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ラプラスの堕天使  作者: momimaru
古典力学編
11/29

10 運動方程式(Newton's second law)

 その時、俺たちの耳に外国語の声が飛び込んできた。振り返ると、褐色の肌に白衣を着た年配の外国人の男性が立っていた。彼は忙しそうに何かの装置を操作していたが、俺たちの視線に気付くと微笑みを浮かべた。


「Hola, ustedes también han hecho un gran esfuerzo para llegar aquí, ¿verdad?」


 ヒデは慌てて耳に自動翻訳イヤホンをはめた。ヒデがスペイン語を理解できないことを知っている俺は、そのままスペイン語で返事をした。


「Sí, es cierto. Hola, soy Hikaru, y este es Hide.」


 俺が返事をすると、男性は驚いたように目を見開いた。


「Hablas español. Eso facilita mucho las cosas. Soy Ricardo, un investigador de España.」


 ヒデのイヤホンが翻訳を終え、少し遅れて理解できたようだ。ヒデと白衣の外国人のデバイスが同期した。


「こんにちは、リカルドさん。俺は秀明です。」


 とヒデが言うと、リカルドは再び笑顔を見せた。


「何か探し物でも?ここには最新の技術が集まっているからね」

「ええ、そうなんです。買い物と最新技術の情報を求めてここに来ました。リカルドさんは何を研究されているんですか?」


 リカルドは一瞬黙り込み、周囲を見回してから静かに話し始めた。


「実は、私はナノインターフェースモジュールの開発チームに所属しています。先ほど君たちが見ていたガジェットの一部です」

「すごいですね!それを作ってらっしゃるんですか」


 ヒデが感嘆の声を上げると、リカルドは謙遜するように笑った。


「ありがとう。しかし、その技術の利用目的には一抹の不安を感じています。実際にはどのように使われるのか、全てが透明ではないからです。」


 リカルドの言葉に俺たちは一瞬、考え込んだ。技術の進歩には常に明るい面と暗い面が存在する。それが何に使われるのかによって、未来は大きく変わるだろう。


「リカルドさん、そのモジュールについてもう少し教えていただけますか?」


 俺は彼に尋ねた。


「もちろんです。」


 彼は屈託のない笑顔で答えた。


「このナノインターフェースモジュールは、人間の脳波を読み取って機械に指示を送ることができます。例えば、義手や義足を持つ人々が思考だけでそれを動かせるようになるのです。具体的には、脳波を解析して特定のパターンを検出し、それを機械の動作に変換するアルゴリズムを使っています」

「それは本当に画期的ですね。でも、リカルドさんがおっしゃるように、その技術がどう使われるかが問題ですね。例えば、悪意のあるハッカーがこの技術を利用して、人々の意識を操作するような事態が起きる可能性はありますか?」

「そのような使われ方も1つの懸念点です」


 リカルドは真剣な表情で頷いた。


「例えば、ナノインターフェースを使って他人の思考を読み取り、個人のプライバシーを侵害することが考えられます。また、企業がこの技術を使って消費者の購買意欲を操作することも現実味を帯びています。さらに、政府がこの技術を利用して国民を監視し、制御する可能性も否定できません。技術の力は強大ですが、それを悪用する者がいれば大変危険です」


 俺たちは技術の開発と同時に、その倫理的な側面にも目を向ける必要がある。技術はただの道具だ。使い方次第で、人類に大きな利益をもたらすこともあれば、破滅を招くこともある。俺たち技術者には、その使い方について責任を持つ義務がある。


「確かに、それは怖いですね。」


 ヒデが心配そうに言った。


「でも、逆に考えれば、この技術が正しく使われれば、人々の生活は劇的に改善されるでしょうね。」

「その通りです」


 リカルドはうなずいた。


「だからこそ、私はその技術が人類のために正しく使われるように努めています。特に医療やリハビリテーション分野では大きな可能性を秘めています」


 正直なところ、俺はこの技術が希望をもたらすというより、むしろ闇を感じていた。善意の科学者がいくら頑張ったところで、人間は欲望に弱い。技術が進めば進むほど、それを悪用する輩も出てくる。リカルドが言うように、プライバシーの侵害や消費者操作の可能性は現実のものとなり得る。


 その時、俺たちのホログラムウォッチに通知が届いた。必要な材料が全て揃ったことを知らせるメッセージだった。


「リカルドさん、いろいろ教えていただきありがとうございます。私たちはこれで行かなければなりませんが、またお会いできることを願っています」


 俺たちは感謝の気持ちを込めて手を振り、暖かな夕暮れの中、活気あふれるレストランへと向かった。レストランはホログラムで装飾された石畳の道を少し行った先にあり、窓からは柔らかな光と共にデジタル広告が流れている。


 そこに辿り着くと、賑やかな人々の声や食事の香りが漂い、まるで別世界に迷い込んだかのようだった。店内にはロボットがサーブする最新の料理や、ARメニューが並び、少し不思議な雰囲気が溢れていた。


 最先端技術がもたらす未来、その裏に潜む危険性。俺たちはその一端を担うことになるのかもしれないと、ふと思った。未来がどれだけ暗くなるかは、俺たちの選択にかかっているのかもしれない……。


 歩きながら、いろいろなことが俺の頭の中で巡ったが、今は友人との食事を楽しむことに集中することにした。

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