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廃ダンジョン・トレッキング連載版  作者: 花黒子
東島編

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光る素材とダンジョンに嵌りすぎた男



 修行をして巣立つ者もいれば残って修行を続ける者もいる。

 ループ爺さんと活人拳のソーコは、結局生きていく金のために冒険者になるなら、俺の仕事を手伝った方が確実だと思ったらしい。

 ただ廃ダンジョンをトレッキングしているだけなのに、なぜか冒険者ギルドが支払えないくらい稼いでいるのだから不思議だ。


「給料と言っても大した金額は出せないぞ。しかも魔物と戦わないから強くなれるわけでもない」

「強さはある程度、満足した。それよりもワークライフバランスを考えれば、山屋の事業を拡げる方が重要だと思う」

「私も自分一人ができる仕事は限られていることを思い知ったので、他人のサポートをすることにしたんです」


 二人とも特殊な能力がありながら、なぜかそれを活かさない。空間をループさせることができるなんてただのチートだし、壁からゴーレムを作れたり、干からびた虫の死骸を生き返らせるなんて聖人でもないと出来ないというのに、俺には全く意味が分からなかった。


「今はそう思っているのかもしれないけど、いずれ状況は変わるからね」

 そう言って俺は大きなため息を吐いて、死霊術師のナギを見た。


「記憶をなくした私は、ちゃんと自分に向き合うために死霊術を使っていくよ。大丈夫、山屋が考えていることの方が普通だ。誰しも得意なことをして生きていく方が楽だよ」

「よかった。じゃあ、皆、それぞれ能力を使わずにピッケルで床を叩いて落とし穴を見つけていってね。俺は先を探索しに行くから」


 昨夜仕掛けた罠を見つける練習をさせている間に俺は先へと進む。移動に丸一日、探索に一日、帰るのに半日はかかる予定だ。

今日は大事な探索の日。


 少しでも進めないと自分が何の仕事をしているのかわからなくなってしまう。


 59階層の環境はちょっと特殊だ。光るキノコが壁から生え、蛍のように光る虫が飛び交っている。ただ、虫よりも大きな魔物は生きられないようだ。ランプの明りを消すと真っ暗な中に青白い光がそこら中にあり、幻想的だ。

 ランプには虫が集まってくるが、そのままにして落とし穴や召喚罠の解除をしていく。

 かつて召喚された魔物は落とし穴の中でキノコまみれになっているし、冒険者の痕跡はほとんどなかった。やはりここまで潜る冒険者はいないのかと半ば諦めていた頃、壁につるはしで掘った穴があった。


「久しぶりに人間の痕跡だ」


 虫を払ってランプを掲げると、穴の中に大きな蛍石があった。


「デカくないか?」

 

 ピッケルで周辺を掘ると、大きな蛍石が出てきた。加工がしやすく古くからアクセサリーに使われている鉱物なので、売れなくはないだろう。ただ、宝石よりは価格は低い。

 周辺の床も掘ってみると、ゴロゴロと蛍石が出てきた。


 拠点に持って帰って、皆に見せると一様に驚いていた。


「もっと透明度が高ければ、価格も上がるんでしょうか?」

「ここまで大きいのは滅多に見つからない。それなりの値段はするだろうが、三日かけるなら、リュックで一抱えくらいは持って行かないと割に合わないぞ。ただ、加工するならいいかもしれん」

「土産物屋の婆さんに聞いてみるか。ビーズにしてネックレスや指輪にすれば、高く売れるかもしれない」

 それぞれ案を出してくれた。

「いや、あのソーコが命を吹き込んでゴーレムにすればたくさんもっていけるんじゃないか?」

「ああ……、確かに」

「そんなにあるのか?」

「壁も床も掘ればかなり出てきますね」

「また、仕事を作ってないか?」

「そうかもしれない」


 一度、3人にも蛍石の鉱床を見てもらった。


「このキノコ珍しい錬金術の素材だから、半分取っておこう」

 キノコも干せば金になるらしい。

「どうしてこんなものがダンジョンに埋まってるんだ? いや、まぁ、それほど人が来ないというのもわかるけど」

「先人が掘った後はあるんだけど、帰りが長いからね」


 結局、キノコをなるべく取り、蛍石はゴーレムにして外へと運び出した。

 土産物屋の婆さんを連れてくると口を開けたまま呆れていた。


「あんたたちこんなに採ってきて、どうするつもりだい? 小分けにして少しづつ売るしかないね」

「キノコも見てよ。ここまで質のいい発光キノコはないでしょ?」

 ナギがリュックの中身を見せていた。

「あら? 本当ね。いやいやいや、欲のない男のもとに金が集まってくるもんなんだね」


 蛍石のアクセサリーはまじないがよくかかるらしいので、加工して土産物屋で売ることになった。30年くらいは作り続けないといけないので、大陸にも行商人を向かわせると言っていた。干しキノコも同様に売り込みに行くという。


「こうなったら遊んで暮らした方がいい!」

「そうですよ。もう仕事はしなくていいですよ!」

 ループ爺さんもソーコも俺が仕事で廃ダンジョントレッキングをしていると思っているらしい。


「残念。山屋にとってはこれも趣味なのさ」

「参った。どうするか」

「これだけのことをやっておいて、そんな迷い方をするのは山屋くらいだよ」

 土産物屋の婆さんに苦言を呈された。

 

「ナギ、俺、もうちょっとダンジョンについて勉強するわ。人とは違う嵌り方をしすぎた」

「だろうね。紅葉島の塔にいくつか本があったよ」

「よし、仕切り直しだな」

 俺は今までの経験的な知識を一度捨てた方がいいと思い始めていた。


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