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ライジングゴースト ~君が夢見たトコロへ~  作者: 蛍石光
3. 思い出と約束
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3-1 ずれ始める歯車

今回から新しい章になりますけれども、内容は当然前回の続きです。

そして、時間はあまり経過していませんのでご安心ください。

 あれは本当に不思議な体験だったと思う。もちろん、あんな経験は初めてだった。幽霊とはとても思えない女の子と過ごして、話もして。こんな話、あの晶だって、誰だって信じてくれるとは思えない。


 空木美優。彼女は一体誰だったんだろう。


 そう思った俺は家に帰ってからネットで検索した。


 東京都出身。

 小学校からソフトボールを始めて、5年生の時に全国大会で準優勝。

 中学生になってからは部活以外での大会参加がなく、目立った実績はないものの、中学生女子としては飛び抜けた実力でアイドル的な存在。

 ソフトボール強豪校である高校に進学が決まり、将来的に日本代表指定強化選手にも選ばれると思われていた逸材。


 こんなことしか書かれていなかった。15歳の少女の一生がたった数行で語られ、しかもソフトボールに関することだけしか語られていない。人の人生ってそんなもんなんだろうか。


 でも、昨日のあの子はそんな子じゃなかったように思う。15歳の普通の女の子。いや、普通だったのかはわからないけどな。なんか会話がうまく成立しなかった時もあったし。でも、きっとそれはあの時の状態のせいだろう。記憶が混乱してたんだと思うし。



 それにしても、結構可愛かったな。なんかちょっといい匂いもしたような気がしたし。


******************************************************************************************


 そんなことを考えていたらいつの間にか朝になっていた。どうやら机で寝てしまっていたみたいで体が痛い。けれど、そんなことも言ってはいられない。学校に行かないといけない。

 俺は生きているんだから。


 昨日と同じ時間に家を出るとそこには晶が待っていた。


「おっそーい。」

「遅くはない。いつも通りだ。」


 いつも通りって。昨日と同じということだし、まだ7時30分だ。


「なんで昨日、電話に出てくれなかったの?」


 晶は本当に不満げに健斗の顔を覗き込んでくる。


「いいだろ?そんなの別に。ちょっと、いろいろと忙しかったんだよ。」


 なんとなく、晶と会話を楽しむ気になれない。それもこれも、昨日の出来事のせいだと思う。美優のことだけじゃない。野球部で事実上の戦力外通知を受けたんだ、入部する前に。そしてソフト部に勧誘されるという謎展開。


「ふーん。ちょっと、いろいろ、ね。それで健斗はどうするの?部活。」


 ナーバスになってるところにその質問か。晶にはデリカシーというものがないのだろうか。


「野球部には・・・入らない。」

「え。」


 晶は驚いたのか手に持っていたカバンを落とし、立ち尽くす。


「何驚いてるんだよ。知ってるんだろ?昨日のこと。」


 その場に一緒にいた晶のことだ、昨日の出来事を知らないわけがない。


「うん、聞いた。でも、私は健斗と甲子園に行きたいって思ってるから。」

「俺は無理だ。知ってるだろ?肩も弱いしバットにボールも当たらないし。守備だってうまいわけじゃない。」


 少しだけ強い口調で俺は晶に愚痴を言った。


「でも・・・健斗ならできると思う。」

「何を根拠に?」


 晶は落としたカバンを拾って、健斗の横に小走りでやってきた。


「私の勘だけど。でも、私に野球教えてくれたの健斗じゃない。」

「昔のことだろ?それに、俺が教えたのは野球っていうものであって、技術とかを教えたわけじゃない。」


 そうこう話していうちにバス停に着いてしまった。晶もさすがに他の生徒がいるところではこの手の話はしないみたいだ。



 なんとなく、いや全く授業になんか集中できずに午前中の授業は終わった。

 そして、昼休みに教室の窓から外を眺めていた時に思った。高校では勉強と野球の両立をしようと息巻いて入学した。でも、それは初日で打ち破られる結果になってしまった、と。


