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廃ダンジョン・トレッキング連載版  作者: 花黒子
飛竜の谷編

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廃ダンジョンになるまで


 日頃、自分は廃ダンジョンを巡っているが、人生で初めてダンジョンに興味を持ったのはいつだっただろうか。冒険者ならわかると思うが、初めてダンジョンに入る時の高揚感は今でも覚えている。


 おそらく冒険者にすらなっていなかった少年時代。山にある洞穴を見つけて、もしかしたら洞穴ではなくダンジョンで、奥に財宝が隠されているのではないかという何の根拠もない期待があった。少年時代はそんな曖昧な期待だけで、行動できた。


「確かめたい」


 その衝動だけだ。

 結局、初ダンジョンには何もなくただ熊が寝ていた窪みがあるだけだったが、少年時代の自分にはそれで十分だった。


「それが初めてのダンジョンか。俺も似たような洞穴だったと思う」

 朝飯終わり、まったりとした時間にお茶を飲みながら、辺境の宿の主人に俺の初ダンジョンの話をしていた。

「俺も動物の巣穴だったな。一番使われているダンジョンってそういうのなのかもな」

 隣の宿の主人も同じような穴を見つけていた。

「ん? どういうことだ」

「誰かが期待をして入る洞穴がすべてダンジョンであるなら、そういう洞穴こそがダンジョンの原点にして最も広まっているんじゃないか」

「ダンジョンの定義か……」

「俺はちょっと違う」

 宿の主人は別の定義をしているらしい。

「要は誰かの思惑がなければダンジョンとは言えないんじゃないかと思う。少なくとも洞穴とダンジョンとは別だ。ダンジョンマスターがいて、侵入者との知恵比べの場なんじゃないかな」

「知恵比べか。巨大な罠であるとするならそういう要素も捨てきれないね」

「実際はどうなんだ?」

「本当に一部屋しかないダンジョンも見たことがある。熊の魔物を狩るために、入口に罠を仕掛けて、魔物に殺された人もいたよ。それはちゃんと洞穴であり知恵比べをした後があったし、事実として近くの村は平穏を取り戻していた。だから、洞穴はダンジョンになり得ることは確かだ」

「古い貴族で儀式のために使っていたダンジョンがあると聞いたことがあるんだが、本当か?」

「ああ、そのダンジョンの最後に立ち会ったことがあるな……」


 何年も前の話だが、古くから続く貴族のダンジョンに行ったことがある。爵位継承のための儀式を行う場所として使ってきたが、平和な時代が続き儀式も簡略化したためダンジョンを閉鎖するという。


「一番奥に泉があってそこで沐浴するのが儀式だったんだが、父は儀式を行う前に他界したし、正直、私兵などの維持費もかかりすぎているから、閉鎖したいのだ」


 ダンジョンの入り口には私兵の詰め所があるが意味はない。山賊や魔物に荒らされるのは、さすがに先祖に悪いと思って閉鎖を決めたと言っていた。


「とりあえず、罠を解除していけばいいんですかね?」

「頼む。なにか財宝を見つけたら教えてくれ」

「取り分は1割貰いますよ」

「わかった」


 俺はそのまま儀式用のダンジョンに進み、いつものように罠を解除していった。特に召喚罠が多かったが、すべて解除。ワープ罠がないところを見ると、魔物は出しっぱなしにして爵位の継承者が倒し自信をつけていくシステムだった。

 召喚した魔物からしたらいい迷惑だ。


 コンコンコン……。


 隠し部屋もなく、本当に儀式のためだけに作られたダンジョンだった。

 ただ、最奥の泉に行ってみると、泉の中に金貨や宝石、まじない効果のある剣などが沈んでいる。

 泉の壁にプレートが嵌めこまれており、『苦しい時は好きに使って再興せよ』と書かれていた。


「これだけの後ろ盾があるから、なんでも思い切りやってみろという先祖からのメッセージか」


 さすがの俺も気が引けて、金貨などは受け取らなかったが、依頼主の貴族に報告した。


「正直、今あっても争いの種になるだけなんだよなぁ」

 そう言っていた貴族だったが、泉から財宝をすべて運び出し、1割を俺にくれた。



「……結局、そのダンジョンは埋められた。泉だけでも残しておけば、水が足りなくなった時にも使えると思ったんだけどなぁ」

「1割の財宝でも相当儲かっただろ?」

「ああ、でも、その貴族の領地で全部使った。そうしないと土地の先祖に怒られる気がしてね。井戸とか水車が壊れてたから直して使っちまったな。それが一番だろう」

「そういう廃ダンジョンもあるのか」

「うん……」


 誰かの思いが消えた時にダンジョンは廃棄されるのかもしれない。


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