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廃ダンジョン・トレッキング連載版  作者: 花黒子
飛竜の谷編

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ドワーフのサボり魔編

 特殊な趣味であることは自覚している。だが、最も安全に稼げる趣味でもある。

 俺が狙うのはただ一つ。廃ダンジョンだ。


 辺境の宿に籠っていた俺も、さすがに何もせず食べて行くというのも気が引けるので、宿の主人の趣味を手伝っていた。収集家の保存している宝を布で磨くだけだが、宿の主人からは褒められる。

 価値のある物を覚えられるし、こちらとしても助かる。


 その中に見た目よりも重い金属の像が出てきた。

「これ、なんですか?」

「わからない。近くで見つかったものだけど、どうやら古代ドワーフの信仰なんじゃないかと言われている」

「炭袋を背負いながら本を読んでいるようにも見えますけど……」

「いつだって勉強はできるってことなんじゃないの?」

「効率がよくないのでは? とっとと運んで読書に集中した方が早いですよ」

「そうなんだけどね。苦労を重んじてたんじゃないのかな」

「そんなバカな……」

「理解できない?」

「まぁ、今の感覚からするとそうですね」

「行ってみたらわかるかもよ」

「古代ドワーフの廃ダンジョンですか?」

「そう」


 駅馬車でドワーフの遺跡に向かう。

 古代ドワーフは今のドワーフと比べ大きく文明レベルが高かった。魔力や蒸気の力でゴーレムなど作り、鉄よりも硬い金属を使っていたと言われている。実際、今まで見てきた古代ドワーフの品々は硬いし重かった。


 では、なぜ今のドワーフにその技術が受け継がれていないのか。謎とされている。

 もしかしたら山奥で受け継いでいるドワーフたちが隠れ住んでいるかもしれないが、疫病や素材不足などの影響でゴーレム作りの技術は失われた。

ただ、他にも需要と供給のバランスが崩れたとか内紛があったとか、いろいろと理由があり過ぎてどれが原因とも言えなくなっているのかもしれない。そもそもゴーレムは魔王軍でも使われており、人間社会からすれば裏切り行為とも見られているため、隠したという説を信じている人が多いようだ。個人的にもそう思う。


辺境の三宿から、それほど遠くない山にドワーフの遺跡はあった。観光地になっているほど交通の便はよくないが、例えば山賊なんかがアジトに使おうとしたら、すぐに衛兵が取り締まりにやってくる。

 それくらい遺跡と村が近い。村はかつてドワーフたちが住んでいた居住跡を使っているらしく、土台がしっかりして嵐にも耐えられるし、立地的に川が近いのに氾濫の影響が少ないそうだ。


「よく古代のドワーフたちは考えてるよ」

 酒場兼宿屋の主人が教えてくれた。

「今は炭鉱が近いから、人も増えてきているんだ。首都圏は蒸気機関の時代だろ? 蒸気機関車に乗ったことあるかい?」

「いや、まだないです。でも、飛行船には乗りましたよ」

「うはぁ、空なんて高所恐怖症の俺にはできないよ」

 そう言いながら、趣味でダンジョンを探索したいというと一部屋貸してくれた。


「もうダンジョンの中には何にもないよ。みんな探し終わってるからな。罠も全部分解して持って行かれたからね。でも、趣味なら文句はない。なにか拾ったら買い取るぜ」

「重いものを見つけたら手伝ってもらえます?」

「ああ、そんなものを見つけたら、たぶん村人総出で手伝うぞ」

 宿屋の主人にも応援してもらいながら荷物を置いて廃ダンジョンへと向かう。


 ランプを点けて中に入ると、本当に何もないことがわかる。壁や床も引きはがした跡があり、古代ドワーフのちょっとした痕跡も残すつもりがないかのようだ。ところどころ岩に嵌って取り出せなくなった柱の一部や罠として仕掛けられていた床板などが残されていた。


