お出かけ
周りにはたくさんの色に形。どれも素敵で私は辺りを見渡した。
「そんなに急がなくてもいいのよ。時間はいっぱいあるからね」
「お金も沢山あるし、好きな服全部買ってあげるよ」
はしゃぎすぎてしまった。でも女の子だし、可愛い服に囲まれてテンションを上げるなというのが無理な話だ。
「ありがとう。でも必要な分だけでいいよ」
今日は三人で買い物!私の服とか、最低限必要なものを買うらしい。机とかはゆっくり揃えていくとの事だ。
早速いろんな服を見てみる。長生きするという今後の目標のためには、可愛さよりは機能性を重視したい。けどこのサイズの服で、機能性なんてものは存在しないようだ。それともお店の傾向だろうか。ピンクや水色、いろんな色のフリフリのワンピースだったり。フードにはうさぎの耳が着いていたりといった、可愛らしいデザインのものばっかりだ。
……優愛は目もぱっちりとしてるし、頬もぷにぷにで血色もいい。すごく可愛らしい見た目をしてるからなんでも似合いそう。機能性を重視なんてことはできないけど、少しでも動きやすくするためにはスカートよりもズボンだろうか。そう思いそちらの方へ足を進めようとした。
「優愛、これなんてどうかな」
「この服なんてきっと優愛ちゃんに似合うわ」
後ろから聞こえてきたのはそんな声。見てみれば桃花さんが持っていたのは、ふりふりでリボンも付いている、お人形さんみたいな服。
桜也の方は黒を基調にしたフリルにレースで飾り付けられた、これまたお人形さんの服のようなもの。お人形さんの方向性は違うが、動きやすさとは無縁の服という所は同じだ。
「も、もう少しシンプルなのでいいよ」
動きやすさ、だけではなくておそらく値段も高いだろう。だからやんわりと断るけれど……。
「じゃあ、こっちはどう?」
「これなんて素敵じゃない?」
またもや出てきたのは可愛らしい、多分値段も相当する服。ここで私は無限ループの気配を察した。「いいえ」と答え続けても「そんな事言わないで」と選択を迫られるアレだ。あれは断れたら断れたで、とんでもないことになるんだけど今私が陥っているのは、話ループの定番のものだ。
どちらがまだいいか、少し悩んで私はピシッと桜也の選んだゴシックなワンピースを指さした。
「……こっちがいいな」
理由はまだフリフリが少なかったからだけ。結愛はどっちも似合うだろうし、値段も多分あまり変わらないと思う。決めてはそこにしか見いだせなかった。
「優愛なら似合うよ。あそこに試着室あるから着替えてみる?」
「うん、見る」
試着室の前で靴を脱ぎ、中に入ろうとする私と桜也。…………当たり前に、なんの躊躇いもなかったせいで気づくのに数秒を要した。幼女に出せる力を出し切り押し出す。乙女の聖域への突入を許してはいけない。
「桜也はダメ!」
「服を着せてあげるだけだよ」
「ダメ!」
幼女の全力と言葉が通じて、どうにかひとりで試着室に入れた。子ども体型だとしても、下着姿を見られるのは恥ずかしい。
着ている服を脱いで桜也が選んでくれた黒くフリルがたっぷりのゴシックなワンピース――ドレスといっても過言では無いけど、商品名としてはワンピースに袖を通す。
鏡の前でおかしい所がないかを確認。少し整えてから試着室の扉を開く。
「……どう、かな」
「とってもよく似合ってるわ。ねぇ、桜也」
「……うん、とても素敵だよ。優愛」
二人から褒めてもらえたのが凄く嬉しい。くるりと回って試着室の鏡を見れば、さっきよりも可愛い私が映る。理由は一目瞭然。自信なさげな表情から笑顔になっている。嬉しかったから、笑顔になるのは当然だ。
「これ、欲しいな。二人が選んでくれて、褒めてくれたのがすごく嬉しかったから……」
恥ずかしさから、だんだんと声が小さくなるのが自分でもわかった。真っ赤な顔を見せるのも恥ずかしくて、そして二人を見ればさらに真っ赤になってしまうと思って、俯いてしまう。
「優愛」
優しい声がする。ゆっくり顔を上げれば、真っ直ぐに私を見て笑顔を浮かべる桜也。両手を広げた彼はそのまま私を包み込んだ。
「そう言ってくれて嬉しいよ。優愛が望むなら、いくらでも選んであげるし、似合ってるって言ってあげる」
暖かくて、嬉しくて、何でかわからないけど涙が出そうになった。洋服についちゃいけないから、私は必死に堪える。
少ししてから桜也は離れる。それが寂しくて、ずっとそうしてほしいって思ってる自分がいて、変な感じだ。
「二人とも、ほかのお洋服も試着してみましょう」
「そうだね。優愛に来てほしい服他にもあるんだ」
二人のそんな言葉の後、私はたくさんの服を試着してその全てで褒められて、すごく恥ずかしかった。
そして最終的にあんまりふりふりしていない服も普段用にと買ってもらえた。……桜也が選んでくれた黒のワンピースは、大切な日に着ようと決める。勇気と元気をくれる大切な一着だから




