青空の懐かしさ
真っ青な空をずっと見つめていると私の体と心が同化しているような錯覚が感じられる。
灰色の道路の蜃気楼もまたいい味が出ていて、遠くの方で微かに電車の通る音が聞こえている。
太陽に焼かれた鉄棒、生暖かいスイカ、吐きそうになるぐらいに甘い炭酸水をがぶ飲みしていた記憶がよみがえる。
現代の時代にはない嗅覚と、視覚と、錯覚が存在している。
日差しが眩しすぎる。これも感覚である。
学校の近くの古い食堂のカキフライ今もまだ残ってるかな…とか。
青い屋根の家にいた小さなカメは今も元気にしているだろうか……とか。
優しくて、やわらかくて、甘い記憶。砂糖水のように。
夏の全てが懐かしい記憶で溢れている。全ての思い出がとてもギラギラと輝いていて、大人になった今ほしくなる感覚だ。
夏の日差しが、頭に照りつけ焦げたような匂いが鼻につくけど、これもまた懐かしさなのかもしれない。
家の屋根に太陽が照らされて生まれた大きな真っ黒い影を見つけてその下を通り抜け、僕たちは学校に向かっていた。
太陽に照らされている朝顔が家の塀に垂れ下がり昨晩雨が降ったのだろうか、雨の水滴がついていた。
ポツポツと日の光が葉の隙間から小さな丸い光が生まれ、芝生に写し出されていた。真っ黒い影と自然の証明のコントラストがとても美しく、夏の星空が存在していた。
静かでとてもロマンチックな光景だが、冬眠から帰ってきた動物達と虫達の鳴き声と強い日差しがとても複雑でうっとうしい。
だけど、懐かしさとしてはいいあんばいだ。
僕たちは、くだらない雑談を交わしながら学校の門までたどり着いた。
門の花壇にはアジサイの花やガーベラ、多くの花が土の上に並んでいた。土と雨水の香りがしていた。
学校に入ると何とも表現しづらい学校独特の匂いがしていた。制汗剤?汗の匂い?本の匂い?ホコリの匂い?よくわからない素朴な匂いだった。
「やっぱ懐かしいなぁ…あんなやついたなぁ…」
『おいお前は2組だっただろ』
「あっそうだった…」
約6年ぶりの校舎がとても懐かしかったが、胸が締め付けられるほどの緊張が生まれた。
ポケットに入っていた黄色のハンカチを手に取り自分の頬についた汗を拭き取った。
2組の教室は、校舎の端から2番目の教室だった。
僕がドアに手を掛ける瞬間。教室の右側のドアに見たことのない花が小さな机に飾られていることに気づいた。
「なんだ?このはな…」
『ウインターコスモスよ…』
その声の主は、ぱっつん前髪で真っ白い肌の1人の少女だった。
「コスモス?寒い時期に咲くものじゃないのか?」
『そうとは限らないかもね…』
『ねぇ…この子の花言葉知ってる?』
「いや、知らない…」
『調和…真心…よ』
「そうなんだ…あんた名前は?」
『………………成功するといいわね』
「…………え?」
そう言うと突然、少女の周りに銀色の光が照らされてスッと蒸気のように消えてしまった。
そこにはウィンターコスモスの匂いと紺色の花瓶だけが残っていた。
『鼻に残るな……』
あまりの暑さに頭が混乱して、幻覚をみたのだろう。リンはあまり気にしなかった。
話しは変わり、久しぶりの教室である。
教室からは聞き覚えのある男子の笑い声と女子の話し声が聞こえてくる。
緊張している。首筋の汗が止まらなかった。
リンは深呼吸して、あの頃のいつもの感じで挨拶をした。
「お、おはよー」
『あっきたきた!よぉ!』
「ハブシゲ!なつかしぃなぁ~」
ハブシゲは図書室の常連でいつも教室の端で難しい本を読んでいる。
真面目な性格だが少し金色のメッシュが入った髪型をしていた。
『え、何だって?なつかしい?』
「あっ…やべぇ自然にいないと変なやつ認定されてしまう…」
『なんだ??調子悪いのか?』
「あっ……き、昨日のユーイのアニメ見た?」
『ユーイ??新しい漫画?』
「あっ、この時代はまだユーイのアニメやってないんだった…」
『おまえ…汗ヤバイな』
「……………今日の1限目はなんだっけ!?」
『ああ…体育だよ……お前の好きな陸上』
「陸上!?」
リンは高校の頃 市内の陸上大会100メートルで1位を取ったことのある実力者で、この学校では1番足の早い生徒だった。
「Yeeeeeeeeeessss!!!!!」
この体の軽さ!足が痛くない!!
2021年版の体は少し走るだけでバテてしまうが学生版の体はこんなにも楽だったんだ!!
リンは暑い日差しのなか汗を拭いながら軽く校庭を3周走った。
「はぁ……それにしてもあついなぁ……」
『よーし次は男女混合で100メートルやるぞ』
「100メートルか!!」
『よろしくね』
「…………………あれ?だれ?」
そこには茶髪で、ポニーテールで、少し日焼けしているの少女がいた。
高校の同級生は、名前は思い出せないが顔は覚えている。だがこの少女は覚えていなかった。
不思議な展開である。
『いちについてー!よーい!ドンッ!!』
4人の生徒がいっせいに走り出した。
もちろん1番早くゴールをする……っと思っていたが後ろからリンを追い越してきた人物がいた。
それが、さっき挨拶をしてくれた少女だった。
リンや他の生徒を、かき分けるように俊足の走りを見せたのだ。
『はやい!?なんだあいつは……!』
リンが最初から全力疾走していても結末は変わらなかった。それぐらい早い足だった。
「はぁ……はぁ…………」
『大丈夫?…………水分とる?』
「はははっ……」
笑うところじゃない。
「あんた名前は?」
『サクラ』
「桜?…… 今は夏だぞ?」
『はははっ!!なにそれ面白い』
「面白かったか今の?」
『え?多分……』
学舎の鐘がなり生徒達は手洗いをして、5分間の休み時間に入った。
これは、大人になっても思うことだが、短すぎる。
『次の授業は国語か……』
国語は嫌いだ。