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兵士たちは、これから赴く戦場での戦いの激しさを思い、誰ひとり口を開かなかった。


今までの比にならないほど、仲間の数は少なく、戦況は絶望的だった。


最前線へ赴く兵士たちの姿を、作戦司令部のお偉いさんのひとりが無表情で見送っている。若い兵士を戦場へ向かわせる彼の胸中には、何が去来しているのだろうか。


もっとも、見送られる方は、そんなことにかまってる心境ではない。


何人生きて帰れるのだろう?


誰の心にも、そんな思いが浮かぶ。


すると、そのとき。



「おぉ~い!」



遠くから声がした。 戦場へ向かう飛行機の前で、兵士たちはたちどまる。



「バカヤロウ! 俺を置いていく気か!」



一瞬の沈黙。そして……



「ドクター! ドクターじゃないかっ!」


「ドクター! どうして?」



兵士たちは蜂の巣をつついたような騒ぎだ。


だが、 それも仕方ないだろう。 病院で寝ているはずの、彼らの幸運のシンボルが帰ってきたのだから。ドクターの顔を見たとたん、兵士たちの顔から、不景気な陰が吹き飛んだ。



「俺がいなくて、てめぇらヒヨッコの身体、誰が診るってんだ?」



ドクターはにこりともせずに叫んだ。



「ありがてぇ! コレなら生きて帰れる」


「ドクター! よくきてくれた」



口々に叫ぶ兵士たちに、ドクターは仏頂面のまま言った。



「てめぇらの上官に礼を言うんだな。俺だって本当は、病院のベッドで退職金を数えながらのんびり寝ていたかったんだ。だが、あいつに頼まれちゃ、イヤたぁ言えねぇからよ」



それから、見送っていたお偉いさんに向かって、親指を立てる。



「行ってくるぜ。こいつらの面倒は俺に任せておけ」



ドクターは身体を蝕む病をしりぞけた、たくましい笑顔で叫んだ。



「じゃあな、キャプテン!」



お偉いさん……キャプテンは、にやりと笑って親指を立てる。


その笑顔は、かつてドクターを助けたときと同じ。


そして、今のドクターと同じ。


男らしい、涼やかな笑みだった。



 

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