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廃ダンジョン・トレッキング連載版  作者: 花黒子
飛竜の谷編

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大森林からの誘い


 特殊な趣味であることは自覚している。だが、最も安全に稼げる趣味でもある。

 俺が狙うのはただ一つ。廃ダンジョンだ。


 命の御神酒と呼ばれる薬があると言われてきた。偉大な薬師が生涯をかけて作ったその薬は名前の通り、今にも消えそうな命まで回復させるという。


「命の御神酒があのダンジョンのどこかにあると言われ続けてきたんだが、ボスを倒してからもう100年になる。命の御神酒なんて、存在しないことを証明したい」

 髭の長いエルフ(耳長族)が飛行船に乗って辺境まで俺を訪ねてきた。


「難しいことを言いますね」

「いや、山屋という冒険者にならそれができると聞いてきた」

「俺が探索してもないと証明できるわけじゃないですよ。一応、これでも人間なので間違えることもありますし、見逃すことだってあると思います」

「いや、外部の人間でダンジョン探索を徹底している者が、ないと言えば森の住民もわかってくれる。いい加減森をまともに開発しないと地崩れが起こる」


 環境整備か。それとも不動産で揉めてるのか。どちらにせよ面倒ではある。


「ダンジョンには魔物はいないんですか?」

「ああ、ここ30年は我らエルフしか入っていない。それも学者と山賊だけ」

「山賊ですか?」

「ああ、山賊もすでに消えた」

「ガスが噴き出たりはしてないですよね?」

「それはわからん。それも含めて調べてほしい」


 なんでも安全だというわけではないらしい。話を聞く限り廃ダンジョンそのものだが……。


「報酬はありますか?」

「無論用意はしてある。手付の回復薬も持参した」


 辺境ではなかなか手に入らない高級な回復薬だった。すでに宿の主人が戸棚にしまっているので、受けないわけにはいかない。


「やります。少しマスクと手袋の準備をするのでお待ちください」


 大森林のダンジョンなので、妙なキノコなどが生えていたら大事になる。毒は注意しないといけない。

 ゴム手袋や防水性の合羽などを鞄に詰め込んで準備をした。

 

「じゃあ、とりあえず準備は終わりです。現地で毒消し薬などを買いたいのですが、大丈夫ですか」

「問題ない。経営している薬屋があるからいくらでも持って行くといい」

 資産家が依頼主だと仕事は楽だ。


 飛行船で東へ向かい、半日ほど。大森林は見渡す限り緑が続いていた。緑の切れ目には大河が流れているだけ。わかりやすいが地平線まで山もない。よくこんな場所から俺への依頼があったと感心せずにはいられなかった。



 その日は指定された宿で一泊。昔冒険者をやっていたという薬屋の従業員がダンジョンまで案内してくれた。


「まさか社長が直々に辺境まで行くとは思いませんでしたよ」

「わざわざなんで来たんですかね? 断り難かったですよ」

「空の旅がしたかったんだと思います」


 空から見ると起伏もほとんどない平坦な森に見えるが、地面に下りてみると、丘や谷だらけ。植生も豊かで種類が多い。悪く言うと、飛行船の発着場周辺以外は道が狭く、発展していない。



「ここです」


 ダンジョンの入り口は小高い丘の上にあった。


「ありがとうございます」

「待っていても構いませんか。一応、護衛をしておけと言われておりまして」

 何か見つけた時に確認もできるのでいてもらった方がいい。あと、俺が隠れて盗むんじゃないかという疑いも晴れる。


「お願いします。お茶でも飲んで待っていてください」

「わかりました」


 俺はランプに明りを点けてダンジョンに潜った。


 罠は少ないが、骨になった人間の死体はいくつかある。かなり頑丈な革の服を着ていて爪で引っ掻いたような痕が残っていた。


「魔物か?」


 落とし穴に鞄が残っていて中を見ると、吸血鬼同士の仲間割れがあったらしい。


「山賊は吸血鬼か。吸血鬼としてじゃなくて人間としての命を復活させたかったのかもな」


 独り言を言いながら、奥へと進む。

 部屋の中では手かせ足かせなども見つかり、吸血鬼たちが人身売買をしていたことが伺える。革鎧や服が見つかったが、灰しか残っていなかった。吸血鬼が死ぬと灰になると聞いたことがあるが、実際に見てみると骨だけでも残っていた方がいいと思う。

 入口付近にあった骨は奴隷たちが逃げる途中で死んだのか。


「どうやって吸血鬼を殺したんだ?」


 コンコンコン……ザシュッ!



