを思い出し、180度向きを変えて歩き出した。

 バス停には難なく着いた。この通りは大きかったため、道に沿って歩けばものの5分で見つけられた。これでミッションコンプリートというやつなのだが、ここでまたUターンしてスーパーに向かうことに、私は抵抗を感じてしまった。来た道とは違う道を進んでみることにした。


 住宅街の中の路地をクネクネと曲がりながら歩き続けた。人は意外と多い。自転車に乗ったカップル、腰に手を当てて歩くお婆さん、スマホを片手にずんずん進んでいく女性、さまざまである。

 住宅とアパートが混在した道には、枝分かれするように細い道が何本もある。これを進んだらたぶん知らないアパートに着くんだろうな、とか。しかしながらどこかに抜けられる道があって、地元民しか知らない近道があるのかもしれない、とか。たまに、これは本当に知っている道に繋がっているのだろうか、と不安になってみたり。歩き続けるしかないのだけれど。


 公園の横を通る時、きゃっきゃっとはしゃぐ小学生らしき子供たちの声が聞こえた。それがなぜか、すごく心にぐっときた。小学生の頃の自分と、今の自分。意識はそのままに体が大きくなってしまっただけで、あの頃から何も変わっていないと思っていたのに、いつのまにか私は私も知らない間に大人になろうとしていたのだ。故郷で遊ぶ小さい頃の私と、そこで遊ぶ子供たちに何の差もなかった。ここを故郷とするこの子達は、一体この先にどうなるのだろうか。私のように見知らぬ土地で故郷に思いを馳せるのだろうか。


 歩き続けて、少し大きい通りに出た。知っている道に繋がっていると確信を持った。

 車のクラクションの中に、生暖かい風と排気口からもれるラーメンの匂いが混じって、異国にいるかのような酔った感覚になった。不思議と悪い気はしなかった。知らない場所の懐かしい感覚、とでも言えば良いのだろうか。


 目的のスーパーの看板が見えた時、私の冒険は終わった。夢から醒めたように、あとはそこへ向かうだけだった。買い物を終えて、帰路について。

 家に帰るまでが遠足です。なんて言葉を思い出しながら、少し痛くなってきた足を動かし続けた。

 家に着いた。冒険は終わった。昔から知らない道を友達と冒険して、行き止まりにぶつかったり、抜け道を見つけたり、綺麗な夕日を見たりしたのを思い出した。あの頃からずいぶんと長い時間が過ぎていたようだけれど、やはり冒険の楽しさはあの頃から変わらない。

2025/04/18

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