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廃ダンジョン・トレッキング連載版  作者: 花黒子
飛竜の谷編

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19/115

最強に甘んじている男


 特殊な趣味であることは自覚している。廃ダンジョンに潜ることを趣味にして、冒険者としてはほとんど戦わない。そんな活動をしていると不思議な出会いがある。


 俺が知る限り、人類で最も強い男もその一人だ。身の丈は、それほど大きくはないし、筋肉も人並みよりも少し多いくらい。がっちりとした体形だが太っているわけではなく、魔法が得意と言うわけでもない。

 ただ、大量に魔物を殺している。どのくらいかと言うと、もしも魔物の村があったら、一週間もあれば全滅させているくらいだ。そんな生活をだいたい20年ほど続けていると考えて見てほしい。

 例えば100頭の魔物が住む村だと考えれば、一年52週なので、年間5200頭は討伐していることになる。それの20倍だから、単純計算で104000頭。それほど魔物がいるのかが驚きだが、本人はそれほど倒している感覚はないらしい。


 穏やかな顔をしてお茶を飲みながら、「最強に甘んじている」と本人は口にする。それほど倒しているのだから実際レベルはかなり高い。


「羨ましい限りだ」

「どこがだ? これ以外に趣味がないんだぜ。いいよな、スカベンジャーは。向こうから依頼されたり契約に来たりするんだろ?」


 初めは何を言っているのかわからなかったが、最近はこの男についてよく考えるようになっていた。

 そんな俺の思いが伝わったのか、男から連絡があった。


 手紙には「野生のベリーが実ったので、ジャムを作りにこないか」と書かれていた。田舎のおばさん同士の誘いみたいだが、本人はいたって真面目だ。


 俺も普通ならこんな誘いは断るのだが、男が住んでいるのは廃ダンジョン。行かないわけにはいかない。


 偏屈な最強の男は、駅馬車で行ける町で俺を待っていた。


「やあ、久しぶり。今は山屋って名乗ってるんだって?」

「そういうお前は何て名前だ?」

「ん~……、岩上墓穴かな」

「相変わらず、ふざけてるな。出会った頃はそんなんじゃなかったのに」

「それほど変わらないよ。一人寂しくやってるさ」


 実はこの岩上と名乗っている男とは、冒険者として同じ日に登録した。要は同期だ。当時は召喚魔法を学んでいると言っていたが、どう考えても田舎の行商人のような恰好をしていて、風変わりな奴だと思っていた。ここまで風変りだとは思っていなかったけど。


 冒険者ギルドで罠の講習があり、器用な俺はすぐにできたが、岩上は不器用で時間がかかっていた。帰り際に声をかけられて、そのままなんとなくパーティーを組み、それから腐れ縁のように関わっている。


「砂糖買ってきたぞ」

「準備がいいな。ベリーは取ってある」

「準備がいいよ」


 お互いの行動が読めるからなのか、楽だ。


 住居の廃ダンジョンは崖にあり、ハリボテの岩が扉になっている。こんな生活をして20年経つが、誰もハリボテを見破った者はいないらしい。ランプが並んだ通路の先に、広い部屋がある。

ここがこのダンジョンの最奥にして唯一の部屋。殺風景に見えるが、3つだけ罠がある。

 たったそれだけで20年、魔物を大量に討伐している。異常だ。

 元々普通に冒険者が入るダンジョンだったが、ボスもマスターもいなくなり、岩上が研究のためと称して使っている。

 一応、小さな隠し部屋があり、そこに岩上は住んでいた。水は山で手に入るし、食料は町に買い出しに行く。手紙や荷物などは冒険者ギルドで私書箱を借りているから、本当に小さい部屋でことが足りるらしい。


