魔物の住むダンジョン2
ダンジョンの中に入り、ナギとソーコに言われた場所へ進む。どうやら壁が崩れて通路が使えなくなっていた。
まずは、この瓦礫を全部取り除くところから始める。スコップで麻袋に瓦礫を入れて、外に運んでいく。
「手伝いますよ」
ループ爺さんがどんどん運んでくれた。ナギに説得された魔物たちも手伝ってくれる。
とりあえず、人が通れるほどの穴が空いたら、奥へと進み、罠を解除していった。
通路を進んでいくと、ひやりと冷たい空気が流れてきた。ランプを掲げると、巨大な水たまりがある。水深も結構深いから、巨大な池だろう。
この池も罠のようだ。もし、池の水が広がると、罠が一斉に起動するかもしれない。池の縁の石畳が苔やキノコで崩れている。
「これは、まずいな」
通路の瓦礫も経年劣化で崩れたのだろうか。雑な仕事をすると、後年の者たちが苦労をする。
一旦戻って、ナギたちに説明をしておく。
「罠があるんだけど、誰もどうなるか知らないんだよね?」
「わかってないよ。皆、出たほうがいい?」
「うん。あたり一面、水浸しになるかもしれない」
「了解。一旦、出るよ! 荷物持って~!」
ナギを先頭に魔物たちもダンジョンの外に出る。
俺も必要最小限の荷物を残して外に持っていく。
「そんなに池は大きいんですか?」
ソーコが心配そうに俺を見てきた。
「うん。結構ね。山から染み出してくるかもしれないから、気をつけて見ていてくれ」
「わかりました」
俺は軽装で中に入り、巨大な池の罠を解除しに向かった。
どうやら設計者は謎解きをさせたかったようだが、そもそも謎解き要素の石板が崩れている。こういう素材は硬くないと残らない。粘土板の焼きも緩かったのかもしれない。
とにかく池に流れてくる水を堰き止め、排水口を探す。
魔物はいないが虫は大量に湧いていた。どこかに穴が空いていて、山の動物が池に落ちてきてしまうらしい。腐肉食系の虫が結構水の中にはいる。羽虫として飛んでくるが、松明に虫除けの薬を染み込ませた布を巻いておくといなくなった。閉じ込められた環境だと、虫も薬に弱くなるのだろう。
光る苔の粉末を池に投げ入れ、流れの先を確認。排水口が崩れた壁でほとんど塞がっていた。
「やっぱり入らないとだめか」
パンイチ姿になって崩れた石材をゆっくり取り除いていった。あまり一気に掻き出すと流れに身を持っていかれる。どうせ入口は塞いであるので時間をかけても問題ないだろう。
徐々に水位が下がっていくのを眺めながら、濡れた身体を乾かしていく。昼飯を食べて昼寝も忘れない。
「どこに流れていっているのかな」
外のことを気にかけながらも、ひとまず排水口を掃除。水流の勢いも減って、作業がしやすかった。池の底には大量に壺が見つかった。封印されているが、中は石が入っているらしい。傾けるとゴロゴロ音が鳴る。
「お疲れ様です」
ループ爺さんが様子を見に来てくれた。
「おお、ほら、壺が大量にある」
「そいつは壺の魔物ですね」
「あ、本当!? 珍しいね。でも、封印されているよ」
「ええ。叩き壊していいと思いますが、ナギさんに見せますか?」
「そうしておくか」
俺は服を着て、ループ爺さんと一緒に壺をいくつか担いで外に持っていく。
「おおっ! 珍しいもん持っているね。ゴーレムたちにも見せてあげて。使うかもしれない」
「そんな事あるのか……」
ソーコにも聞いて、ゴーレムに交渉してみる。壺の魔物なら、ゴーレムが使役して使うのだという。なかなか便利な種族だ。
「中身は回収させてもらうよ。宝石に腕輪、ネックレスなんかが入っているから。魔物たちの隠し資産さ。どうせ今まで使われていなかったんだから、市場に戻してやるのが正しい」
「ダンジョンマスターの部屋は見つけたんですか?」
「まだ、探索中。とりあえず、報酬関係はナギに任せるよ」
「もちろんだ。山屋に任せていたら、儲かるものも儲からない」
ひどい言われようだが、確かに俺では魔物たちとの交渉は上手くいかないだろう。
餅は餅屋だ。
俺はダンジョンへの戻り、すっかり水の抜けた池を調べた。壺以外は特にないように見える。入水口や排水口も見たが、魔法や呪いの痕跡もなかった。
「池は単なる保管場所か……」
手前の部屋に戻って、分岐していないか壁を丹念に調べていく。壁の石材はボロボロと崩れていく。
「魔物が住むにしても、こんなところに住まない方がいいんじゃないか」
むしろ改修工事をしたほうがいいのではないか。
ガシャンッ!
壁一面が壊れ、鉄格子のはまっていた扉ごと倒れてきた。石材はやはり軽い素材でできていてほとんどハリボテ状態。魔物たちはよくこんな場所に住み着いたものだ。
「あれ?」
ハリボテが崩れ去った壁をランプで照らすと、廃坑道が現れた。鉄格子で閉まっているものの鍵はあっさりと開けられる。
ランプを照らすとちゃんと坑木があり、しっかりした坑道のようだ。
「こっちがダンジョンの本道か……」
廃坑道では鉄を掘っていたようで、錆びたツルハシやスコップが無造作に捨てられている。鉄鉱石もクズしか取れなくなったから、捨てられたのだろう。
罠を探しながら奥へ行くと、魔石の明かりを使った薬草畑の跡が出てきた。ひどく薬臭い。死霊はこの臭いを嫌がって、こっちに来なかったのかもしれない。
坑道の先にある小部屋では、寝袋の中に白骨死体があった。争った形跡はないので、寝ている間に殺されたのだろう。
小部屋には机があり、帳簿や本、手記が積まれていた。最新の手記には白骨死体の彼の日記が記されている。
彼は壺の魔物を使役していて、坑道で見つかった宝石類を隠していたそうだ。それが冒険者たちに見つかり盗まれるも、翌日には壺と一緒に戻っている。さらに冒険者が持っていた指輪やネックレスまで壺は回収していたと綴られていた。魔物が勝手に取り返してくれて、更に強奪までしているという。魔物は欲望に純粋なだけ。嘘だけつかなければこれほどいい働き手はいないとまで記されていた。
「だとしたら、嘘をついたのかな?」
白骨死体を寝袋から出して、身元を確認していると、ズボンのポケットから指輪が出てきた。婚約指輪だろうか。
「所有の概念が違うのか……」
壺の魔物が池に封印されていた理由がわかった気がした。




