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かつてのダンジョン都市編


 特殊な趣味であることは自覚している。だが、最も安全に稼げる趣味でもある。

 俺が狙うのはただ一つ。廃ダンジョンだ。


 辺境の宿でダラダラと過ごしているだけなのに、なぜかいろんな人が訪ねてくるようになった。飛竜の世話をしたいという魔物使いまで現れたが、丁重にお帰りいただいている。死体を焼くのが面倒くさいからだ。


「おーい、山屋。お客さんだぞ」

 薪を割っていたら宿の主人が声をかけてきた。

 

「誰かな? しばらく仕事をする気はないので、追い返しておいてもらえます」

「いい酒を土産にもらっちゃったからダメだ」

「俺への土産でしょ? まったく」

「こんにちは」


 わざわざ客が裏庭にまでやってきた。


「こんにちは。どちらさんですか?」

「冒険者ギルドの者です」


 冒険者ギルドで地方のギルド長をしているという壮年男性だった。


「この度は申し訳ございません」

「えっと、どの話ですか?」

 冒険者ギルドからの依頼はいくつかこなしているはずなので、正直何の話なのかはよくわからなかった。

「あ、いや、冒険者ギルドがそれほどご迷惑をかけているとは……」

 ギルド長は平謝りだった。


「謝罪しに来ただけですか?」

「ああ、いや、謝罪と廃ダンジョンがお好きだと聞いて」

「どこかに見つけましたか?」

「ご存じだとは思うのですが、西のダンジョン都市のダンジョン跡が……」

「ああ、大きいのがありますね。入っていいんですか?」

「そろそろギルドとしても冒険者たちの死体を地上に戻したいと考えておりまして、よければ護衛をつけますので潜っていただけませんか」

 死体回収か。


「一応、こちらも生活がかかってますので、金貨などは貰いますよ」

「ええ、構いません」


 西にある都市はかつてダンジョンによって栄えてはいたが、10年ほど前に攻略され、その後時間をかけて掘りつくす予定だった。だが、冒険者も含めて野盗なども罠や残っていた魔物によって倒され、帰ってくる確率が低く、唐突に別の場所で発見されるケースも増え、ダンジョンを閉鎖。都市だった周辺地域も一気に衰退し、今は宿場町として知られている。


 状況から考えてワープ罠が多いのだろう。それを避ければいい。魔物の対処は護衛に任せていいそうなので、仕事を引き受けることにした。

 できれば趣味なので自分で見つけたダンジョンに潜りたいが、普段許可されていない廃ダンジョンに潜れるという経験もできるのも魅力だ。



「やります」


 そう言った翌日には西へ旅立っていた。

 宿場町なので宿はどこにでもあり、冒険者ギルドの隣にある宿の一部屋を借りた。

「話は伺っています」

 冒険者ギルドの職員には伝わっているようで、許可証や鍵を受け取った。

「一応、どのくらいの期間潜るのか教えてもらえますか」

「ダンジョン自体が大きいので一日一回は帰ってきますよ。もし、潜る期間が長くなったら、また申請しに来ます」

「助かります。よろしくお願いいたします」


 死者も多いので魔物になっている可能性もある。教会に行って聖水を樽で購入し、適量持って行くことにした。あとは死体袋とバラした背負子をいくつか持って行く。護衛の冒険者たちにも持ってもらおう。


 護衛の冒険者たちは若いパーティーで、攻守のバランスがよさそうだ。シーフと呼ばれる斥候役もいるが全身黒づくめの忍者スタイル。なるべく体の線が出ないようにしているところを見ると女性だろう。


「持てる?」

「ん」

 言葉が少ない忍者の彼女に荷物を半分持ってもらい、ダンジョンへと向かった。


「先へ行って、魔物がいないか見てきます!」

 そう言った護衛の戦士は早々に落とし穴にはまり怪我をしていた。回復役に介抱されていたが、正直じゃまだ。


「俺とシーフで罠の解除をするから、後ろから付いてきてくれ。何かあったら、呼ぶから。部屋で待機していてもいいからさ」


 とりあえずランプを点けて、壁や床の罠を解除していく。待機部屋を作り、ひたすらピッケルで壁や床を叩きながら罠を探っていると、不思議そうに忍者が見てきた。


「こっちの方が確実に罠は見つけられるよ。あ、ほら音が違うだろ?」


 矢の罠や毒霧を噴射する罠などを解除していく。まだ廃ダンジョンになってから10年ほどなので、罠もたくさん残っていた。


「あ! あと、これね。ワープ罠ね。絶対踏まないように。魔力量によって飛ばされる距離が変わるから、魔法使いには特に踏ませない方がいい」

 忍者は大きく頷いていた。

「バールとかあると床板ごと外せるから便利だよ」

「あとで、買ってきます」

 初めてまともに喋った。仲間たちから距離が離れたからだろうか。人間関係はいろいろとややこしいことが多い。なるべく触れずに行こう。


「よーし、次に行こう」

 一階層だけでも広いので、一か所に時間をかけていられない。


「あ、死体ありました」

 振り返ると、忍者が落とし穴の目隠しを引きはがしていた。

「うん」

「一階層でも死ぬんですか?」

「死ぬよ。そりゃ。ダンジョンだからな」


 白骨化も進んでいるので、状態としては古い冒険者のようだ。10年前に攻略されたからと言って、その前に200年ほど運営されてきたダンジョンなので、古い死体も見つかる。


 死体から財布袋を取り、袋に入れた。


「はい。山分けな」

 財布袋に入っていた銀貨を分けた。

「いいんですか?」

「いいだろう。もう黄泉の国へは行ってるよ」

「死体は運ぶんですか?」

「ああ、どうせまだあるから、暇そうに待機している人に持って行ってもらってもいいよ。たぶん、一階層の召喚罠はないと思うし、魔物の気配もないだろ? はい、これドッグタグね」