「じゃあ、ジャムを作っていくか」

「ああ」


 鍋にベリーの実と砂糖を袋の半分入れて、放置する。水分が出てきたら、中火で煮て、アクが出てきたらアクを取り除き、火を弱くして残りの砂糖を入れ煮込む。


「部屋中が甘くなるぞ」

「大丈夫だよ。換気扇もつけてるし、窓を開ければいい」

 窓もハリボテの藪の絵なので、開けておく。

「虫とか入ってこないか?」

「獣が来るかもしれない。トラバサミは買ってあるんだけど……」

「仕掛けろよ」

「面倒でね。近づいて来たらナイフで仕留めるよ」

「何をやってるのか傍目からはさっぱりわからんな」

「町の人には天狗か何かだと思われてるのかもな」

 暇らしい。棚には本が並んでいる。魔法書の新刊なども置いてあった。


「魔法書の新刊が出たんだ」

「ああ、過去の焼き直し感があるけどな。契約取りに行くときの暇つぶしだ」

「趣味ってわけじゃないのか?」

「仕事の一環なのかもしれない。一応、これでも召喚術師だぜ」

「罠はずっと変わらないのか?」

「ずっと変わらない。召喚術の魔法陣、落とし穴、落下岩。ほとんどお前と作った罠を20年も使ってるよ」


 罠作りは岩上の依頼で俺も手伝った。

 召喚術の罠で魔物を出現させ、落とし穴に落とし、落下岩で潰して討伐する。たったこれだけのことなのに、毎週100頭も狩ってるんだからわけがわからん。


「相変わらず、毎週魔物は100頭狩ってるのか?」

「ああ、最低100頭ね。大きい魔物もいるからさ」


 魔物図鑑で生息地を調べ、魔物と召喚の契約をしに行き、この廃ダンジョンで召喚し討伐している。


「どうやって契約をしているんだか……」

「それは企業秘密だ。というか、罠師なら気づくよ。魔物にとっては詐欺みたいなもんだから」

「詐欺そのものだろう。そんな簡単じゃないと思うけどな」


 俺がそういうと、不敵に笑っていた。


「そっちはちゃんと召喚術に乗っ取った手法だからそれほど問題はないと思うよ。それより、罠の方が問題だろ? 手動で罠を起動させると、罠自体が武器扱いになって経験値が入ってくるなんて、この世界のシステムはどうなってるんだ?」


 天井に穴が空いていて落下岩が嵌まっている。ひと目見ただけでは普通の天井があるだけにしか見えない。そもそも注意深く天井を見上げる魔物はいない。ただ、その岩には滑車が付いていて、ロープが小部屋に繋がっている。召喚した魔物が落とし穴に落ちたのを確認したら、結んでいたロープを解き、手動で倒す仕組みだ。

 その影響で、岩上は召喚術師としてはおそらく大陸では一番レベルが高いはずだ。人類としても相当高くなっているが、レベル自体、冒険者ギルドの器具では測れなくなっているらしい。


「石をぶつけたり、岩を放り投げる技もあるらしいから、そういう技術ということなんじゃないか。土魔法とかだってあるし」

「まぁ、そうか。岩は魔法陣で強化をし続けているからなぁ」

「落とし穴も改良しているみたいだったけど」

「ああ、まぁ、とにかく足止めできて、魔法を使う前に魔力を吸収するようにはしてある。それも15年くらい前にはできていただろ?」

 落とし穴も最初は底に杭が仕掛けられていたが、今はとげだらけの蔓が仕掛けられていて、魔力を吸収する植物を植えているらしい。


「次はどこがいいと思う? ヒントをくれよ。魔物が大発生したとか噂は聞いてないか?」

「聞いてないね。辺境のさらに先に辺境があったけどな。近場だと海はどうだ?」

「海は嫌だよ。夏の暑い日に海産物が腐っていくのはしんどい。どんな廃ダンジョンがあったか教えてくれよ」

「おお、いいぞ」


 俺は最近行ったダンジョンについて語った。


「そうか。皆、いろいろやってるなぁ」

「お前もいろいろやれよ」

「知能が高い方が召喚はしやすいんだけど、コストがなぁ」

「挑戦心がなくなってきてるんじゃないのか! 大陸最強召喚術師とか言ってる癖に」

「うわぁ、それを言うなよ。でも、最強に甘んじてるよな。はぁ、面倒くせぇ」

「一時期、ワープ罠を使ってランダムにどこへでも行っていたらしいじゃないか」

「事故ってとんでもないところに行ったからな。空飛ぶ箒で行けるところはないか」

「だったら、飛行船を使えば? 目をつぶってチケットを買ってさ」

「よし、それ採用」


 ベリージャムを瓶に詰めて、町へ酒を飲みに繰り出した。同期だからか廃ダンジョンに関わり続けているからか岩上との話は尽きない。


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