猫がしゃべる理由
ふと思い浮かんだものを書いてみました。
もしよければ感想をお願いします。
「やぁ、気づいたかい?」
なぜかは知らないけど、目の前の猫がしゃべっていた。
恐ろしいほど毛並みのいい黒猫が、俺の机の上に乗っかっている。
そして俺は何をするでもなく、ただ自分の席に座っているだけ。
周りはいつも通っている教室だというのに、なんだろう、このシュールさは。
「あの、猫だよな?」
「正真正銘、猫だとも」
なぜか偉そうに猫は答えた。
「えーっと、なんでしゃべれるのかとか、聞いてもいいの?」
「逆に聞くが、猫がしゃべってはいけない理由があるのかい?」
「いや、特に無いけどさ……」
「ならいいじゃないか」
うん、まぁ、猫がしゃべって何か困るわけでもないしなぁ。
「さて、納得してもらったところで少しばかり聞きたいことがあるのだが?」
「なんだよ?」
「いや、よくある哲学的な話題でね……君は、なんのために生きているんだい?」
「はぁ?」
一体、何を言っているんだろうか、この猫は。
というか、なんで俺が猫にそんなことを話さなきゃいけないんだ?
そう思っているのに、なぜか口は勝手に言葉を吐き出していた。
「死ぬためだよ」
「ほう?」
猫が興味深げに目を細める。
「俺はかっこよく死ぬために生きているんだ」
終わりよければ全てよし、という言葉がある。
俺は人生においてもそれは同じだと考えている。
どんな悪人だろうが、死ぬ前に良いことをすればそれまでの悪行がチャラになるほどかっこいい。だが、逆に、どんなヒーローだろうが、死に方が間抜けならばかっこ悪い。
要するに、俺は死に方こそが人生の全てだと考えているわけだ。
「理想の死に方はあれだな。事故に巻き込まれそうになった子供をかばって死ぬ。子供は命が助かってラッキーだし、俺もかっこよく死ねてラッキー。皆幸せだ」
「残された者のことは考えないのかい?」
「どうせ人間はいつか死ぬんだ。事故で死のうが、病気で死のうが一緒だよ」
「ふむ……そうか」
猫は頷くと、どこか哀れむような口調で言う。
「なら、君は恐らく凄くがっかりするだろうね」
「へ? あの……」
俺が何かを聞き返す前に、猫が言葉を被せる。
「そう言えば、君はなんで猫がしゃべるか疑問に思っていただろう?」
「いや、そうだけど。なんで急にそんな話題に?」
俺の言葉に答えず、猫は言った。
「そんなもの、夢だからに決まっているだろう?」
夢?
これ夢なのか?
「最後に一言、ご愁傷様」
その猫の一言を最後に、俺の意識は覚醒した。
目が覚めると、見知らぬ天井が見えた。
よくわからないけど、体中がうまく動かない。
けれど、まったく動かないというほどではないので、実際はたいした怪我ではないのかもしれない。
なんとか首を動かして、視点を下げると、俺の家族と友達、おまけに命がけで助けたはずの子供も瞳を潤ませて俺を見下ろしていた。
ああ、なんだ、こんちくしょう。
「ったく、かっこ悪いなぁ」
夢の中に出てきた猫が、どこかで愉快そうに鳴いているような気がした。