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廃ダンジョン・トレッキング連載版  作者: 花黒子
飛竜の谷編

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先輩のセカンドライフ


 特殊な趣味であることは自覚している。だが、最も安全に稼げる趣味でもある。

 俺が狙うのはただ一つ。廃ダンジョンだ。


 普通に冒険者としてダンジョン探索をしていた頃、中堅冒険者として訓練教官をしてくれた人がいた。戦いの基礎中の基礎を学ばせてもらったが、今の自分はほとんど戦わない冒険者になっている。


「コンディションを考えろ。自分、相手、場所、天候、時間、それぞれにコンディションがある。とにかくコンディションを考えていけば、細くても勝機が見つかる」


 冒険者ギルドの不正評価が見つかった時、「方向性が違う」と教官を辞めて田舎に引っ越したと聞いていた。


 今回はその田舎町に引っ越した元教官に呼ばれて、廃ダンジョンへと向かう。


「お久しぶりです」

 駅馬車から下りると、元教官が待っていてくれた。

「おう、久しぶりだな。儲かってるみたいだな」

「どうでしょう。人がいないところを狙っているだけですよ」

「この前、ギルドで依頼達成率を見せてもらったが、大したもんだよ」

「いやぁ、廃ダンジョンばかり潜っているだけです」

「そこもまたお前らしいよ」


 元教官の家は街外れにあるものの、周囲にも数軒家が建っていた。ほとんど元冒険者たちの家族が住んでいるらしい。


「皆、手に職はあるから、どこでも暮らしていけるんだけど都会の暮らしが肌に合わない奴らさ」

「まぁ、都会は自分がやらなくてもいい仕事は多いですからね」

「その通りだな」


 元教官の家の庭は広く、ガーデニングでもやっているのかと思ったが、何か儀式的なもので使うテーブルや燭台やチョークなどが並び、石畳が敷かれていた。


「何をしてるんですか?」

「ああ、死霊術」

「え!? こんな人が通るような場所で?」

 人通りは少ないとはいえ、道に面している。

「いや、もちろん悪霊呼び出したいってわけじゃないんだ。冒険者をやっていると死んでいった者たちも多いだろ? 少し話を聞けないかと思って試みているところだ。全然うまくいかないけどな。コンディションがよければ、声だけでも聞こえると思って続けてるよ」

「死者の声を聞いてるだけですか?」

「なんで死んでしまったのかを聞くと、本当にちょっとしたミスだったりするんだよ。でも、そのミスを意識できるかどうかで俺たちは生き残ってるから、今の冒険者たちの役に立ちそうなんだよな」

「ああ、なるほど今の冒険者のためってことですか」

「そう。今回の依頼もそこに繋がってる……、と思ってるんだけど、本当の目的はほとんど俺たちの趣味かな。この年まで生きてると、価値観が似ている同世代が少なくて」

「だから廃ダンジョンをリメイクするんですか?」


 今回は廃ダンジョンを見つけた元冒険者たちが、自分たちの実験場としてダンジョンをリメイクしたいという依頼だ。そこに俺が呼ばれて古い廃ダンジョンの罠をすべて解除し、秘密部屋がないかのチェックをしてほしいとのこと。

 それほど、お金にはならないが面白そうなので協力しようと思った。


「そうだな。話を聞いてみるか、どうせ皆家にいるから。おーい! 山屋が来たぞー!」

 庭で誰一人ガーデニングなんてしていない人たちが、周囲の家から出てきた。


「おお、来たか。罠の解除をするんだろ? 頼むな」

「ああ、来たんだ。本当だ! 全然冒険者って感じがしないね。いつもどんな武器を使ってんの?」

「山屋が来たってことは、いよいよかぁ……」


 皆それぞれの専門家だが、都会でいいだけ稼いだので田舎に引っ越し、ここに辿り着いたという。


「ピッケルとランプ、それから袋だけぇ!?」

 俺が仕事道具を見せると驚いていた。

「いや、そうだよな。必要なものはそれくらいだよな」

「冒険者って人それぞれ持つ道具が違っていいと思うのよ。自分の得物じゃないと結局当たらないし」

 剣士だった人は、今付呪について学んでいると言い、薬師の人は吹き矢や杖について学んでいるという。回復役だった人は今、召喚魔法を学んでいるとか。

 それぞれ新しいことに挑戦している。


 冒険者のセカンドライフはなかなか見つけにくいが、元教官たちは自分たちの専門分野の先にあるものを楽しそうに学んでいるようだ。

 

