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廃ダンジョン・トレッキング連載版  作者: 花黒子
飛竜の谷編

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一つ目巨人の踏み跡


 廃ダンジョンに潜ることを趣味にしているのだが、今日は、なぜか首都の学校に通っているインチキ魔物学者ことリリイがお友達を連れて飛竜の谷へやってきたので、その子守りだ。

 とはいえ、廃ダンジョンには行く。首都には送れない大きな骨を見たいというので、近くの廃ダンジョンへと向かっている。


「どうせ、山屋さんは私たちの研究なんか微塵も考えてないんですよ。子守り程度にしか考えてないですよ」

「俺の頭の中をよく読めてるじゃないか。まったくその通りだ」

「私たちは魔物学者の卵ですよ。山屋さんからすれば、未来の取引相手になるかもしれないじゃないですか」

「どうだかな。大丈夫か、皆。あんまり石鹸で身体を洗うと、匂いで魔物が寄ってくることがあるからダンジョンに入る前に土を身体に振って匂いは消しておいてくれよ。廃ダンジョンと言っても、いつ召喚の罠が起動して魔物が飛び出してくるかわからないからな」


 そういうと、魔物学者の卵たちは目を丸くして、土を身体にかけていた。注意事項としては正しいが冗談のつもりだった。魔物学者の卵たちはなんでも吸収する年頃なのかもしれない。今日の廃ダンジョンは何度も行っているので罠はない。もしかしたら熊もいるかもしれないが、いたら糞の跡や獣臭がするのですぐに引き返すつもりだ。


 ただ、この日は熊も逃げ出す暑い日だった。

 森の小川で水を汲み、塩を舐めながら廃ダンジョンを目指した。


「ここだ。中でちょっと休憩するかい? 果物とかあったらちゃんと食べた方がいい。今日は暑いからな。地下水が湧き出ている泉がある。足をつけて少し涼んでもいいかもしれないよ」


 魔物学者の卵たちは裸足になって泉に足を浸していた。


「わっ! なにこれ!?」

「魚?」

「ああ、ドクターフィッシュだ。角質や老廃物を食べてくれる魚さ。毒はないから気にしないように」


 俺も足を浸けたが、ひんやりとして気持ちがいい。

 休憩後にランプを点けて奥へと向かう。


「特に罠とかはないんですか?」

「もう、ほとんど解除してある。冒険者たちの遺体も全部運び出して埋めたから、あるのは魔物の骨ばかり。しかも大型のね」


 大きな鹿の魔物の骨を見せると、魔物学者の卵たちは一斉に駆け寄っていた。


「すごい! ほとんど全身が残ってるじゃないですか!」

「ジビエディアかしら?」

「北部のカリブーよりも大腿骨が太いんじゃない?」

「これ、死因はなんです?」

「わからないが、たくさん矢を打たれた痕跡があるだろ?」

「本当だ!」

「眼底骨から脳に達してるんじゃない?」


 これだけ興奮してくれるなら連れてきてよかったのかもしれない。リリイも満足そうだ。


「ここのダンジョンマスターはロマンを追いかけ過ぎたみたいでな。大型の魔物を召喚しすぎたんだ」


 その後も、魔物の骨をどんどん見せていく。一人の学生がその中でもサイクロプスと呼ばれる一つ目巨人の骨を丹念に見ていた。


「気になるか?」

「ええ。これはサイクロプスの骨で間違いありませんか?」

「マンモスだったら牙の向きが違うだろ? それから手と足も見てくれ」

「確かに巨人の骨ですね」

「ただ、目の周りの骨に傷の痕があるだろ?」

「あ、本当だ! つまり目を狙われて死んだと?」

「よく見てごらん。傷の痕が修復し始めていないか?」

「え!? 目を潰されても戦っていたってことですか?」

「おそらくな。面白いよな。サイクロプスなんて一つ目巨人だから、目が弱点だと思うじゃないか。目がなければ戦えないって……」

「確かに、そう思ってました……。でも、考えてみれば一つしか目がないってことは立体で物を見ていないってことですよね? 感覚器官としてはそこまで重要じゃなかったってことですか?」

「それを研究して、俺に教えてくれ」

「ええ? なんでだろう? 平面で見ていたとはいえ、器官としては大きいですよね。なのに別に失っても生きていけた。魔物同士の協力やダンジョンマスターの保護もあったとはいえ戦っていた。脳で処理していたとして、ここまで頭が大きいとなると、別の器官が発達していたということですかね?」

「例えば、どこの器官だ?」

「ダンジョンだから聴覚で敵の位置を探っていたとか?」

「でも、サイクロプスよりもかなり敵は小さいぜ。よく敵の音を聞きとろうとすると身をかがめないといけないんじゃないかな」

「山屋さんは、なんだと思ってるんです?」

「振動じゃないかと思ってるんだ。巨人の魔物はよく足踏みをしているだろ?」

「確かに。でもあれは威嚇のためでは?」

「普通はそうなんだろうけど、足踏みをすることで振動が伝わっていくと振動を吸収している場所があるよな? それを探ってたんじゃないか。音の反響で探るには蝙蝠みたいな聴覚を発達させる必要があるけど、巨人だと足のサイズだけでもこんなに大きい」

 俺はサイクロプスの足の骨をランプで照らした。


「言われてみると、ここら辺だけ床が平らで、石も少ないですよね……。踏み跡もちゃんとある……」

「どう? 俺の仮説」

「実践的過ぎて、ある個体の論文として出すしかなさそうですけど、面白いです。ダンジョンの魔物は共同体として連携を取りながら、自分の役割を見つけていくのでしょうか?」

「そうなのかもな」

「えー、リリイは学校でも適当なことしか言わないと思ってたけど、来てよかった……」

 相変わらず、リリイは学校でもインチキをしているらしい。


 その後、最奥のボス部屋まで案内して、廃ダンジョンを出た。学生たちに廃ダンジョンの魅力が少しでも伝わったなら、悪くない休日だった。


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