9 慣性の法則(Newton's first law)
午後になると、俺たちは人工島「テクノポリスX」へと向かうことにした。テクノポリスXは、最先端技術の実験場として知られ、世界中の研究者やエンジニアが集う場所だ。この島全体がまるで未来都市のようで、俺たちのプロジェクトに必要な貴重な材料と情報を手に入れるのに最適な場所でもある。だが、この島に立ち入るには、国に認められた大学に所属する学生である必要があり、そのハードルの高さは多くの人々にとって遠い存在だ。
都市に到着すると、まず目に飛び込んできたのは高層ビルの間を縫うように飛び交う無数のドローンだった。それらは物流や監視、都市管理など多岐にわたる役割を果たしている。道路には自動運転車が走り、人々はARメガネを使って情報を得ながら日常生活を送っている。テクノポリスXでは、空中庭園が街中に設置されており、植物が都市の中で自然に溶け込んでいるのも印象的だ。
「相変わらずここは未来そのものだな。」
ヒデが感嘆の声を上げる。
「ああ。でも、こんなに進んだ技術がありながら、それを享受できるのは限られた人間だけだ。ここに来られるのも俺たちみたいに特権を持ってる一部の学生だけ。一般の人々はその恩恵に預かることすらできない。それに、日本がこうして世界の実験場に変わり果てたことを考えると、なんだかやるせないな」
俺はどこか憂鬱な気持ちを抱えながらも、目的地のテクノポリスXの中心部へと向かった。そこには最新の技術を駆使したショッピングモールがあり、我々の目的である非探知ステルスドローンに必要な材料を手に入れるための場所だ。
施設に到着すると、試作品のAIロボットが出迎えてくれた。そのロボットはスムーズな動きで、まるで人間のように案内を始めた。
「ようこそ、テクノポリスXショッピングモールへ。私の名前はアルファ。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「センサーと高精度のアクチュエータ、それと最新のナノ材料が必要なんだ。部品リストはこれだ。」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
ロボットは先導し、俺たちをモール内の各セクションへと案内してくれた。各セクションでは、ホログラムディスプレイに必要な部品が映し出され、俺たちはタッチパネルを操作して、必要な部品を選んでいった。選んだ部品は、即座にドローンがピックアップし、自動的に家に配送されるシステムだ。
途中、ヒデが俺に向かって話しかけてきた。
「ここのAIってめちゃくちゃすごいよな。人間と喋ってると錯覚しちまうよ」
「テクノポリスXのAIのアルゴリズムは俺らが普段扱ってるAIとはわけがちがう。世界中のAI学者が集まって日々研究してるんだ」
「俺たちの大学にもAIに関する学部とか講義はあるけど、そんなに発展してないよな。1世代前のものをなぞって勉強してるって感じだ」
「複雑化しすぎて大学生が扱えるようなものじゃなくなったってことだろ」
「にしては何かを隠しているというか……。むしろ昔よりもAIの革新的な報道って減った気がするんだが」
「さあな。世の中はわからないことだらけだ。それにメディアが国のお偉いさんたちに都合のいい報道をするのは今に始まったことじゃないだろ」
俺たちは案内を続けるアルファの後を追った。やがて、目的のセクションに到着し、必要な材料と情報を手に入れた。
「よし、これで準備は整ったな。あとは組み立てるだけだ」
俺たちは材料をホログラム上で確認しながら、ショッピングモール内をさらに探索していた。街の様子を観察しながら、技術の進化を肌で感じていた。
歩き回っていると、ヒデがショーウィンドウに映る奇妙なガジェットを見つけて目を見張った。
「おい、ヒカル。これ見ろよ。なんだこのデバイス?」
俺もショーウィンドウを確認すると、確かに見たこともないような奇妙なガジェットが展示されていた。小さな球体のような形状で、表面には複雑な模様が刻まれており、淡い光を放っている。ガジェットの説明には、「ナノインターフェースモジュール」と書かれていた。
「これは……、ナノテクノロジーを使って人間の神経系と直接リンクするためのデバイスらしいな。神経信号を増幅して、機械を思考で操作することができるらしい」
神経信号は、脳や神経を通じて情報を伝えるための電気的なインパルスだ。例えば、指を動かそうとする時、脳がその命令を神経を通じて指に送ることで動かすことができる。
このデバイスは、その神経信号を読み取り、増幅することで、意識的な思考を機械に伝えることができるようにしているのだ。つまり、脳が「動け」と命令すると、それをデバイスが感知し、機械がその命令通りに動くことができる仕組みだ。これにより、まるで自分の手足のように機械を操作することが可能になる。
「すごいな。でも、こんなの一般にはまだ普及してないよな」
「おそらくそうだろう。これが普及したら、生活が一変するだろうな」
俺たちはそのガジェットについての情報をさらに調べながら、必要な材料の確保を続けた。その一方で、テクノポリスXの背後にある何かが少しずつその姿を現し始めていることに、俺たちはまだ気づいていなかった。




