4
兵士たちは、これから赴く戦場での戦いの激しさを思い、誰ひとり口を開かなかった。
今までの比にならないほど、仲間の数は少なく、戦況は絶望的だった。
最前線へ赴く兵士たちの姿を、作戦司令部のお偉いさんのひとりが無表情で見送っている。若い兵士を戦場へ向かわせる彼の胸中には、何が去来しているのだろうか。
もっとも、見送られる方は、そんなことにかまってる心境ではない。
何人生きて帰れるのだろう?
誰の心にも、そんな思いが浮かぶ。
すると、そのとき。
「おぉ~い!」
遠くから声がした。 戦場へ向かう飛行機の前で、兵士たちはたちどまる。
「バカヤロウ! 俺を置いていく気か!」
一瞬の沈黙。そして……
「ドクター! ドクターじゃないかっ!」
「ドクター! どうして?」
兵士たちは蜂の巣をつついたような騒ぎだ。
だが、 それも仕方ないだろう。 病院で寝ているはずの、彼らの幸運のシンボルが帰ってきたのだから。ドクターの顔を見たとたん、兵士たちの顔から、不景気な陰が吹き飛んだ。
「俺がいなくて、てめぇらヒヨッコの身体、誰が診るってんだ?」
ドクターはにこりともせずに叫んだ。
「ありがてぇ! コレなら生きて帰れる」
「ドクター! よくきてくれた」
口々に叫ぶ兵士たちに、ドクターは仏頂面のまま言った。
「てめぇらの上官に礼を言うんだな。俺だって本当は、病院のベッドで退職金を数えながらのんびり寝ていたかったんだ。だが、あいつに頼まれちゃ、イヤたぁ言えねぇからよ」
それから、見送っていたお偉いさんに向かって、親指を立てる。
「行ってくるぜ。こいつらの面倒は俺に任せておけ」
ドクターは身体を蝕む病をしりぞけた、たくましい笑顔で叫んだ。
「じゃあな、キャプテン!」
お偉いさん……キャプテンは、にやりと笑って親指を立てる。
その笑顔は、かつてドクターを助けたときと同じ。
そして、今のドクターと同じ。
男らしい、涼やかな笑みだった。