少し先の未来の話
鏡に映る自分を見ておかしなところがないかを確認。髪型よし。服装よし。大丈夫かな。
不安に思い何度か確認し直してから私は自分の部屋を出た。扉の脇には無表情の桜也。その無表情も私を視界に入れた瞬間に笑顔に変わった。
「お待たせ!行こっ!」
「うん」
手を繋いで二人で外に出る。家の玄関には鍵をかけてから、私たちはあの日の約束を果たすために歩き始めた。
ケーキケースに並んだキラキラと輝く、ショートケーキやチョコレートケーキ。タルトもある。
どれもとっても美味しそうで目移りしてしまう。全部食べたいけれど、そんなことをしたらお夕飯が入らなくなってしまう。それは嫌だ。……でも美味しそう。
赤くて大きな苺の乗ったショートケーキか、チョコレートでコーティングされたチョコケーキか、はたまた瑞々しい色んな果物の乗ったタルトか。悩んだ末に私はタルトを指さした。
「これにする。桜也はきまった?」
「……じゃあ、このショートケーキとチョコレートケーキにするよ」
桜也が選んだのは私が食べたかったもので、偶然かなと首を傾げる。桜也は一緒に飲み物も注文して手早くお会計を済ませていた。
ケーキは飲み物と一緒に運んでくれるらしく、二人で手近な席に座って待つ。
「お待たせ致しました」
トレーをふたつ、丁寧に置く店員さんの所作に見惚れてしまう。お辞儀をして、帰っていく店員さんを目で追った後、机の上のケーキに視線を移す。光に照らされて輝くタルト。手元のフォークを手に取り、小さく切って口に運ぶ。
「……!美味しい!」
タルト生地がすごくサクサクしてるし、フルーツも甘酸っぱくてとっても美味しかった。 手が止まらずにパクパクと食べていれば、くすくすと笑い声が聞こえる。
「なんで笑うの、桜也」
「いや、リスみたいで可愛いなって思っただけだよ」
それは子供っぽいってことではないだろうか。確かに小学生くらいだけど、でもあんまり子ども扱いは嫌だな。
「優愛」
桜也の方を見る。映るのは向かいに座る桜也の顔と、こちらに差し出されたチョコレートケーキの乗ったフォーク。
「さ、さ……くや?」
「ほら、あーん」
「さっ、桜也の分でしょ」
「食べたいでしょ」
見つめ合う攻防戦。結局私が先に誘惑に負ける。もはやこの光景もいつものことだ。
パクリと口に含むチョコケーキ。甘くてとろけてしまいそうだった。
「美味しい?」
「…………うん。美味しい」
この子供扱いはやっぱりなんか嫌だった。でもケーキはとっても甘くて美味しくて、まぁいいかなと言う気分になる。
「雨宮!桜也!貴様、優愛様に何をしている!」
大きな声と共に飛び込んできたのは今にも剣を振りかざしてきそうな颯介。その後ろには顔を青くした洋太もいた。
「また君たちか。何回邪魔すれば気が済むの」
「貴様のような不埒な輩から優愛様を守るのが俺の仕事だ」
「優愛に選ばれなかった男が偉そうに」
「優愛様の好意を貪るような男が。傲慢で愚かなその本性を隠しているような男に負けても何ら悲しくはないわ」
二人の言い合いはまだ続きそうだ。仲裁はもうとっくに諦めている。
「洋太さんも一緒にお茶しましょう。二人の言い争いまだ終わらなそうですし」
「これお店に迷惑じゃないのかな……?」
「それは多分桜也が何とかしてくれると思います。何飲みますか?」
「嫌な慣れだね」
「そうでもないですよ」
こんな前世からしてみれば異常な日常だけど、手離したくない。そんな大切なものだった。数ヶ月前に死なずにすんで本当に良かった。
原作はまだ終わっていない。これからも私は狙われるんだろう。でももう二度とこの命を諦めようとは思わない。生きて帰れる選択肢を選び続けよう。
この日常に帰ってくるために。
そして。
「どうかしたの?優愛」
「ううん。幸せだなって。…………ねぇ、桜也。これからも一緒にいてね」
「もちろん。優愛も僕の隣にいてね」
「うん!」
この人の隣という居場所を守るために。
これで完結です。途中更新滞り申し訳ありませんでした。年内目標が全然忙しくて間に合いませんでした。これを読んでくださった方の頭のどこかに残る作品になれていたら嬉しいです。
ここまで読んでいただきありがとうございました!!