「残っているものに価値はないか」


 奥に行くと誰かが観光地にしたかったようで、「石のベッド」と書かれた看板や「炉の跡」などと説明書きなどが残っていた。

 広い部屋に行くと、柱に「古代ドワーフの教室?」の文字が書かれていた。ちょっと低い長椅子と思しき石が埋め込まれて並んでいた。ドワーフはそれほど大きくならない種族だから、床に座った時の文机と考えると確かに教室に見えてくる。


「ということは、古代ドワーフはダンジョンで勉強していたのか?」

 辺境で磨いていた像とは違う。働きながら読書に励むドワーフの少年か。

 古い時代だから、児童労働は当たり前の世の中だったとしても、何かが引っかかる。


 ダンジョンには他に工房、金属加工所などの跡もあった。これだけでもこのダンジョンは古代ドワーフたちの生産拠点であることがわかる。


「炭鉱は別の場所だよな。んん?」

 炭袋を担ぎながら勉強をしていた者をわざわざ像にするのか。労働者階級から出た優秀な者ということだろうか。だとしても、やっぱり勉強の効率としておかしい。


 おそらく教室で教えていたのは、ダンジョンで働く技術だろう。だが、あの重い金属の像のモデルは別のことを学びたかったんじゃないか。


 俺はダンジョンを引き返し、宿屋の主人に炭鉱の場所を聞いた。


「街道を道なりに行ったら看板が出てるぞ」


 確かに街道に沿って行けば看板があり、炭鉱に辿り着いた。だが、高低差はあるものの獣道のように細い道を辿った方が炭鉱からダンジョンまでは早い気がする。

 細い道の方を辿ってみると、早々に道が消えていた。使わなくなってしばらく経つのだろう。それでも、岩などを目印にしていけば辿り着けそうではある。


 岩には何かで削ったような跡がある。昔の山道なのだろう。

 頂上付近には積み石も置かれている。


 炭鉱で労働してダンジョンで勉強をさせられる少年が唯一時間を持てる場所が、この山道だとしたら、この間に何をするのか。

 像を作るくらいだから後の世で偉くなったドワーフなのだろう。なにか思い出の地に残しているかもしれないと、俺は辺りを見回した。


 山道のすぐそばに天井がせり出した大岩があった。雨宿りができそうな場所で、豹などが棲みついていてもおかしくはない窪みもある。実際に近づいてみると肉食動物の骨がいくつかあった。

 牙だけ拾って、周囲の枯れ葉が積もる地面にピッケルを指していく。


 サクサクサク……、コツンッ。


 何かに当たった。俺は急いで宿屋に帰ってスコップを持ってきて、周囲を掘り進めた。宿屋の主人も「何か見つけたのか!」と付いて来ようとしたが、行き先がダンジョンじゃないと知ると宿屋に帰っていった。


 それが趣味と仕事を分けるところなのかもしれない。効率の悪いことはやらないのが仕事、効率が悪くてもしつこいくらいにロマンを追いかけるのが趣味だろう。



「壺か……」


 掘って出てきたのは人の胴体くらいある重い壺だった。中からカラコロと音がするので液体ではないようだ。


 封を切って蓋を取る。

『同じ志を持つ者よ。正しく使うなら、この中身はすべてお前のものだ』

 蓋の裏にはそう書かれていた。


 中身を確認すると、羊皮紙のスクロールと金のインゴット。それからドワーフが使っていたという重い金属のインゴットまで入っていた。


 壺を隠した主は、炭鉱から炭袋を運ぶ作業をしながら、ここで仕事をサボっていたのだろう。炭鉱に行けば炭を持たされるし、ダンジョンに行けば金属加工の勉強をしないといけない。

 サボりながら、なにか別のことを勉強したから偉くなったのか。炭袋を持ちながら本を読むという効率の悪いことをしていた理由がわかった気がした。

 教えられたことを学ぶだけでは、人と違う視点には至らない。


 俺は村で背負子を借り、壺を背負って山から下りた。

 古代ドワーフに詳しい考古学者を呼んで鑑定してもらうと、ドワーフの歴史では珍しく名前の知れた経済学者のものだったらしい。

 俺は学者に言い値で壺ごと売った。文化財として受け継がれた方がいいだろう。


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