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廃ダンジョン・トレッキング連載版  作者: 花黒子
東島編

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血族からの手紙(中編)


「野営するの? 宿があるのに?」

 ロギーが聞いてきた。

 俺とナギは慣れているが、ロギーは野営が嫌いなのかもしれない。


「嫌だったら、宿に泊まるといいよ。俺たちは慣れているし、廃ダンジョンの探索がいつまでかかるかわからないから」

「それじゃあ、取り分が……」

「ないよ。そもそも取るものがあるのかどうかもわからないからね」

「いや、あるとは思うよ。あれだけ声がしてるんだから、何もないことはないと思う。価値があるものかどうかはわからないってだけ」

「焚火の横で寝袋を敷いて寝るのも悪くないよ」

「ちなみに山屋の料理は味付けが濃いから美味しいよ」

 意外とナギは俺の料理を気に入っていたらしい。塩と山椒ばかり使っているだけなんだけどな。


「私も行くわ。寝袋買うからちょっと待って」

 ロギーは新しい寝袋を買ってリュックの上に乗せていた。

「全員山登りに行くような恰好をしているね」

「別に悪霊と戦うつもりがないからな」

「どうやって戦うの?」

「竹の水鉄砲で聖水をかければいい」

「骸骨は?」

「ピッケルで殴る」

「ナギ、そんなんで大丈夫なの? 一応、死霊術師でしょ?」

「悪霊に関しては、まったく動じない山屋の方が強いから。あと形あるものは罠に嵌めるでしょ?」

「うん。どうせダンジョンの中にあるだろ」

「ダンジョンマスターより山屋の方が罠を仕掛けるのが上手いから大丈夫だ」

「慣れだよ。さんざん見てきたからな」

「自信があるのね」

「廃ダンジョンならな。普通のダンジョンは別だけど」

 そう言うとロギーは不安そうな顔をしていた。

 

 再びシーリング家の屋敷跡までやってきた。

 門を開けて、焚き木を拾いながら正面玄関から入る。別に何があるわけでもなく、壊れた家具や野盗が入った形跡などがあるだけ。窓ガラスはすでにないが壁と屋根はあるので、玄関で焚火をする。


「こりゃ、大変だ悪霊だらけだね。恨まれ過ぎだよ」

 ナギは周囲を見回しながら聖水を水鉄砲に入れていた。俺は何も感じない。

「山屋は東島のお守りを付けていきなよ」

「わかった」

 俺は廃ダンジョンへ向かい、ナギは屋敷の探索。ロギーは立ち尽くして戸惑っている。


「ロギー、やることがないなら寝床でも作っておいてくれ」

「あ、うん。そうする!」

「落ちている家具の破片でも焚き木にくべていいからね」

「魔法使いなんだけど、こんなに戦力として扱われないなんて初めてだわ」

 俺もナギもソロの方が動きやすい。


 屋敷から出て俺たちが出てきたダンジョンへと向かう。

 ポータルの柱だけは壊さぬように立ち回ればいい。ランプの明かりを灯し、中に入っていく。


 いつも通りの廃ダンジョン・トレッキングだ。確かにナギではなくても寒気のようなものは感じるが、特に声が聞こえるわけでもないし、淡々とピッケルを片手に罠を探していく。

 召喚罠は多く、魔物の死体も少しはあった。むしろワープ罠はないので、召喚した魔物を帰そうとは思っていないダンジョンマスターだったようだ。そういうダンジョンの罠は雑だ。

 量だけあればいいとか、高価な素材を使っていれば威力も増すと思っている。悪霊退治専門の一家と聞いていたから、もっと思慮深いかと思っていたが、そうでもないのか。召喚罠はすべて破壊し、魔石も回収。毒矢の罠はスイッチを踏んでも矢が飛んでこなかった。

 壁をピッケルで壊すと毒をつけすぎて矢が地面に落ちている。


「あんまりこだわりがないのか?」


 ただ丸太罠の鎖やロープなどは丁寧に作られており、得意分野が違うだけなのかもしれない。骸骨剣士もたくさんいたし、白骨死体も落ちていたが、野盗か便利屋だった者だろう。それほど高価なものは持っていなかった。


 コンコンコン、ボコッ。


 隠し部屋には樽が並び、中には酷い臭いの汚水が入っていた。


 ランプを掲げると、隠し部屋の壁にはシーリング家の子孫へメッセージが書かれていた。


「聖水はあくまで低級の霊を封じるだけ。浄化できぬ此の世ならざる者は縄か鎖にて縛り、決して解くな……か。聖水を使った練習場だったのかもな」


 樽の中身は、おそらく聖水だったもので悪霊を封印したのだろう。悪霊は跡形もなくなっている。


 メッセージの最後に、縄の結び目のような印が描かれていた。

 シーリング家の紋章とも違う。


「何かを表しているのか。数字か、それとも何かの隠語か」

 わからないことは後でナギにでも聞こう。


 隠し部屋から出て、さらに奥へと進むと立派な石壁が出てきた。屋敷の地下だろうか。アーチ形の扉があった形跡があるが、扉はどこにもない。この壁にもやはりメッセージが書かれている。


