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廃ダンジョン・トレッキング連載版  作者: 花黒子
東島編

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物質系の自動化


 自分には冒険者の才能はなかった。体力はないし、魔力もないし、技術もない。周囲に気配りができるかと言えば、それもない。きっと商売をしていても上手くはいかなかっただろう。

 ただ、廃ダンジョンを巡ることが好きだっただけだ。だから罠を解くのも自然と回数をこなし、上手くなった。いつしか、廃ダンジョンを潜るだけの専門家になり、運もあったがそれほど生活にも困らなくなった。冒険者ギルドの依頼を請けなくても、普通に稼げて廃ダンジョンに潜れる東島に来ると、いよいよ冒険者なのかどうかもあやしくなった。


 それも世の流れだと思っていたが、大陸の冒険者ギルドがあまりに窮状であることを聞くと、行かないわけにもいかなくなった。


「要するに職員の給料すら払えないと」

「ええ。というか、もうこの冒険者ギルドにはギルド長と僕の二人しかいませんけどね」


 若い受付の女性職員は、元々小間使いのような仕事しかしていなかったが、女性というだけでいつの間にか受付に座らされ、女性らしさで冒険者たちを繋ぎ止めていたが、冒険者ギルドの規約も変わり、相手をするのも面倒になったので、一人称を「僕」にしてなるべく酒場に誘われないようにしたのだとか。


「それでこのギルドには冒険者はいなくなったと?」

「東島の魚の養殖場か、蛍石の運搬業務を見つけたみたいで、最後の冒険者もいなくなりました」

 俺が持っている会社の業務をしてくれているらしい。俺が奪ってしまったみたいだが、そもそも資金がないことが問題だ。


「ダンジョンから回収した品物の販売ルートはまだある?」

「それはあります。最近、あまり連絡は取っていませんが……」

 先方に忘れられている可能性もあるか。


「とりあえず、数日滞在するから、何件か依頼を請けるよ」


 掲示板に色あせた依頼書をはぎ取って、ソーコとループ爺さんと一緒に手分けをして依頼達成を目指すことにした。


「戦闘系と採取系を頼めるか?」

「わかりました」

「おそらくこの辺りのダンジョンはほとんど死んでます」

「わかった。ダンジョンは俺が全部行くよ」

「ナギさんは待たなくていいんですか?」

「寝坊した上に船酔いするからな。明日か明後日には来るだろ?」


 俺はいつものように麻袋とピッケルを持ち、リュックを背負って近場のダンジョンへと向かう。


 罠が多いそのダンジョンは古く、新人冒険者たちの登竜門だったらしい。ただ、数年前に奥の通路が見つかり、ドワーフが作ったとみられる機械仕掛けの魔物や毒を含む水蒸気などが発生する装置まで見つかり、新人冒険者は立ち入り禁止となったという。


「ドワーフの罠も、いい加減起動しないだろう」


 そう思って中に入ると、キュルキュルと音を立てながら、車輪で移動する魔道機械の魔物がいた。追ってくる魔物を落とし穴に落としてピッケルで何度も叩き破壊する。


「罠より先に機械の魔物を倒すか」


 一旦、罠に嵌っていた冒険者の死体を片付け、装備一式を麻袋に入れてダンジョンの外に放り投げておく。罠を解除するのも仕掛けるのも随分慣れてしまった。相手が鉄製だったとしても動きさえ止めてしまえば、それほど脅威には感じなくなった。表面の装甲を外して、中の歯車を止め魔石を取り出せば、魔物は動かなくなる。


 作業のように魔物を倒し、ダンジョンの奥まで探索する。奥にある隠し部屋には鉄のインゴットから銀や金のインゴット、指輪、宝石などが出てきた。


「本当に未探索だったのか……」

 金も宝石も質が高いので、高値で取引されるだろう。おそらく冒険者ギルドにいる2人にはボーナスを出せるレベルだ。


「このまま、終わってもいいんだけど、それじゃ面白くないよな」


 せっかくなので廃ダンジョンをさらにトレッキングすることに。


「ここからが本番か……」


 数年前に見つかった奥はほとんど探索されていないようなので、罠もすべて解除していく。動いていない魔物も大量に見つかった。これだけでも魔物学者に売れるのではないか。

 魔法陣はなかったが、メンテナンスのために歯車の鋳型や機械の組み立て図などを発見できた。ダンジョンマスターは自分で作ったのか、それとも古い文献化なにかから学んだのだろうか。重要なパーツには直接魔法陣を彫るらしく、それが召喚罠に似ていた。


「機械仕掛けの魔物とはいえ、元はゴースト系の魔物なのか?」


 近くの者を攻撃するわけではなく、ちゃんと敵かどうかも認識していたのだから意識があるのだろう。ただ、仕組みはわからない。


 学術的に重要と思う組み立ての作業指示が書かれている羊皮紙や、設計図などが記されたガラスのように透明な素材を丸めて竹筒に入れておいた。


「素材自体がわからないものも多いな」


 自動で植物に水を与えるシステムがあるようで、日光がなくても育つ植物がアロエのような植物も生えていた。幻覚系の毒もあるようなので採取しておく。


 その植物が生えた畑の先にダンジョンマスターの家があった。地下に家を建てるというのもおかしな話だが、意外とあるのがダンジョンだ。魔物も棲み処を作るくらいだから、ダンジョンマスターも住んでいてもいい。


