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廃ダンジョン・トレッキング連載版  作者: 花黒子
飛竜の谷編

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張り紙の夢


 特殊な趣味であることは自覚している。だが、最も安全に稼げる趣味でもある。

 俺が狙うのはただ一つ。廃ダンジョンだ。


 夏の暑い日だった。

 どうにか涼もうと辺境にある飛竜の谷からさらに北に行った場所にある山へと向かった。

 ここ50年ほどは人が入っていないような場所で、古い積み石だけが道標だ。


 山道も雑草だらけで獣道と化していた。獣もこちらを警戒しないし、特に縄張りを荒らしているわけでもないから襲ってくることもない。


 山の中腹には大きな木が生えており、東屋の跡があった。木材でもあれば修復できたかもしれないが、今は苔が生えた屋根があるだけ。


「屋根があるだけでもありがたい」


 日差しが強くなっていたからか、時々眩暈がしていた。東屋で昼飯を食べ、近くの小川で水を汲み、頭から水を被るとようやく汗が引いていった。


 腹が満たされると眠たくなるもので、獣たちも静かなので東屋で少し仮眠をとることにした。荷物を枕に地面に寝転がると、屋根の裏にチラシが張ってあった。

 紙は古くなっていたが、屋根が頑丈だったからか風化せずに残っていたようだ。

『魔物使い募集! 近くのダンジョンが職場! ここから徒歩30分!』と地図まで添えて描かれている。


「いや、報酬を書かなくちゃ誰も来ないだろう。どうせダンジョンも潰れてるな……」


 廃ダンジョンがあるかもしれない。そう思ったら眠気が吹っ飛んだ。

 そもそも魔物使いを募集するなんてどういうダンジョンなんだ。

 廃ダンジョンを狙う者として行かないわけにはいかなかった。


 チラシの地図通りの場所に行くとちゃんとダンジョンはあった。

 早速準備をして中に入る。ランプに油を入れて火を灯し、熊除けの鈴を鳴らした。


 リーン。


 熊だけでなく獣がいれば反応するはずだが、特に物音は返ってこなかった。

 壁際には蜘蛛の巣もあり、しばらく何も入っていないようだ。


 ピッケルで壁や床を調べながら奥へ進むと、魔物の死体がいくつもあった。召喚したはいいが養えなかったのだろう。落とし穴に二体も死体がある。餌だった猪や鹿の骨が散乱。

他にも通路にグリフォンやラミアなど大型の死体があった。魔物学者のために回収し、入口に魔物別で積んでいった。


「ワープ罠で送り返さないと、難しいだろうな」


 ダンジョンマスターがよくやるミスとして魔物の多頭飼いがある。当たり前だが、魔物が多くなればなるほど難しくなる。魔物だって食べなければ戦力にはならないので、餌代のために費用も時間もかかる。

 だから勝手に食料を調達してくるゴブリンなどは意外と楽なようだ。その分、とっとと外に出てしまうリスクはあるようだが。知人のダンジョンではスライムを育成しているが、スライムは水源さえあれば飼えるので、中堅ほどの魔物使いでもダンジョン運営は出来る。


 ただ、強くてカッコよくて大きな魔物がたくさんいるダンジョンを目指す気持ちもわからなくはない。


「ダンジョンマスターの夢なんだろうけどな……」


 コンコンコン……。


 罠も隠し部屋もほとんどなく、ただ、張り紙が多かった。

『餌やり。朝晩、猪二体。自分の餌も忘れずに』

『糞は掃除して、棲み処は清潔に。ラミアは汚い男は嫌いだぞ』

『藁の補充は忘れずに。ふかふかの羽毛は藁から違う』

など、部屋の入り口には必ずなにかしら書かれていた。

 奥にいた魔物たちは大事に育てられていたのか、死体に外傷は少ない。血痕はあるものの骨は立派だった。


 最奥では、片手剣を腹に突き刺した人骨があった。彼が最後まで夢を追ったダンジョンマスターだろう。

 死体の横には張り紙が張ってあった。


『すまない。死霊術師を呼んできてくれないか?』


 こんな辺境で魔物としか一緒にいなかったはずだが、ユーモアを忘れなかったか。

 

 コンコンコン……ゴン!


 最奥の部屋には扉が隠されていた。扉の奥に隠し部屋があるわけではなく、外に出られる裏口だ。

 

 裏口を開けると、そこは一面の畑跡。トマトやカボチャ、ナス、枝豆などの蔓が生え、細い木に巻き付いている。野生化していて、実も大きい。


「ベジタリアンの魔物にするんだったな」


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