「ソフトボールか・・・」


 一人頬杖をつきながら呟いた。


「ソフトボールがどうした?」


 誰かが声をかけてきた。声の方を振り向くと、そこには以前も話しかけてきた男子生徒が立っていた。


「お前・・・誰だっけ?」

「川島だっ。名前くらいさっさと覚えろよ。」


 あぁ、そうだ。川島だ。晶に話しかけていた物好きな奴だったな。


「そうか。俺は男の名前は覚えられないタチなんだ。」

「ふん、頭が悪いんだな。」


 川島は名前を覚えられていなかったくらいで機嫌が悪くなっている。

 随分とケツの穴の小さな男だな、と俺は考えていた。


「そうだよ、俺は頭が悪いんだ。だから放っておいてくれないか?川崎・・。」

川崎・・じゃない、川島だっ。」


 川島はさらに激昂したように声を荒げる。その大きな声に騒がしかった教室全体が一瞬にして静まり返る。


「すごい声だな。びっくりしたぞ、川原・・。」

「川島だ。お前、フザケンナよ?」


 川島は顔を真っ赤にして怒っている。

 もう一回くらいいじっておきたいところだが、この辺りが限界だな。


「で、何か用があるのか?」


 俺はは川島に対してようやく本題を切り出すように促した。


「ソフトボールがどうしたって聞いてるんだっ。」


 相変わらず川島は大きな声で健斗をまくしたてていた。


「声がでかいって。女子たちがビビってるぞ?ほら、晶も。」


 晶という言葉に川島はわかりやすい反応を示す。いきなりあたりを見渡して晶の姿を探し始めた。


「どこに紫水さんが?」


 キョロキョロとあたりを見ながら川島はそう口にした。


「いねーよ。あいつの昼はいつもトレーニングだよ。」


 中学時代からの晶の昼間の日課で、この時間は大体いつもグラウンドを走っていた。それを知っていた俺は川島を簡単に騙してみせた。そして、『ふんっ』と軽く鼻を鳴らしたような声を出した。


「な・・・騙したのか?」


 こうも簡単に騙される川島はとても可愛らしい奴に思える。


「騙した。」

「なんでそんなことする?」


 川島は素で尋ねてきた。俺の行動がよほど理解できなかったようだ。

 まぁ、俺は多少機嫌が悪かったわけだし、考え事もしていたわけで。しかし、こう尋ねられると答えが見つからないな。何だろう。ムカついたから?面白そうだから?