 中を開けて見ると、魔法陣の罠があったようだが、完全に劣化して起動はしなかった。そもそも魔力がない俺が踏んでも起動しない。一部屋平屋の家は入った瞬間に中がすべて見える。


「ここにいたか」


 ダンジョンマスターは石造りのベッドにシーツ一枚かけて寝ていた。白骨具合から言って、死後50年ぐらいは経っているだろうか。シーツごとすべての骨を残らず回収して麻袋に詰めた。


 指輪や薬品の瓶などもあったが、今日のところはダンジョンマスターの遺体と、金属、宝石類を持ってダンジョンから出た。


 冒険者ギルドで、ダンジョン探索の依頼達成を報告。金銀インゴットと宝石類の鑑定を頼み、そのまま買い取りまでしてもらう。支払い料金は後日でいいので、まずはギルドの運営資金を作るように言っておいた。

 商人ギルドの職員にも来てもらって、証人になって貰って横領できないようにしてもらった。


「大丈夫です。さすがに品物があれば、仕事はしますから」

 受付の女性職員は、カウンターから出て、外へ走っていった。町の宝石商と金属加工店などを回るらしい。


「これで、冒険者ギルドも回るといいんですけどね」

 商人ギルド職員も心配していたようだ。


「難しい依頼もないから大丈夫だと思うんですけどね……」

「噂の山屋さんですか?」

 商人ギルドの職員は、俺を知っているらしい。


「噂かどうかは知りませんが、山屋と呼ばれているのは俺です。東島の魚や蛍石を買い取ってもらっているお得意さんですね」

「いえいえ、まさか港町よりも産業が発展し始めていて、焦っている魚屋やアクセサリーショップも多いですよ。質がいいのに価格が安いので」

「ほとんど社長たちに任せてしまっているので、俺にはわからないんですけどね。俺は金だけ出しているだけです」

「稼げる人は何をやっても稼ぐんですね」

「東島では使いどころがないんですよ。まぁ、大陸でもほとんど使ってませんでしたけどね」

「羨ましい限りです」

「いえ、俺は楽しくやっているだけです。これ、ダンジョンマスターの遺体なんですけど見ます?」

「いや、結構です。仕事が溜まってますから……!」


 商人ギルドの職員は、とっとと出ていってしまった。


 入れ違いで、頭を抱えたナギが冒険者ギルドに入ってきた。


「具合が悪いじゃないか。やっぱり船での長距離移動は苦手だよ」

「これ、近場のダンジョンで見つけたダンジョンマスターなんだけど、声は聞こえるか?」

「ああ、聞いてもいないのに身の上話をしている。うるせぇやい! 私は今来たんだ。初めから話をしな!」


 ナギは死人に厳しい。


 ダンジョンマスターは陶芸家の家系に生まれ、父親に「陶芸では食っていけないから」とダンジョン運営をしてみることにしたらしい。物質系の魔物と契約をして、壺ダンジョンや泥人形ダンジョン、ゴーレムダンジョンなどを経て、機械の魔物のダンジョンをするようになった。


 物質系の魔物に任せておけば自動的にダンジョンを運営できる。ダンジョンが自動化できたタイミングで、外に出てみたら、父親も家族も離散していて、街並みも変わってしまっていたと言っていた。

 どうにか家族を持とうとしてみたが、人よりも魔物と会っている方が性に合っていることがわかった。金を持つと責任も問われるようになるとか。それは俺もよくわかる話だった。


「面倒なんだよな。こっちは趣味でやってるのにさ」

「うわっ、『その通り!』って叫んでいるよ」


 結局、ダンジョンマスターは冒険者の死体を片付けるのが面倒になって、ほとんどダンジョンを閉鎖。地下で育つ野菜や薬草の研究をするようになったという。


「それも自動化しているって言ってるんだけど、あった?」

「あった。もしかして、それを冒険者ギルドの職員に買い取ってもらって、食料品や日用雑貨は町で買えばいいんじゃないのか」

「あ、それをやったみたいなんだけど、途中で買い取りも自動化しようと人間に近いゴーレムを使いに出したら壊されたんだって。なかなか難しいね。一人だけでも、理解してくれる人がいればよかったんだろうけど……。その点、山屋は案外周りに人がいるよな?」

「変人が多いけど、その点はよかったな。時代が違ったら、俺なんて生きていけなかっただろ? 運がいいのかもな」


 俺も廃ダンジョンばかり潜っているだけで、どうにか暮らしていた時代が長い。少ないながらも仕事を続けていたが、大金を稼げるようになったのはここ最近だ。食事はよくなったし、汚れ仕事もほとんどした記憶はないが、一番は俺が廃ダンジョン・トレッキングをして、ダンジョンの記憶を探り、歴史を知る喜びを分かち合える者と出会ったことだろう。


 ダンジョンマスターと平凡な俺との違いは生まれた時代と場所だけなのかもしれない。

 それがすべてか、それとも縁か。

 少なくとも自動化できない何かがそこにはある。


 ソーコとループ爺さんが帰ってきたので、ギルド長兼料理長が作る魚介のパスタやエビ料理を食べながら、受付の職員を待っていた。


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