「わかりました」

 忍者はそう言って、仲間のもとに死体袋を持っていった。運び役がいるとかなり楽だ。

 少し揉めていたようだったが、忍者はすぐに戻ってきた。


「大丈夫か?」

「ええ。銀貨見せたら……」

 俺にとっては趣味に近いが、彼らにとっては仕事だ。お金で動く人たちが一番信用できるという場合もある。


 一階層の罠をすべて解除し、冒険者の死体を大量に見つけた。動く死体は聖水を入れた竹筒で撃退しておく。


「これいいよ。聖水の量を調節できるし」

「確かに、瓶を割る必要もない……」


 忍者は竹の水鉄砲に感心していた。

 

 動くような死体は腕輪や指輪、剣や防具なども揃っている者が多い。ギルド職員の話ではここ2年ほどは誰も入っていないし、その前もそれほど高価な品が見つかっていないと話していた。


「これだけたくさん見つかると、話が違うよな」

「いや、落とし穴の杭まで抜いて調べる人がいないんじゃないですか?」

「そうかなぁ。杭にも罠が仕掛けられてる場合だってあるんだけどね」


 全部回収して、地上に持って行く。一階層だけで一日が終わってしまった。報酬もだいぶ溜まってきている。若いパーティーでは忍者が荷運びをした者たちに報酬を山分けしたらしい。


 翌日も護衛として若い冒険者たちがやってきた。忍者は黒づくめの恰好をやめて、普通のシーフの恰好で顔も晒していた。短髪黒髪の可愛らしい娘さんだ。


「忍者、やめたの?」

「昨日の夜。取り分で揉めて、私は一旦パーティーを抜けることになりました。今日から彼らは護衛ではなく、荷運び役です」

「そうなの? 何でもいいけど、いざという時にちゃんと逃げられるようにだけしておいてね」

「それは大丈夫です。何か言ってきたり、面倒なことを言って来たら、ワープ罠で飛ばして構いません」

 結構、仲間に厳しいタイプのようだ。


「ま、仕事だからな。がんばってくれ」


 俺たちは二階層に行き、待機場を作り、罠を解除していく。シーフになった忍者もバールを片手にどんどん罠を解除していた。


「これが召喚罠ですか?」

「ん? ああ、そうだよ。ダンジョンが死んでいるから、起動はしないんだけど、時々魔力が残っていて突然起動する場合もあるから破壊しておいてね。魔法陣を一本消すだけでも起動しないから」

「わかりました」


 大人しかった昨日とは違い、どんどん罠について聞いてくる。罠については冒険者ギルドでも講習を受けているはずだが、実地向きじゃないのかもしれない。ダンジョンの中で先輩に教えてもらいながら実地研修するのが一番なのか。大型の罠はダンジョンでしか見ないので、面白いのかもしれない。


「罠を設置できるってことは解体もできるってことさ。まぁ、魔物の討伐や探索が目的ならここまでやらないけど、覚えておくと簡単に無力化できるからね」

「覚えておきます」


 死体の扱い方も理解できたのか、率先して落とし穴の杭を抜いて運び出している。冒険者は唐突に成長するもので、レベルや戦い方などではなく、仕事として向き合えるかどうかでその後が決まる。

 俺にはそういう仲間がいなかったから趣味に走ったが、彼女はまだ若いので仲間を見つけられるかもしれない。


「この先に、大量のドラウグルがいるようなんですけど、どうします?」

 ドラウグルは死者の魔物だ。古いダンジョンなんかでは時々見かける。

「聖水の水鉄砲じゃ無理かな」

「無理でしょう」

「さっき解除した円盤型の鋸刃の罠があったろ。あれを通路に仕掛けよう。ロープを引っ張って回転させればいいから」

 普段なら逃げるが、罠の解除も設置も教えておくことにした。


 通路に設置したら音を鳴らして、ドラウグルを呼ぶ。


 シャーン! シャーン!


 回転する鋸刃で、ドラウグルの体を真っ二つにしていくだけ。盾を持っていてもあまり関係はなかった。

 終わったら、罠を解除して回収していく。魔物でもお金を持っていることもあるので調べてみると、エメラルドなど宝石を持っていた。それだけで、普通の生活であれば1年暮らしていける。


「持って行ってもいいんですか?」

「山分けだからな。その代わり、あまり人に言うなよ」

「わかりました」

「これから見つける銀貨は全部、荷運び役で分ければいいんじゃないか?」

「そうします」

 

 仕事になると金で揉めることは多い。


 結局、二週間ほどかけて12階層まで調べたが、ダンジョンは60階層くらいまであるそうだ。

 俺も忍者の彼女も十分に稼いでしまった。一度調査を打ち止めにすると冒険者ギルドには伝えた。

 忍者の彼女はパーティーから離れ、しばらく一人で冒険者としてやっていくと言っていた。仲間が見つかるといい。残っていたメンバーは、「またよろしくお願いします!」と新たな冒険に旅立った。


「見つかった冒険者のご家族からお礼の手紙が来ています」

 ギルド職員が見せてきた。あまり繋がりを持ってしまうと、仕事がしにくくなるので処分してもらった。

「ご家族に献花だけ送っておいてもらえるかな?」

 冒険者ギルドに銀貨を数枚預けておく。

「わかりました。また、よろしくお願いします」

「はい。あのダンジョン、シーフの研修に使うといいよ」

「そうかもしれませんね。上司に言っておきます」

「よろしくー」


 出会いがあり別れがある。

 俺は辺境へと戻った。


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