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錠を狙うもの

 買い物メモとバッグに入っているものを、上から確認。点同士を線で繋ぎ合わせるようなイメージで、間違いがないようにしっかりと確かめる。


「うん、全部買えた」


 桃花さんから頼まれたものは全部買えていて、ほっと安堵の息を吐く。


 桜也のお家にお世話になってしばらくが経った。ただお世話になるのは嫌だった私はここ最近はお使いを申し出ていたのだ。桜也も桃花さんも最初は気を使わなくていい、と反対していたのだけど、必死の説得で頷いてくれた。


 最初のお使いは休日で、後ろから桜也と桃花さんの気配を感じながら。二回目も気配は少し遠ざかったものの、変わらず着いてきているのがわかったままつつがなくはないが、行われたのだった。


 最近は平日に、後ろから気配が感じられないお使いを頼まれるようになってきた。これは信頼されているってことなのかなと少し嬉しさを覚える。……桜也が心配し過ぎなだけだと思うけど。確かに見た目は小学校低学年だけど、中身は前世高校生だし。


 そこまで考えて私はため息をつく。そんなこと話していないんだから、桜也が知るわけない。だから桜也の心配は、当然のことで。話せない……話したくないのにその対応を望むのはわがまますぎる。


「私は……ずるいな」


 自分のことを話さないまま甘えて、幸せを享受して、目を逸らしてる。本当にずるい。桜也達の優しさに溺れて、自分と向き合うことを恐れてる。


 ふと空を見上げた。いつの間にか黒っぽい雲が空を覆っている。早くしないと雨が降りそうだ。今日は傘を持ってきていない、急いで帰ろう。暖かく私を迎え入れてくれる彼らの家に。


「早く、帰ろう」


「……帰る?てめぇにもう家なんかねぇのに、どこに帰るんだよ」


 私は反射的に声のした方を向く。そこにはにたにたとした瞳で私を見る男の姿。


 必死に脳内を駆け巡るが残念なことに記憶にない。でも今の言葉、きっとこの人は私を知っている。


「貴方、だれ?」


「お迎えに上がりました。錠を持つお姫サマ。……うちのボスが、お前を連れてこいって言うからきたんだよ」


 どこの陣営の人間だ。記憶に引っかからないということは、名前すらないキャラクターだったということだろう。


 ポタリと強く握った手に何かが落ちる。すぐに雨が降り始めたと気づいたけど、それどころじゃない。


 必死に頭を動かして考える。恐らくだけどこの人はあの陣営だろう。それを確かめるために口を開く。


「赤のチンピラに、私が大人しく着いていくと思う?」


「へぇ、分かるのか。錠の一族は力を感知することでもできるのか?」


 どうやら当たりだったようだ。鍵の力を感知とかはもちろん出来ない。私に出来るのは原作の知識を用いた推測だけだ。


 赤の鍵の陣営は洋太達の最初の敵であり、かなり人数が多い。ネームドキャラではないモブが多い陣営は赤と緑と紫だ。しかし紫は何も知らない一般の人たちを操っていたために、キャラ数が多くなっていた。この人は意識がしっかりしている、まず除外だ。緑の陣営はひっそりと暗躍していて、一般人が本人たちも気づかないうちに手を貸す構図になっていた。実働部隊はしっかり名前があるがこの人はいなかった。私を攫うなら実働部隊のネームドキャラを使ってくるだろう。だから除外。


 消去法で赤の陣営しかありえなかった。


 もちろんそんなこと言えるはずもないので、口元には笑みを絶やさない。こちらには余裕があると見せかけるんだ。


「まァいい。今日は勧誘だ」


「……勧誘?」


「あぁ、赤に来い。もし来なければお前の近くにいる奴ら……雨宮桃花と雨宮桜也を殺す」


 指の先が、心臓が冷たくなるような感覚がした。一瞬、息の仕方を忘れ呼吸が止まる。頭が上手く動かない。


「やめて!」


 頭を通さず勝手に声が出る。余裕などは既にどこかへ吹っ飛んでしまっていた。


「お前が赤の陣営に大人しく来るなら見逃してやるよ。三日だけ待ってやる。三日後にここに来なかったら、アイツらを殺してお前を赤の陣営まで引っ張っていく。優しいよな俺って。待ってやるんだから。今日はそんだけだ。……お前は忘れてんだろうけど、その錠の一族である以上この争いからは逃げらんねぇよ。逃げても殺すから、そんじゃ三日後」


 言いたいことを言いきって男はゆっくりと道を引き返す。ゆっくりと余裕たっぷり。見せつけるように。


 私はしばらくその場から動けなかった。動きたくなかった。時間が止まってほしいと思った。


 体に何度も当たる雨が現実を教えてくる。


 時間は止まらない。戻らない。私は逃げられないのだと。


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