プロローグ なつ
いつか、こんな人のようになりたい。
それが自分でも、自分でなくても、ただひたすらに願いの為に生きたいと思った。
そこにいるのにいつも何処か遠い場所にいるように。
しかしその言葉は自分に届くようにと願いを込めている。
何処までも人の言葉を聞いて、
それでも馴染まない雰囲気を纏うその人はどこまでも自由だった。
海沿いの塔でふたりきりで住んでいる。
いつから二人でいるのかはわからない。
昨日のことも知らずにただここにいる。
知識(Q&A)はある。けど記憶はない。そんな感じ。
日記を書こうにも、食材の入手方法も知らない。
外にある森には動物も食べられる植物もない。
どうやって生きてきたかわからない。きっと、僕らと一緒に住む精霊が持ってきたのだと思っていたが、彼らは持ってきてない、と知識で得ている。
この塔にある無象の本を読んで魔法があるということを知っているため、2つ目の仮説としてこの人が魔法で持ってきているのだとそう思うことにした
そしてこの前──いつかはわからないが──日記を書きたいとお願いして、日記を書く魔法を覚えた。
が、結局次の日にはその日記を忘れる為、メモ帳としてしか用途がない魔法だった
そうしてうあー!って怒ってる僕を見て楽しそうに笑うその人を見て少しだけ嬉しくなってしまったのだった
「いつか、ここから出て、外の世界を見て欲しいんだ。
でも、その時までは君は知識だけを、力だけを手に入れて欲しい。」
「…私のことは忘れて、君は君のために、自由に生きて欲しい。
この世界は素晴らしいものなのだと、常識も非常識でもなく、純粋にこの世界を見て感じて欲しい。」
何処か寂しい笑顔を浮かべてその人は僕を抱きしめて頭を優しく撫でてくる。
どうして忘れないといけないのだろう、とその時は聞けなかった。
「せんせー、今日の授業は海でやるんですか。」
魔法の実践、といっておもむろに海に連れてかれ、潮風に髪をなびかせて自信たっぷりにその人は言った
「そう!魔法の実践がまだだった、と思って。」
攻撃魔法の練習じゃないんだから塔の中でもいいじゃん…とジト目で先生を見て、
一瞬で浮き輪に空気を入れて海の上に浮かべてジュースを飲みながらぷかぷか自由にはしゃいでいる様子を見て少しだけ笑みを浮かべて
「じゃあおさらいからね。
第1問 魔法とは。」
音魔法を飛ばして海の傍で座っている僕に対してちゃんと届くように問題を投げかけ、同じように解答を音魔法で飛ばす
「えっと、この世界が許せる全てのことを、
人の理解できる範囲で、
世界の構成式を書き換えて起こす力、
ですか?」
「正解。前世の世界ではプログラム、に似てるかな。
機械が理解できないプログラムは書けないし、
人が理解できないプログラムは書けない。
相互の理解が出来る状態で起こせる力。」
「だから私は知識を身につけなさい、と言ったの。
ま、人には自分に枷をかける人が多いからそこまで魔法技術は発展してないみたいだけどね。」
前世のことはわからない。けど、この世界のことをよく知る必要があるのだと言うことは覚えておいた
「はい、じゃあ次。第2問 魔法の種類とメリットデメリット、使用方法は?」
「この世界に溶け込み易い精霊と契約して起こす精霊魔法。
ほとんどが強固な意志のないものばかりだから簡単に契約しやすいけど、単一の世界でやれることしか出来ない。
精霊が好む言葉を言ってその気にさせる詠唱。
精霊が好む人になって契約し、頼んで発動してもらう契約の2種類」
「精神、時間、空間など、複数に連なるものを操作する魔法は連結魔法。
その接続方法を探す必要がある。けど、空間を作ったり、時間を遡ったり、単一の世界では出来ないことも出来る。」
「精神は言葉による精神操作を応用して、空気の波で異なる精神効果を起こす。
時間は過去未来を書き換える。
世界記憶から次に起こしたい世界のコードを検索して範囲指定して打ち込む。僕は過去の記憶がないから使えない。
空間は別世界線の今を取り寄せる。時間操作と同じ用量。」
「最後に、世界を書き換えて自分のルールをその世界に対して追加する新生魔法。
…発動方法もその内容もメリットデメリットも不明…」
「50点合格。理解しきれている、とは言いにくいかな。どれも接続方法が中途半端。
特に、連結魔法。それじゃ出力半減するわ。
とりあえず今日は連結魔法の練習。私の魔法を見て真似しなさい。」
「はぁい…でも、先生、どうやったら繋げれるんですか?」
「そりゃあ…」
その次の瞬間、耳で聞くわけでもなく、確かに何も無いにも関わらず、次の言葉を理解させられて
《こうやって》
「…わかった?」
満面の笑みで無茶振りを言ってくる先生を頭が痛いながらも頬をふくらませて睨みつけて
「わかるわけないじゃないですか!!!」
「仕方ないなー。自分に繋がれてる線は視認できる?」
「世線の事ですか?」
世線。万物と世界が、ありとあらゆる世界が繋がっている線。それを辿ればこの世界の法則にアクセスできる。法則の変更権は新生魔法を使うことで変更できるようになる、らしい。
連結魔法は主にこの世線を通して行える。
世線のことを信じていたから、知っていたからと言って見れるわけじゃない。
目を閉じるぎりぎりまで細め、青白い、透明な線を確認する。
次の瞬間、何かが目に入り込んできた感覚がして顔を顰め
「一応、確認できました。」
「オーケー。そのまま見続けて。痛いかもしれないけど。」
いつの間にか後ろに立って頭に手を置かれ、普段ならビクッと反応するところを堪えて線を見ることに集中して
《個体番号 00#0000#0000000# 接続権限レベル レベル0 個体の削────》
《システムの変更が行われました》
《個体番号 99C0009B0304669# 接続権限レベル レベル1 接続を確認しました》
その線を見ているとそんな通知が聞こえて、ちょうどその時に先生から「個体番号とか接続権限レベルとか聞こえた?」と問われて「はい」と応える。
「うん、じゃ、一度切ろうか。」
先生が世線を物理的に切ると
《接続が切断されました》
と通知が聞こえ、足から崩れ落ち、口元を押さえ地面に蹲り、口から液体を吐き出して
「ごほっ…んぶ、ぇ、ぉえぇ…」
酔ったかのように目頭が痛く、正気に戻すために取り込んだ情報を液として吐き出して
先生が背中を摩ってくれて暫くして落ち着いてきた
「…まぁ、慣れるまでは仕方ないかな。
人間にとって、連結魔法って言うのは一人分の脳じゃまず発動できない。
だから時間を戻して行う治癒魔法は大人数で行使される。まぁ、料金がバカでかいけどね。
それでも接続権限レベルが低く、簡易的にされた魔法だから、せいぜい…2時間程度だね。
それじゃ、落ち着いたところで課題!一週間に一回くらいは世線に接続して身体をその感覚に慣れさせること。」
酔いが収まって、水魔法で口の中に残った酸を流して落ち着きを取り戻したところで先生に無茶振りを言われ、顔を引き攣らせながら
「この*スラング*先生ー!!!!」






