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廃ダンジョン・トレッキング連載版  作者: 花黒子
東島編

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32/115

愛は永遠に続くのか問題


 東島で評判のアヒージョが美味しいという料理店から、依頼を請けた。

 日頃、廃ダンジョンに潜りおよそ一般的な冒険者のイメージからかけ離れている生活を送っているが、物珍しいのか声をかけてくれる島民もいる。


 オーナーは昔エビ漁をやっていたという人で、ちょっとだけ耳が尖り、犬歯が長かった。所謂吸血鬼顔だが、目は優しく、肌も日焼けしていた。その上、大蒜たっぷりのアヒージョで有名な店なんて、吸血鬼のイメージじゃない。


「いや、見ての通りこんな顔だから小さい頃はいじめらたりもしたんだ。ヴァンパイアだとね。実際、お袋は本当の親父については全く話してくれなかった。一人息子の俺を大陸の学校まで行かせてくれて、立派に育ててくれたことは今でも感謝している。そのお袋を探してもらいたい」

「行方不明なんですか?」

 エビのアヒージョとワインを頂きながら、聞いた。仕事前だというのに、島時間が流れているせいか朝から飲んでしまっている。

「もう7年になる。土曜の客がはけた深夜に、決まってお袋は花を一輪買って島のどこかへ行くんだ。たぶん、親父の墓参りをしに行ったんだと思う。島中探してみたが、山の中も洞窟も全部探したが、どこにもいない。いるとすれば、ダンジョンの中だ。生きていないにしても、遺体もないと墓も建てられなくてな……」

「お母さんはなにか冒険者だった過去とかはあるんですか?」

「ああ、荷物を整理していたらいろいろと出てきたんだ。長い剣とか立派な革の鎧とかが。小柄なお袋にしか着れないようなやつさ。俺はお袋がいなくなるまで、お袋がどこから島に来たのかも、どうやって生きてきたのかも全く知らなかったことに気が付いた。今思えば『できっこないことをやらなくちゃな』が口癖だった」

「もしかしたら本当に自分は吸血鬼と人間の混血なんじゃないかと?」

「吸血鬼は、そのぅ……、種が死んでるんだろ? でも、お袋なら挑戦したんじゃないかと思って……」

 確かに、吸血鬼は生殖機能はないが、血によって血族を増やしていくと言われている。

 とにかく料理店のオーナーは自分の出生と母親の行方を探している。おそらくダンジョンの中にまだいるんじゃないかと思っていると。


「俺は廃ダンジョンの専門家ではあるんですけど、他のことはわかりません。もし、でも遺体を見つけたら、知り合いの死霊術師がわかると思うので、聞いてみますね」

「頼む。見つけたらエビと大蒜は弾むよ」

 島ではお金よりも現物の方が価値がある。使える場所が限られているからだ。

「よろしくお願いします」


 一旦、宿に帰り仮眠してから死霊術師のナギと打ち合わせ。


「なんだ? そのアヒージョっていうのは。私も食べればよかった」

「寝てるから」

「朝は苦手だ」

日が出ている時に絶好調だったナギを見たことがない。


「そういや、あんたたちに大陸から手紙が来ていたよ。遺族と連絡が取れたって。墓参りに来る人も増えるかもしれない。ナギ、あんた本物の死霊術師だったんだね」

 酒場の女将さんが教えてくれた。

「偽物装って長期滞在するバカはいないよ。私の記憶が落ちてたら教えて」

「ナギの色がついていたらね」

「たぶん、アヒージョっていう食べ物には色がついていそうだよ」

 女将さんに夕飯を催促してから、俺たちは廃ダンジョンへと向かった。


「ああ、こりゃ今日は荒れそうだなぁ」

 ナギは雲一つない空を見上げながらつぶやいた。

「嘘つけ」

「島の天気は荒れやすい。海鳥が、風を受けて全然鳴いてないだろ? 警戒してるんだよ。今日は中で待たせてもらうよ」

「好きにしてくれ。とりあえず残っている物は宿屋に持っていってくれよな」

「へいへい」


 ランプの火を点けて、ピッケル片手に二階層へと向かう。一階層に関しては、後は荷物を運ぶだけ。ナギも冒険者の死体が見つかるまで暇なので、それくらいはやることになっていた。働かざる者食うべからずだ。


 二階層に下りていって、最初の部屋にその板はあった。土に埋もれているものの普通に木目が露出している。ピッケルを差し込み、てこの原理で引きはがすと、穴が空いていて中はドライフラワーの山になっていた。その中に老婆らしき遺体があった。


「早速見つけてしまったか」

 花の匂いで虫が寄り付かなかったのか、そこまで損傷はない。遺体を花と一緒に袋に詰めて、周辺を探索しようとしたら目の前の壁には蝋燭を置くための穴が空いていた。蠟が溶けている。

 壁を掘ってみると壺が出てきた。中には灰が入っていた。吸血鬼が死ぬと骨も残らない。以前会った吸血鬼は、鉄分の足りない夜型の人間と変わらないと言っていたが、遺灰には魔力がかすかに残っているらしい。


