13 万有引力の法則(Law of universal gravitation)
ある雨の日、俺とヒデは研究室でドローンのデータ解析を続けていた。窓の外では細かな雨が絶え間なく降り続け、遠くに見えるビル群がぼんやりと霞んでいた。部屋の中には、ホログラムディスプレイが浮かび上がり、空中にデータが次々と映し出されている。
「ヒカル、このアクチュエータの精度、本当にこれで十分か?高速飛行時に誤差が出ないか心配だ」
「もちろんだ。これまでのテストでも安定していたし、最新のデータでも問題ない。だけど、さらに精度を上げるためには調整が必要かもしれないな」
そのとき、研究室の壁面が一斉に変化し、新たなホログラムメッセージが表示された。空中に浮かぶ文字は「第1回フューチャーテック・チャレンジコンテスト」の告知だった。詳細を見ると、エントリーの締め切りは来週末であり、優勝者には多額の賞金が出ると書かれている。
「ヒデ、俺は今作業してるから、このコンテストのテーマやルールを読み上げてくれないか?」
俺は手を動かしながらヒデに頼んだ。
「ええと、ちょっと待ってな」
ヒデはホログラムメッセージをじっくりと読み始めた。
「テーマは『未来の都市生活を支える革新的なソリューション』……。各チームは独自のプロジェクトを発表し、その実用性と創造性を評価されるらしい」
「なるほど。都市の未来をどう変えるかっていうことか……」
そのとき、部屋のドアが開き、肩を揉みながらため息をついた須黒が入ってきた。
「須黒、どうしたんだ?疲れてるみたいだな」
「いや、ちょっとね。さっきまで量子トンネル効果のシミュレーションをやってたの。データが思うようにまとまらなくて、イライラしてたところ」
ヒデが話を引き継いだ。
「ちょうどいいところに来たな。フューチャーテック・チャレンジコンテストの話をしていたところなんだ」
「なに、それ?」
「これは未来の都市生活を支える革新的なソリューションをテーマにしていて、各チームが独自のプロジェクトを発表するんだ」
「面白そうね。でも、それって具体的に何をするのかしら?」
「結局、実用的で革新的なアイデアを出せってことだ。どうせ大学をアピールするためのくだらない宣伝目的だろ」
「あら、でも賞金も出るらしいじゃない。気前がいいのね」
「興味ないな」
「うぉぉぉ、俺は欲しいぞ !賞金!!!」
ヒデは興奮した声をあげ、両手を拳にして力強く掲げた。目を輝かせ、まるで今にも駆け出しそうな勢いだった。
「そんなに賞金が欲しいってことは、もしかして金欠か?」
「いや、ちょっとばかりな……。と、とにかく、お金があれば新しいパーツも買えるし、もっとすごいことができるんだ!」
ヒデの返答は、どこか歯切れが悪く、裏に隠された何かがあるのではないかと感じた。とはいえ、他人の金銭事情を模索するのは野暮ってもんだ。
「わかったわかった。お前の情熱は認めるけど、そんなに金が欲しいなら、バイトでもしたらどうだ?ほら、キャンパスのカフェとかで」
「バイトなんかしたら、ものづくりにかける時間が減るじゃないか!それに、カフェの店員なんて俺の性に合わないし……」
「まあ確かにな。お前がカフェのエプロンつけてる姿なんて想像もできない」
「そうだろ?やっぱりここはコンテストで一発逆転を狙うしかないんだよ!」
ヒデの瞳はまるで灼熱の太陽の如く燃え盛り、決意に満ちたその表情は、一切の妥協を許さぬ鋼の意志を物語っていた。
「もちろん手伝ってくれるよな、ヒカル」
「ドローンの製作を手伝ってもらってる手前、断れないだろ……」
「よっしゃぁぁぁ!ぜってえ賞金ゲットしてやる」
「ったく、面倒ごとが増えたな。で、須黒はこのコンテストどう思う?」
「まぁ、面白ければそれでいいんじゃない?コンテスト自体がどれだけ盛り上がるかが全てよ」
「じゃあ、お前は参加するのか?」
「残念ながら今回はパスね。ものづくりは私の専門外だし、私は私でやるべき課題があるもの」
雨音が静かに響く研究室で、俺たちはドローンの調整を行なっていた。