 壁を叩いていたら罠が作動して、目の前すれすれに床から槍が飛び出してきた。


「あぶねっ」


 ランプで確認すると穂先に毒が塗られている。数十年も毒があるのかと、床を壊して見てみることにした。


 床を破壊してみると、毒の川が流れ続けている。


「これは本当に毒なのか?」

 瓶に採取して調べてもらうことにした。


 吸血鬼の山賊たちは置いといて、ダンジョンにはさらに奥がある。

 先へ進むと、大量に白いキノコが生えている部屋があった。これも採取して調べてもらおう。

 ボス部屋もあったがトレントという樹木の魔物が固くなって死んでいた。日が当たらないダンジョンの奥で植物の魔物が生きられるはずもない。白いキノコはトレントから生えているものと同じだった。


 コンコンコン……ガコン。


 案の定隠し部屋はあり、ピッケルの頭を使ってこじ開けた。


 棚にはスクロールが並んでいるし、粘土板などを使って記録を取っていたらしい。本もあるが、カビにやられ完全に崩れてしまっていた。


 粘土板を見ると、命の御神酒を作りたいわけではなく、世界樹を復活させたかったらしい。ただし、世界樹は樹木ではなくキノコだったのではないかという結論に至っている。


「キノコから酒は作れないよな」

 トレントに実をつけさせて、その実から酒を作り出そうとしたが失敗したという記述もある。後の世になって、これが命の御神酒に変わったのだろうか。


 一度、ダンジョンから出て薬局の従業員にすべて見せ、キノコや毒を薬師に鑑定してもらうことにした。


「こんなに見つかるものなんですか?」

「ああ、吸血鬼の山賊がいたんですよ。人身売買していたみたいなんで、過去に連れ去り事件などがあったら確認しておいた方がいいですよ」

「吸血鬼ですか……」

「ほとんど死んでいたみたいですけどね。灰になってました」



 翌日、薬屋の薬師が宿まで来て、キノコと毒について説明してくれた。


「これは魔物にとっての薬みたいなものです。相当強い秘薬ですね。人間に使うとしたら、かなり薄めないと、ショック死してしまうかもしれません。でも、命の危険がある者には試す価値はあるかもしれない。そのくらい強い薬です。吸血鬼の死体もあったと聞いたんですけど……」

「鎧の中に骨と同程度の灰を見つけました」

「なるほど。吸血鬼にとっては死に至るような毒だったのかもしれません。命の御神酒と言われると、確かにそういう一面もあるかもしれませんが、ほとんどの人にとっては毒です。正直、ここ数十年の薬学の知識がなければ鑑定はもっと時間がかかってました。ダンジョンマスターは天才で間違いはないです」

「あの廃ダンジョンはどうなるんです?」

「たぶん、キノコはすべて採取して、あとはどうするかは社長次第です。ただ、植物の魔物に菌種を植え付けるっていう発想はなかったので、実験が始まりそうですが……」

「そうですか」


 報酬を受け取りに薬屋の社長のもとへ行くと、書類にサインをしていた。


「面倒なことになった。ないと思って事業計画をしていたが、まさか発見するとは思わなかった。まぁ、思っていた物とは違うが……。この年になって全く新しい薬の時間を費やすとは、人生はわからぬものだな。これ、報酬に色を付けておいた。受け取っておいてくれ」

「ありがとうございます。吸血鬼の鎧とかはどうするんです?」

「持っていっていい。宿の主人のコレクションにでも加えてくれ」

「助かります」


 俺は薬屋を出て、飛行船の発着場へと向かった。


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