「俺にはわからんな」


 灰の入った壺と、老婆の遺体を背負って一階層へ運んだ。

 それほど時間は経っていないはずだが、外は嵐に変わっている。


「見ろ。しばらく、ダンジョンから出られないよ」

 ナギは焚火をして、お茶を淹れていた。袋は減っているので、幾つか運んだようだ。


「さっき、打ち合わせした料理屋オーナーのお袋さんがたぶんこれだ。あと、吸血鬼の遺灰っぽいものも見つけた。これ鑑定できる? もし吸血鬼の遺灰だったらちょっとだけ魔力を感じるみたいなんだけど」

「ああ、たぶん、吸血鬼のだと思うよ。まったく声が聞こえないし、魔力も感じるから。お婆ちゃんの方は、息子に謝ってるよ」

「そうか。話を聞いてあげてくれ」

「うん、わかった」


 とりあえず、俺は二階層の探索へと戻った。

 低階層だからかわかりやすい罠と隠し部屋はたくさんあった。宝はほとんどなくなっているが、冒険者ではないような死体が多い。入口は鉄格子の扉で閉まっていたはずだが、どこかに隠し通路があるのか。


 コンコンコン……、カンッ!

 

 探索しているうちに鉄の壁に行きついた。


「扉か? あ、下ろし戸か」


 蝶番がないから、どうやって開けるのかわからなかったが下ろし戸になっていて、壁際のレバーで操作ができるようになっていたようだが、レバーも含めて下ろし戸が完全に壊れていた。


「こりゃあ、一人じゃ持ち上げられない。閉じ込められた奴もいるのかもしれないな」


 観光客の中には、死に場所を探しに来た者もいれば、不運な事故で行方不明になった者もいるようだ。


 とりあえず、遺体はすべて袋に詰めて一階層へと運んだ。


「どうだった?」

 メモを見ながら、悩んでいるナギに聞いてみた。お茶が足りないのか。

「説明しにくいな。えーっとね。オーナーのお袋さんは、ヴァンパイアハンターで同性愛者だったみたいだ」

「要素が多いな」

「ああ、遺灰の主は、吸血鬼に襲われて吸血鬼になってしまった元相方であり元恋人でね。目の前で自死したらしい。吸血鬼は同胞の遺灰で、魔術を施すと言われているから遺灰をこのダンジョンに隠したんだ。捨てるに捨てられない。墓を建ててやれればよかったんだけど、同性愛には厳しい時代だからさ」

「へぇ。じゃあオーナーは拾い子か何か?」

「いや、それがハンターは引退して生活はしていたんだけど、どうしても寂しくなる時があったみたい。それで遠洋漁業の漁師が海が荒れた時にたまたま来ていたんだって、その人との子らしい。漁師がその後、来ることはなかったし、たぶん息子が生まれたことも知らないってさ」

「そうなると……、オーナーが吸血鬼っぽいのは、ただの遺伝?」

「うん、そうみたい。ヴァンパイアハンターって、ずっと吸血鬼を追っているから、誘惑されないように我慢していたんだけど、引退したら他の女にも男にも興味はもてなかったけど、吸血鬼っぽい男を好きになれたらしい」

「難しい人生だな」

「息子は愛していたけれど、エビの漁師だったんだって?」

「そう言ってたね」

「父親と同じ職業になるんだなと思ってたんだって。でも、その前に恋人が死ぬときに永遠の愛を誓いあっていたから、墓参りに行くのは懺悔する気持ちもあったらしい。かなり言い難そうだったから、葛藤はあったんだと思うよ」

「愛は移ろいやすいから誓い合うんだろうな」

「だろうね。元恋人への愛情は本物だし、息子に向ける愛情も本物だよ」

「じゃあ、遠洋漁業の父親にはないってこと?」

「そうだね。探すつもりもなかったみたいだし、一夜限りに近いんじゃないかな。息子を育てる生活は幸せだったと言っていたけど」

「どうやって説明すればいいのか難しいな」

「だよね」

「お袋さんはなんで死んだの?」

「それは普通に、棺にいつものように花を捧げていたら、今みたいに嵐になって出られなくなったらしい。眠くなって花を抱きしめるように眠っていたら、そのまま起きれなくなっていたってさ」

「なんだろうな。誰がどうやって説明すればいいのかわからないな」


 嵐が去った後、それでも嘘偽りなく真実を説明しに行った。


「……ということなんですけど」

「ああ……」

 オーナーはしばらく呆然としていた。


「じゃあ、俺の父親はどうでもいいし、あんまり覚えていないからお袋は喋ってなかったってことですか?」

「そうみたいですね」

「なるほど……」


 その後、なぜかアヒージョで有名なその店では、遠洋漁業の漁師にはお酒を一杯サービスすることになっていた。オーナーも心の置き所を迷い続けているのだろう。


 お袋さんの墓はしっかり建てられ、一緒に吸血鬼になった元恋人の骨壺も入れられたようだ。


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