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ラプラスの堕天使  作者: momimaru
古典力学編
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21 垂直抗力(Normal force)

 俺は、コンテストに向けた作戦会議のためにキャンパス内の一室に向かった。須黒は既に来ていて、ラボの中心に設置されたホログラムディスプレイに様々なデータを表示していた。須黒はショートカットの髪を揺らしながら、鋭い目つきでデータをチェックしている。


「遅かったわね……。」

「遅刻はしていない。」

「レディを待たせるなんて、男としてどうなの?」

「すまんな。野暮用があって。」

「野望用?まぁいいわ。ところで秀明くんは?」

「もうすぐ来る。さっき連絡があった。」

「おーい。遅れてすまねえ!」


 ヒデが手を振りながら小走りでこっちに近づいてきた。


「さて、まずは全体の方針を確認しよう」


 と俺は言い、ヒデと須黒に目を向けた。


「コンテストのテーマは『未来の都市生活を支える革新的なソリューション』だ。俺たちの強みを活かして、このテーマにどうアプローチするかを考えよう。」

「ヒカル、さっき話してたエネルギー管理システムのアイデアはどうだ?」

「家庭内のエネルギー消費をリアルタイムで監視し、最適化するシステムを作るっていうやつ。」

「それは良いアイデアだが、もう少し具体的にする必要があるな。リアルタイムのデータ収集と解析をどうやって実現するか、技術的な詳細を詰める必要がある。」

「エネルギー効率の向上には、量子力学の原理を応用するのも一つの手よ」


 と須黒が言った。


「量子トンネル効果を利用してエネルギーの無駄を最小限にする方法を考えれば、従来のシステムよりもはるかに効率的なエネルギー管理が可能になるわ。」

「ちょっと待って、量子トンネル効果って何だ?全然わからないんだけど。」

「量子トンネル効果は、物質がエネルギー障壁を越える現象のことよ。普通、物質がエネルギー障壁を越えるにはエネルギーが必要だけど、この効果を使うとそのエネルギーを使わずに障壁を通過できるの。」

「え、つまりどういうこと?」

「ナノスケールでエネルギーを伝達する時に役立つんだ。エネルギーの損失を抑えて、効率的にエネルギーを使える。」


 と俺が補足した。


「よく知ってるわね。」

「具体的にはどうやって?」

「例えば、ナノメートルサイズのトンネル接合を家庭内のエネルギーシステムに組み込むの。これでエネルギーの伝達効率を大幅に向上させるのよ。従来の配線や電力伝達方式ではエネルギー損失が大きいけど、この方法ならその損失を最小限に抑えられる。」

「なるほど、それはすごいな。でも、どうやって作るんだ?」

「まずはナノ製造技術が必要になるわね。エレクトロンビームリソグラフィーや分子ビームエピタキシーを使って、ナノスケールのトンネル構造を作るの。」

「ちょっと待て、エレクトロンビームリソグラフィー?分子ビームエピタキシー?」


 とヒデが頭を抱える仕草をした。


「簡単に言うと、電子ビームを使って非常に細かいパターンを描く技術よ。これを使うことで、ナノメートルサイズの精密な構造を作ることができるの。」

「なんでそんなに小さいものを作る必要があるんだ?」

「小さくすることで、エネルギーの伝達効率が飛躍的に上がるんだ。エネルギーが無駄なく伝わるように、できるだけ小さなスケールで設計する必要がある。」

「なるほど。でも、そんな精密なものをどうやって作るんだ?」

「ナノ製造技術にはもう1つ……、分子ビームエピタキシーという方法があるのよ。これは、原子や分子を一層一層積み重ねていく技術で、非常に正確な構造を作り出すことができるの。」

「非常に高い精度で原子や分子を並べていく技術だ。これを使えば、ナノスケールのトンネル接合を作ることができる。」

「なるほど、全然わからん。」


 俺は、ヒデが混乱しているのを見て少し笑った。


「まあ、ヒデ。心配するな。技術的な詳細は俺がサポートする。お前はハードウェアの部分で最高の仕事をしてくれればいい。」

「そういうことなら任せとけ。」


 とヒデは自信満々に答えた。


「いいわね。じゃあ、次に具体的な計画を立てましょう。」


 須黒はホログラムディスプレイに新しいスライドを表示させた。


「まずは必要なリソースをリストアップするわ。ナノ製造設備と材料、そしてデータ収集と解析のためのシステムを揃えなきゃならない。」


 須黒が表示したリソースリストに目を向けながら、俺は一つ一つ確認していった。


「ナノ製造設備は大学のナノテクノロジー研究センターを利用できるな。」

「材料については、シリコン基板や各種ナノ材料を準備しないといけないわね。これもリサーチセンターで手配できると思う。」

「次にデータ収集と解析のシステムだが、プログラミングスキルが必要になる。おそらくこれは俺の担当だ。リアルタイムでデータを取得して、効率的に解析できるアルゴリズムを作る。」

「そうね。私はあまりプログラミングは得意じゃないから任せるわ。」

「了解した。データ収集はIoTデバイスを使って各家庭のエネルギー消費をモニタリングする形にしよう。解析には機械学習のアルゴリズムを活用して、最適なエネルギー配分をリアルタイムで提案するシステムを組み込む。」

「それから、ハードウェア部分についても考えないとね。秀明くん、家庭内に設置するデバイスの設計を頼めるかしら。小型で耐久性があり、なおかつ簡単に取り付けられるものが理想的ね。」

「分かった。デバイスは省エネで長期間動作するように設計する!必要なセンサーや通信モジュールも含めて考えるぜ。」


 俺はホログラムディスプレイにスケジュール表を表示させ、各タスクの期限を設定し始めた。


「最初のマイルストーンは一ヶ月後だ。それまでに基本設計を完成させ、プロトタイプの製作に取り掛かる。データ収集と解析のシステムもその頃までに動作確認を終える必要がある。」

「よし、これで大まかな方針は決まったな。あとは細かいところを詰めていこうぜ。」


 ヒデが腕を組んで言った。


「そうね。時間がないから、手分けして作業を進めましょう。」


 こうして俺たちは、それぞれの役割を確認し、具体的な作業に取り掛かることになった。コンテストの期限まで時間は限られているが、全力は尽くそう。

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