 そして、ほんの少しだけ考えて得た答えがこれだった。


「なんとなく?」


 俺は肩をすくめながら思いついた返事をしたのがけれど、川島にとっては面白い答えじゃなかったんだろうな。表情を見たらすぐにわかる。


「お前・・・なんとなく、で嘘つくのか?」


 川島は驚いたような表情を浮かべている。

 もしかして、川島はってすごく真面目な男なのかもしれない。


「嘘じゃねぇよ。ただの冗談だ。な?あんまりカッカするなよ。」


 俺は川島の顔を見てニヤッと笑った。

 しかし、この言い方はかなり親しい間柄じゃないとよろしくない結果を招くことになるのではないだろうかと内心焦っていた。


「冗談って・・・」


 案の定、川島の沸点が限界に近づきつつあるようだった。


「あー、健斗と川島君?何話してるの?」


 いいタイミングで晶が教室に戻ってきた。教室の入り口で二人のじゃれ合う姿を見かけた晶は二人に声をかけてきたのだった。

 この時の俺は『ナーイス、晶!』と心の中で言いながら、ガッツポーズを決めていたに違いない。


「おー、晶。戻ってきたかー。」


 俺はいかにも晶が教室に戻ってくるタイミングをわかっていたかのように晶に声を返す。


「うん。戻ってきたよ。で、なに?二人でどうしたの?」


 これまでの健斗と川島のやり取りを知るよしもない晶は、いつものように明るい口調で二人の元に駆け寄ってきた。

 教室内は一波乱が起きそうだった所にやってきた晶に注目が集まっていた。


「お前、紫水さんの戻ってくるタイミングまでわかってやってただろう。」


 川島が小さな声で健斗の耳元で話す。


「まぁな。俺はあいつとの付き合いが長いんだよ、川藤・・。」


 しつこいくらいに健斗は川島の名前を間違い続ける。ここまで来ると意図的にやっていることは明らかだった。


「俺は川島だ・・・まぁいいさ。紫水さんも戻ってきたことだし、さっきの質問に戻るぞ?」


 川島は気を取り直して健斗に質問を投げかけようとする。


「え、なになに?なんの話?」


 晶も前のめりになって、二人の話に興味があることを示す。


「こいつの話なんて、どうせ大した話じゃないって。それにさ、晶にはカンケーない。」


 健斗は本題に入るのを少しでも遅らせるつもりのようだ。


「いや、きっと何か関係あると思うな、俺は。」


 川島も健斗に食い下がるあたり、かなりしつこい性格であると言えそうだ。


「え?私にも関係あることなの?」

「ねえよ、本当に。」


 晶の言葉に間髪入れずに健斗が否定の言葉を差し込んで来る。


「ソフトボールって独り言を言ってただろう。あれはどういう意味で言ったんだ?」


 川島がようやく本題までたどり着いた。たったこれだけのことを聞き出すのにどれだけの時間を要したことだろうか。


「あぁ、そのことなんだ。」


 晶は急に興味を無くしたような声を出して、二人の元から離れていく。


「あれ?紫水さんは興味ないの?」


 川島が焦ったように晶の背中に声をかけるが、返ってきた言葉は彼にとって思いがけない一言だった。


「私はパース。だって、その話は健斗が話したくないって言ってたからね。」


 ヒラヒラと両手を振りながら女子たちの元へ歩み寄って行き、なぜか喝采を受けている。どうやら、男子二人の喧嘩を仲裁したと勘違いされたようだ。

 けれどもこの二人には関係のない話だった。


「だから言っただろう?中島・・。晶には関係ないんだよ、本当に。」


 健斗は椅子から立ち上がり、川島の右肩をポンッと叩き、話は終わりだとばかりにこの場を立ち去ろうとした。


「川島だ。どこに行くつもりだっ、まだ話の途中だぞっ。」


 川島はどこまでもしつこい男のようだ。

 いや、途中というよりもそもそも話はほとんど始まっていないと思うのだが?


「トイレだよ。なんならお前も行くか?」


 健斗はそう答えてニヤッと笑った。どうやら、今回は健斗の作戦勝ちのようだ。


「あぁ、行く。その代わりにちゃんと答えろよ?」

「お前、結構しつこい男なんだな。あんまりしつこいと晶に嫌われんぞ?」


 何気なくなのか、意図的なのか。健斗の発した一言に川島の表情が変わる。


「え、マジか?」


 川島は口調まで変わって健斗の前に走りこんで来る。どうやらそういうことのようだ。


「あいつは見ての通りに体育会系の女子だからなぁ。」

「それはわかる。紫水さんは確かにそんな感じだな。」


 二人は晶の話をしながら晶たち女子たちの前を通って教室から出て行った。そんな二人の姿を晶は軽い笑みを浮かべながら無言で見送っていた。



 それにしても、川島が聞きたかった話はもういいのだろうか。

誰かにあえて名前を間違えられたことってありますか?

わざと間違えられるのも悲しいですけれども、本気で間違われた時のほうが悲しいですよね?


「あっ、○○くん、ひさしぶり~、何年ぶりだろ?」

『いや、俺、△△だけれど、、、ひ、久しぶりだね、□□さん、、、』


こんなの悲しすぎる。

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