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廃ダンジョン・トレッキング連載版  作者: 花黒子
東島編

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きれいすぎる死体


 朝から獲れたてのカツオの刺身定食で腹を満たし、健康的に仕事へ向かう。

 廃ダンジョンを探索する冒険者である俺は、大陸から離れた島に棲みついていた。島の中心部にある大きな廃ダンジョンが職場だ。

 いつもは一人で仕事をするが、島ではナギという記憶喪失の死霊術師が一緒についてくるようになった。どうせ町にいても役に立つわけでもなく、死霊術師を島民は気味悪がっているので仕事があるだけいいのだろう。

 それにダンジョンには大勢の遺体がある。死霊術のほとんどを忘れたものの死者の声が聞けるナギが唯一の特技を発揮できるのが廃ダンジョンだった。


 基本的には俺が中を探索し、ナギが外で死体袋に詰まった死者から話を聞く。特に夜中に仕事をしなくても島民全員が俺たちの仕事をなんとなく理解してくれているので、朝から仕事ができる。


「よーし、じゃあ、昼頃戻ってくるから待っててくれ」

「ちょっとそれは待ちくたびれそうだから、少し手伝う。初めの死体を見つけるまで後ろをついていっていいか?」

「ああ、わかった。ルールは簡単だ。俺より先に行くな。罠に嵌ると面倒だから」

「いいだろう」


 ダンジョンの一階層だけでもかなり広い。先日一通り回ったつもりだが、全然罠も死体も残っていた。早々に骸骨を見つけたので、ナギはそれを持って外へと出ていった。


 コンコンコン……。ガサガサガサ……。


 廃ダンジョンには樹木が生えていたエリアがあり、天井に開いた穴から自然光が差し込んでいる。過去には部屋全体が緑で覆われていたようだが、今は自然光が差し込む部分だけが植物で生い茂っていた。

 いくつか倒木があり、その中にトレントという樹木の魔物がいた。もちろんすでに枯れているが、魔法の道具の素材として使われることがあるし、魔物学者にとっては研究材料になる。少し重いが、一旦トレントの死体を担ぎ上げて、外へと持って行った。


「おいおい、そんな丸太まであったのか?」

 ナギはポットに火をかけながら聞いてきた。お茶でも飲もうとしていたらしい。宿の茶葉を盗んできているあたりがちゃっかりしている。

「樹木の魔物だ。死霊術で甦らすなよ」

「わかってる。そもそも魔物を蘇らせるなんてできたかどうか……」


 俺もお茶を一杯貰ったら、落ち着いた。おそらく今日の作業は植物の部屋を掃除するだけで終わるだろう。先は長いのでゆっくりやっていくことにした。


 ピッケルではなく草刈り用の鎌に持ち替えてダンジョンへと入っていった。

 植物部屋にある枯れ枝を集め、まとめてひもで縛っていく。焚き木の足しにしよう。ほとんど枯れているので、重くもないし楽な作業ではある。

 大きな大木から蔓をはぎ取っていた時のことだ。中から座禅を組んだ状態の女性僧侶の遺体を発見した。まだ皮も髪も残っていて、生きているかのように目玉もはっきりとある。

 体液は出ているものの、ここまできれいな遺体は見たことがない。さぞかし名のある僧侶なのではないかと思ったが、ここは廃ダンジョンの一階層だ。

 

「なんでそんな僧侶がここで死んでるんだ?」

 とりあえず遺体を袋で覆い、ロープで縛って外へと運んだ。


「なんだそりゃ!?」

「見ろよ。すごい僧侶かもしれない。とりあえず話を聞いてみてくれ」

「聞けるかなぁ」

「とりあえず、俺は部屋の掃除をしてくるから」

「わかった。死霊術師と僧侶はあんまり職業的には相反するんだけどなぁ」

 死者の魂を鎮める僧侶と死者を蘇らせる死霊術師か。


 仕事に戻り、枯れて中身がスカスカになっている大木を割り、枯れ草をまとめる。虫が大量に発生していた痕跡がいくつも見つかった。それなのに、どうしてあの僧侶の死体は腐ることもなく保存されていたのか。


 とにかく焚き木や枯れ草を山ほど抱えて、何度も外と往復した。緑が残った場所だけは残しておく。アルラウネのバラバラ死体やドルイドの骨だけ残った死体も片付けて、疲れすぎた。


「よし、今日はこの辺にしよう」

 すっかり空は茜色だ。


「どうだった? その僧侶」

「ああ、日陰を歩いて随分と毒を食らって生きてきて、最後は安住の地を求めてこの島まで辿り着いた感じかな。最後はここまできれいに保っているのはすごいね。信仰が厚いというか神々しさもあるからね。一応、証言を読む?」

 ナギはメモ書きをしてくれていた。


 僧侶は山村で生まれ魔物によって廃村となり、奴隷商に売られたらしい。そこから娼館で見習いのようなことをしながら働き、そのまま娼婦として働くことになる。死んでも美しい顔立ちをしているが、娼館では相当嫉妬に晒されたらしい。

 この頃から毒を盛られ、耐性を付ける生活が始まっていた。

 貴族に見初められて愛人となるも、貴族は没落。そのまま逃げるようにして教会に駆け込んだが、そこでも僧侶同士の嫉妬の争いに巻き込まれた。

 神に仕えている者たちの嫉妬は激しいが、毒の耐性もあって乗り切れてしまい、神父に見初められたが、そういう生活に嫌気がさしていたので、そのまま旅の僧侶として教会を出た。


 旅で出会った人たちの優しさに触れていたが、心の奥底に嫉妬に狂わされた人生という呪いが渦巻いており、誰も自分のことを知らない土地を求めて、この島まで辿り着いたという。

 ダンジョンでは毒草が生い茂る場所を見つけて、何度も通い詰めた。魔物たちも干渉しなければ襲ってはこない。

 安住の地を見つけたと、そこで呪いを晴らすように祈りを捧げ続けていた。


「毒も効かない僧侶が来て、魔物もよくわからなかったんじゃないか。虫だって毒だらけの体に寄り付かなかったんだと思う」

「そうか……」

「でも、この身体で60歳だからね。生きてたら相当美人だったと思うよ」

「お堂でも建てた方がいいかもな」


 とりあえず樽を持ってきて、僧侶の死体を酒場の女将さんに見せた。


「げっ! なに? 死体!?」

「ダンジョンにあったんですよ。相当古いはずなのに、蝋人形の様でしょ? たぶん、お堂でも作って祀っておいたら、観光名所になりますよ」

 そう言って、提案してみたが、女将さんは首を縦には振らなかった。

「死んでからも嫉妬の対象になんかされたくないでしょう。皆と一緒の墓地に入れてあげたほうがいいよ」

 人はいつか皆死ぬ。確かに、そこは嫉妬する余地がない。


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