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廃ダンジョン・トレッキング連載版  作者: 花黒子
東島編

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活人拳の弟子


 殺人拳という武術を使う武道家は、よく大陸でも街角で見かけた。僅かな力でレンガを割ったり、投げナイフを掴んだりする者たちだ。実際、彼らがダンジョンに入る時はちゃんと武器を携えていくわけだが、確かに動きはよく身体能力が高いイメージが強い。


「武術家、武道家とは一緒にダンジョンに入ったこともあると思っていたんですけどね」

「殺人拳は使えないんですけど、活人拳は使えるんですよ。それじゃ、ダメですか?」

 武術家の恰好をした女の子がわざわざ東島まで俺を訪ねてきた。どうやら、誰かにそそのかされて一番人間の死体を見ているのは山屋という冒険者だから、修行をさせてもらうといいと言われたそうだ。


「なんの修行にもならないと思うよ。死体を運んでいるだけだから」

 死霊術師のナギが説明したが、渋い顔をしていた。


「まぁ、東島まで来て、何も修行しなかったら、帰り難いだろう。ダンジョンを見るだけ見ていくか?」

「はい、お願いします!」


 俺もナギもどうせ活人拳などと言ってもマッサージだろうと思っていた。柔術整体師にお世話になってこともあるので、ナギの身体を揉んでもらおうかと考えていた。


「活人拳ってどんな武術なの?」

「細胞を活性化させる武術ですね」

「へぇ、そうかぁ」

「わかりにくかったですか?」

 生返事をしたら、問い質された。


「見ないとわからないもんだよ」

「ああ、そうですよね。例えば、あ、この虫とかをこう……」


 道端にいた今にも死にそうな甲虫を捕まえて、女の子は「えい!」と気合を入れてデコピンをした。


 ブーン!


 甲虫は突然羽を震わせたかと思うと、勢いよく飛んで行ってしまった。


「こんな感じです」

「ええっ!?」

「すごくない?」

 俺もナギも顔を見合わせて、女の子を見た。


「これを人でもやるって感じですかね? 死体にやると動き回っちゃうんで大変なんですけどね」

「それって死霊術じゃないの?」

「霊なんて信じてるんですか?」

「私、一応死霊術師なんですけど……」

「ああ、そういう人もいますよね」


 幽霊は信じていないが、死霊術は信じているらしい。現象が起こっているし、実際に効果があると思っているが、自分が使えるわけではないので気にしていなかったと言っていた。


「まぁ、今は記憶がなくてほとんど使えないから、それくらいでいいんだけどね。死者の声が聞こえるくらいかな」

「ええ!? すごい!」

「いや、死体を動き回らせる方が凄いだろう」


 とりあえず、活人拳の蘇生子ソーコと名乗る女の子をダンジョンへと連れて行った。


「ナギさんは入らないんですか?」

「うん。声しか聴けないから。たくさん荷物がある時は手伝うよ」

「なるほど……」

「よし、行こうか」

「はい」


 ダンジョンは広いので道も知らないソーコは時間がかかるかと思ったが、武術家らしく身のこなしが軽く、ひょいひょい俺のペースで付いてきた。


「何階層まで下りたんですか?」

「23階層くらいかな。移動が速くてよかったよ」

「結構、必死でした。真っ暗で何も見えないので」

「ランプをいくつか持ってくればよかったな。仕事するから、何か魔物を見つけたら声をかけてね」

「あ、こんなところにも罠が!?」


 俺は落とし穴から、冒険者の死体を床へと持ち上げた。大した装備はしていないが、まじないなどが掛けられた指輪やネックレスなどを付けている。この辺から、徐々にダンジョン慣れしている冒険者たちの死体も出てくるということだ。


「活人拳で、この死体を入口まで運べない?」

「そういう指示は出来ないんですよね。死霊術なら出来るんですか?」

「出来ると思うんだけど、ナギが思い出してくれればな」


 とりあえず、袋に入れて再探索。罠も魔物の死体もたくさんある。


「ほとんど死体なんですね?」

「ああ、長い間ダンジョンは塞がれていたっていうのに生きてたら困るよ」

「そうですね」

「まだまだあるから、とりあえずランプの近くで待っていて」

「わかりました!」


 疲れもなさそうなので、仕事が終わるまで待っていてもらおう。暇だったら身体動かしていてもいいと言っていた。武術家や武道家は一人でもできる訓練を知っているだろう。


 そう軽く考えていただけなんだけど……。



「すみません! 山屋さん!」


 落とし穴の底にあった杭を引っこ抜いていたら、慌てた声が聞こえてきた。


「どうかしたか?」

「壁に活人拳を使ってしまいまして……」


 ゴスンッ!


 見上げるとソーコの二倍はあるゴーレムが襲い掛かっていた。


「一旦通路に逃げ込め!」

「わかりました!」


 俺は落とし穴に戻り、ゴーレムをやり過ごす。落ち着いて考えると、壁に活人拳を使うと、ゴーレムが発生するというのは、ちょっと異常だ。ソーコは物体を魔物に変えられる能力があるのか。危ないとかそういうレベルじゃない。どこかに保護をしてもらった方がいい。


「そのどこかが俺なのか……。誰だか知らないが、こっちはとんだ災難だよ」


 ソーコが逃げている間にゴーレムは落とし穴から離れていった。


 ゴスンゴスン……。


 足音が聞こえているので、どこにいるかはわかる。


「さて、どうしたものか……」


 ゴーレムなんて魔物を退治したこともない。ただ、壁から発生しているということは、壁よりも硬いということはないだろう。

 俺はピッケルを持って、ゴーレムの背後を付けていった。


「た、助けてください!」


 ソーコが狭い通路の先で叫んでいた。その声を聞いてゴーレムが襲い掛かっているというのに。


 俺はゴーレムの足を後ろから叩いた。


 バコンッ。


 ゴーレムの足が吹っ飛んでいく。

 固さは壁と同じくらいか。これならいけるな。


 そのままピッケルをゴーレムに振り下ろして全身を崩していった。固いピッケルを用意しておいてよかった。


「ソーコちゃん、才能があるのはわかったから、無暗に活人拳を使わないように」

「わかりました……。山屋さんって強いんですね?」

「生まれたてのゴーレムぐらいなら、どうにか倒せることがわかったよ。戦い慣れていた個体だったら、絶対無理だな」


 罠を解除しつつ、すべての荷物をソーコに背負ってもらい、入口へと向かった。ソーコには仕事がないから余計なことをしてしまうので、負荷をかけた方が大人しい。

 ナギにゴーレムを発生させていたと説明したら、ものすごい驚いていた。


「無機物を魔物に変えられるってこと? それめちゃくちゃすごいことだよ!」

「でも、自分が襲われましたけど……」

「それは本当に使い方を覚えないといけないね。ああ、そのための修行か……。魔物発生させる能力だけじゃなくて、魔物を使役するスキルも取得した方がいいんじゃない?」

「それに越したことはないけど、そんなことできるの?」

「うん、思い出したよ。死霊術の初歩ね」

 ナギはソーコに、小さな虫の死骸を取ってこさせ、ナギが死霊術で動かし、ソーコが操る修業を始めた。


「変なのが増えちゃったな」

 死霊術師に活人拳の弟子ができた。


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― 新着の感想 ―
ソーコちゃんやべー子だったよ〜 そして弟子としていついちゃう
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