「実際のところ、ニッチな分野に特化した方が稼げるだろ」

「普通の冒険者をやっていた頃と、今とどっちが稼げてるの」

「今の方が10倍以上稼げてますね。そもそも危険に飛び込むようなこともないし、もっと仕事の時間がかかると思ってたんですけど、やっていくうちにどんどん仕事というよりも楽しみな時間が増えていきますし」

「自分の特性と合ってたんだな」

「ええ。自分の専門性を高めてると、時々、辺境でパーティーを組んだ時にすごい楽に仕事ができましたね」

「見え方が違うんだろうな」

「実際、皆さんはどうですか? 今の方が収入は多いんですか?」

「断然に今の方が稼げているぞ。1日警護とか時間が決まっている仕事はいかにサボるかを考えてたけど、今は早く終わらせればそのまま収入に繋がるからな」

「私も収入は増えた。お客を開拓できるから当たり前なんだけどね。依頼を請ける仕事じゃなくて売り込む範囲を広げれば結構変わるのよ」

「自分はそんなに収入は変わらないけど、単純に知識が増えるから、捜査協力とかに呼ばれたりするね。今までなかった案件に関われるから楽しいよ」

「ちなみに俺は収入激減だ」

 元教官だけそれほど稼げてないらしい。


「ただ、人の思いとかはちゃんと大事に出来るし、死んだ冒険者の家族に手紙を送れるようになったんだ。遺族がいろんな野菜を送ってくれるから、猪を狩ってるだけでものすごい健康的な生活をしてるぞ」

 夜は寝ているので、朝方に死霊術の練習をしているのだとか。輸送する時も遺品とか死霊術の道具などと書くと、中抜きもされないらしい。「呪物に付き開封厳禁」と書くと効果覿面とのこと。いいライフハックだ。


 夕飯には猪鍋を近所の人たちと頂き、その日は就寝。


 翌早朝、近くに見つけたという廃ダンジョンへと向かい、探索を開始する。ランプを点けピッケルを持って中へと入った。


 罠は簡単なものしかなく、骨も猪や鹿のものばかり。魔物がいた痕跡はほとんどない。人骨も出てきたが装備が古いものだった。今では使われていない水袋や弓の弦などが出てきた。回収して、元教官に見せよう。


 コンコンコン……ボコッ。


 隠し部屋はいくつも見つかった。ただ、特に何が入っているわけでもない。なんのための空間なのかはわからなかった。

 ボス部屋にはガシャドクロがいたらしい。大きな頭蓋骨は残っていたが、魔石などは持って行かれてしまっている。魔物学者に「呪物」として送っておこう。


 ボス部屋の近くに隠し部屋があった。ダンジョンマスターの部屋だろう。中には大工道具や採掘道具などが所狭しと並んでいる。設計図などもあることから、山賊のアジトを作っていたようだ。


「ああ、そういう仕事もあるのか……」


 山賊専門のアジト設計士とはまたニッチな専門家だ。


 すべての罠を解除し、俺は廃ダンジョンを出て元教官たちへ報告した。


「おおっ。懐かしい! 俺がまだ新人だった頃はこういう水袋を使ってたよ」

「こんな大工道具、もう使わないでしょ。昔の人って丁寧だったのよね」

「ガシャドクロって召喚できるんだ……。今はたぶん召喚の術式が失伝しているよ」

「ありがとう。助かったよ。これでいろいろ試してみる。倉庫にもなるしな」


 報酬を受け取って、依頼達成。

 俺にとってのセカンドライフが今なのかはわからないが、身体が動くうちはやっていようと思う。


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