「これより先は血族しか入れぬ領域。悪霊どもよ。鎖に引きずり込まれぬうちに引き返すがよい……。と言われても、俺は悪霊じゃないし大丈夫だろう」


 普通に奥へと向かう。特に罠はなさそうだ。魔法陣のようなものがいくつかあったが、魔力のない俺には効かないし、そもそも床が誰かの爪で引っ掻かれている。


「トラか熊がいるのか?」


 とりあえず魔法陣は罠のようなので壊しておいた。

 奥はT字路になっていて、壁に鎖と縄が結ばれていて、右に縄の絵が伸びていて、左には鎖の絵が伸びている。


「どっちが強いのかってことか? どっちも強いだろう。繋ぎ止めるのは鎖か、いや船はロープで結ぶしなぁ。なんだぁ?」

 どうせどちらも探索するから右から行くか。通常のダンジョンであれば、壁を左手で触りながら進むのが迷わない方法として有名だが、わざわざ石壁にしているのだから、意図があるような気がした。


「いや、そもそも鎖や縄の絵を描いてあるってことは、絵の通りに進めってことだよな。心理的に二択を勝手に迫られている。こういう場合は天井か床に罠が仕掛けられていることが多い」

 壁の絵を注目してしまっている。この絵を辿れると思いがちだが、それこそが罠の可能性もある。


 コンコン、ボコ。


 あっさり天井から白骨化した蛇の骨と虫の死骸が大量に落ちてきた。


「仕掛ける罠が浅はかなのは遺伝か?」

 これなら俺が仕掛けた方がいいような気がする。そう思っていたら、骨と虫が動き出した。当然、俺は踏みつぶしていくと、突然落とし穴が現れた。罠の警戒をしていなかったら嵌ったかもしれない。


「おっ、結構考えている。ここまでがセットで罠か。ちょっと面白くなってきた」

 ダンジョンマスターの考えが読み取れると、俺としても嬉しい。こういう対話がしたい。

 落とし穴には白骨死体があったので下りて麻袋に入れる。指輪や短剣などを装備しているのでプロの盗掘だろうか。


 天井から水が滴っている箇所もあった。地面に水たまりができているが、もしかしたら悪霊対策の聖水だろうか。そのほかにも教会の古いマークなども壁に描かれている。

 縄が描かれた壁の反対側には死霊術の儀式跡もあり、白い灰の山がいくつかあった。


「骸骨剣士を酷使したかな」

 骸骨剣士を倒すと灰になるのかもしれない。この状態でもナギは声を聴くのだろうか。とりあえず、隠し部屋を探しつつ進んでいくと、壁に描いた縄が増えた。

 床や天井にも縄の絵が描かれて、合流しているらしい。縄の絵は徐々に増え、どんどん縄が太くなっているような気がした。

 他に目ぼしい目印もないので縄の絵を辿っていくと、落とし穴や水たまりを経て、太い鎖の絵と合流していた。


 天井には丸く凹みがある。


 コンコン……。


 試しに凹みを叩いてみた。

「山屋~!?」

 ナギの声だ。


「おう。ちょうど真下にいるぞ!」


 ガンガン、ボコッ!


 天井を蹴破ってナギが落ちてきた。受け止める間もなくナギは咄嗟に敷いた麻袋の上で尻もちをついていた。


「大丈夫か?」

「受け止める素振りくらいはしてくれ」

「麻袋は敷いたぞ」

「ああ、それでか。尻が急激に太ったのかと思った」

 見上げれば丸い穴が開いている。そろそろ日暮れ時か。


「で、これは何だと思う? 壁に描かれた鎖の絵を辿ってきたんだけど……」

「俺は縄の絵を辿ってきた。悪霊の道標かな?」

「ずっと繋がってるってこと?」

「わからない。ただ……」


 俺は縄と鎖の絵が描かれた壁を叩いてみた。


 コンコン、カーン!


「結び目の音が違うね」

「壊してみるか?」

「うん」


 思い切りピッケルを振って壁を壊す。


「壁をピッケルで壊すなんてことができるのはやっぱり山屋しかいないよ」

「いや、ちゃんと壊れるように誰かが作ったんだ。中を見てみろ」

 俺はナギにランプを渡した。


「これが声の正体か」


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