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キノコの轍


 特殊な趣味であることは自覚している。だが、最も安全に稼げる趣味でもある。

 俺が狙うのはただ一つ。廃ダンジョンだ。


 相変わらず俺は山村を巡りながら、辺境へ帰っている途中だ。夏のうだるような暑さで首都圏では熱中症も多いようだが、木陰の多い山の中は雨が降れば涼しくなる。

 その日も唐突に雨が降ってきたので、近くの村の宿に泊まることにした。


「夕立だからすぐに止むよ。どうせ、客はいないから、窓の側に洗濯物を干しておいていいからね」

「ありがとうございます」

 宿の主人は小柄な老婆で、一階では酒場をやっている。


「あんた、キノコ嫌いじゃないかい?」

「好きですよ」

「よかった。じゃあ、多めに焼いておくよ」

「ありがとうございます」


 一泊で銀貨一枚という破格の値段にも関わらず、二食の料理付き、銅貨三枚で弁当まで付いてくるという。


「冒険者かい?」

「ええ。ほとんど戦いに参加しない冒険者です。西の旧ダンジョン都市で仕事をした帰りで……」

「徒歩で帰ってるってことはそんなに儲からなかったか」

「いえ、まぁ、そんなところです」

 本当のことを言っても仕方がない時がある。

「この村の近くにも昔のダンジョンがあるんだけどね」

「え!? 本当ですか?」

 思わず、興奮して大きい声が出てしまった。


「なんだい? ダンジョンが好きなのかい?」

「いや、廃ダンジョンを巡ってまして……」

「ああ、だったらいいかもしれない。古いダンジョンが見つかってね。でも、キノコがたくさん生えているから、見つかって三年くらいは経ってるんだけど冒険者も探索してくれないのさ」

「そんなダンジョンがあるなら俺に言ってくれればいいのに……」

 こういうことがあるから、廃ダンジョン・トレッキングはやめられない。


「ちなみにどんなダンジョン跡なんです?」

「今日みたいな夏の雨の日に、一本杉に雷が落ちたんだ。辺り一帯燃えたのさ。次の日、村の皆ですごい音が鳴ったと思って見に行ったら、一本杉は焼けて、崖際まで燃えてたんだけど、崖が崩れていてね。ぽっかり洞窟の穴が空いてた。よく見れば、蝶番の跡や木の柱もあったから炭鉱の跡かと思ったんだけど、魔物の死体も出てきちゃって、ダンジョンだったってわかったわけ」

 封印されたダンジョンが出てきたということは、魔物も生きていないだろう。探索されていない廃ダンジョンがあるなんて滅多にないことだ。

「なるほど。村の人たちに被害とかは出てないんですか?」

「出てない。危ないところにわざわざ入らないだろ? でも、雷でそこの近くでいいキノコが出来るようになったから、キノコ農場にしたいんだけど……」

「ダンジョンから何が出てくるかわからないということですね?」

「そうなんだよ」

「雨が止んだら調べてみますよ」

「本当かい? じゃあ弁当作るよ」


 報酬は弁当だ。実益と趣味を兼ね備えると、やはり充実感がある。


 翌日、さっそく雨上がりに弁当を持って、一本杉の焼け跡へと向かった。

 稲光などと言われているように雷の後には植物の生育が良くなることが知られており、一本杉の焼け跡周辺も草が鬱蒼と生えていた。かき分けていくと、キノコが真っすぐ列をなして群生している。


「キノコの轍か……」

 キノコを辿っていくと、廃ダンジョンまで続いていた。


「よし、行こうか」

 俺はランプに油を差して火を灯し、ピッケル片手にダンジョンの中へと入っていく。

 獣臭がするが、何年も外界と塞がれた環境では魔物が生きていけない。罠は鳴子の仕掛けだけがあったが、落とし穴などはない。誰かの研究施設として使っていたのかな。

 奥に行くと魔物の死体がたくさんあったが、骨を見るとどれもイタチの魔物のようだ。それほど珍しくもない。焼け焦げたビリビリに破れたローブもあった。召喚した魔物に食べられて骨も残らなかったか。


「お、召喚術の魔法陣が出てきたな」


 床をランプで照らすと儀式跡があった。儀式に使われた水晶や金貨などが棚に残っていたのですべて回収する。ベッドの跡もあるので、召喚術師が住んでいたのだろう。


 コンコンコン……ガン!


 壁を叩いていると、扉を見つけた。ワイヤーも取れているはずだが、少しだけ開けてピッケルで確認。中を照らすと、棚がいくつもあり、キノコの原木が並んでいる。


「うっ」


 臭いは酷い。しばらくドアを開閉しながら風を送り続けて、マスクをしたまま中に入ると、麻痺薬に使うキノコや毒キノコが原木から派生して壁や床にまで生えている。奥まで確認すると、マタンゴと呼ばれるキノコの魔物がカラカラに干からびて死んでいた。キノコの世話をしていたのだろうか。

 解体して死体の一部を採取しておく。魔物学者に売れるだろう。


 宿に帰って、井戸で水浴びをしてから報告する。


「昔、召喚術師がキノコ農場をやっていたみたいです。魔物は全部死んでいるし、召喚術の儀式跡も解体してきました」

「そうかい。よかったよ」

「で、奥にマヒダケや毒キノコの栽培所がありました。冒険者ギルドに言えば、正規のルートで売れると思うので、臨時収入にはなると思いますよ」

「高く売れるなら、そっちの方がいいね」


 村ではキノコ栽培を副業にしている農家が多いのだそうだ。栽培技術が確立されているなら、そのうちこの村の麻酔薬などが冒険者ギルドに出回るかもしれない。


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