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ライジングゴースト ~君が夢見たトコロへ~  作者: 蛍石光
1.幼馴染と高校入学
2/24

1-2 ライバル登場?

「学校に着いたね。」


 晶はそう言ったが、そんなことは当たり前だ。バスターミナルからすぐ近くにあるんだぞ?この高校は。乗るバスと降りるバス停を間違えなければ道に迷うわけがないだろう。


「そうだな。」


 それにしても、こいつと一緒に走っていると男の目線がずっと晶に向いていたような気がするんだが、なぜ・・・って。


「おい、晶っ。」

「ん?なに?」


 俺の呼びかけに晶がふわっと返事を返してくる。晶は運動をしている時以外はこういう性格だからな。ま、仕方ない・・・ってことはないな。


「パンツ丸出しだぞ。」

「は?」


 晶は俺のことをまるで変態を見るような目で見ている。

 実際俺はエロいと思う。いや、高校生として当然のレベルだ。むしろ嗜みと言ってもいいだろう。でも今は違う。

 本当に丸出しなんだよ、晶のパンツがっ。


「いや、だから後ろ、パンツが丸出しだ。」


 ここまで言ってようやく晶は自分の下半身の異変に気がつく。


「んなっ・・・ま、仕方ないか。」


 晶は一瞬焦ったみたいだが、気を取り直してスカートを直す。けれども、俺は晶の表情が少し硬くなっていることに気が付いた。が、そこはそこ、いつも通りに会話を進めるべきだと冷静に判断した。


「お前、いい加減に成長しろよ。もう高校生なんだぞ?そんなことしてたら俺の目が腐るだろうが。」


 俺は、晶のパンツをちょっとだけ見れて嬉しかったにも関わらず、なぜか強気で言葉を返してしまった。

「腐りますか。」

「あぁ、マジで腐るな。」


 俺の言葉に晶の表情が一瞬だけ曇り、そして、にやりと笑みを浮かべる。

 


「なら、もっと腐らせたげようか?」


 そう言って晶はスカートの裾を自分で持ち、俺にジリジリと近づいてくる。


「やめろ・・・」

「うおりゃ。」


 掛け声とともに晶はスカートを捲り上げる。


「おおっ。」

「これはね。見せパン。だから平気。というかほら、テニス部の女子が履いてるあれだよ。」


 わかる。みなまで言わなくてもわかる。だからもういい。


「だとしても。いや、だからと言って見せつけることはないと思うな。俺は。」

「だよねぇ・・・ちょっとやり過ぎたと思うわ。」


 少しだけ凹んだように俯く晶だった。

 俺が思うに、晶はノリで生きているようなところもある。ここで俺が釘を刺して置いたほうがいいだろう。


「晶。俺たち男が見たいのは女子のパンツだ。断じてお前のパンツなどではないっ。」


 俺はポーズを決め、人差し指を晶に向け、大声で宣言する。


「なにあいつ・・・」

「ちょっとキモくない?」

「ってか変態?」

「言われてる女子、かわいそじゃね?」


 あたりがザワザワとして色々な声が聞こえてきた。俺は動きを止めたまま目だけで周りを見ると、同じ制服を着た人間が沢山歩いている。


 しまった。ここは高校にすぐ近くのバス停だった。必然的に同じ高校の生徒が沢山いるんだった。と思ったがまぁいいか。


「キモくないっ。健斗はキモくないんだからっ。」


 ザワザワしている奴らに対して晶が大声で言い返した。


「ちょ・・・晶?」

「健斗は悔しくないの?」

「え?悔しい?」

「だって、健斗は私のパンツが見えてるって教えてくれたんでしょ?それで、私のパンツをみんなには見せたくないって言ったんでしょ?」


 うーん、なんか違うような気がするけど、ここはとりあえず晶の言葉に乗せられるほうが賢明だろうな。


「まぁ・・・そうかな。」

「だよね?自分の幼馴染の女の子のパンツが見えてたらそうやって教えてくれるのが普通だよね?それなのに、ただ見てただけの人たちに言われたくないよね、変態とか、キモいとか。」


 晶の言葉を聞いてザワついていた生徒たちがバラバラとばらけていく。それはとても爽快な気分で、晶の凄さを久しぶりに見た瞬間だった。こいつは良くも悪くも本当にまっすぐなんだ。そして自分の正義は絶対に曲げない。


「もう、いいよ、晶。なんかごめん。」

「なんで謝るの?健斗、パンツ見たかったの?」


 晶が不思議なものを見るように俺の顔を覗き込んでくる。


「ん・・・どうかな・・・」


 今となってしまっては見たいとも言い難い。それにしても見せパンか。悪くないな。


「相変わらず朝から元気がいいな。」


 そう声をかけてきたのは中学校の時、野球部のエースでキャプテンだった花形寿也はながたとしやだった。


 こいつは晶とはまた違う意味での野球の申し子みたいなやつだった。中学時代は校則ギリギリのロングヘアーで、かっこつけのキザヤロー。いつも女子と一緒に居てうざったいことこの上ない奴だ。こいつとは晶とは違う意味での腐れ縁。小学校、中学校と持ち上がりで同じ学校。やっと高校でバラけると思ったのに、またも同じ学校に通うことになるとは。



「うん、私は元気だね。寿也くんはどう?」


 俺の代わりというわけではないんだろうが、晶が寿也に答えた。


「そ、そっか。紫水さんが元気ならいいんだ、うん。」


 花形の野郎は昔から晶の前に出るとぎこちない言動になるんだ。なんだろうな。女が苦手なんかな?


「で、何の用だよ。」


 俺は花形があまり好きではなかった。なぜか俺にだけいつも当たりが厳しいんだよ、こいつは。


「別に。お前に用はないさ。あぁ、でも一つだけ用があったな。」

「勿体つけずにさっさと言えよ。お前の悪い癖だと思うぞ。」

「たった一つだけ用事があるって面白いけどね。」


 俺と晶は異なる思いを抱きながら花形の顔を見る。俺はもちろん「うざいな」と思いながらだ。晶は人のことを悪く言ったりしない子だからな。妙にポジティブだし。俺とは違うことを考えていたことだけは間違い無いだろうな。


「お前、野球辞めろよ。才能ないから。」


 花形は俺の顔をじっと見て厳しい一言を浴びせてきた。


「なんだと?」


 健斗は花形の言葉にカッとなったのか厳しい目つきで睨みつけた。


「お前、小学校の頃から野球やってるけど、全然成長しないじゃないかよ。もっと他の運動でもやれよ。」


 花形も睨みつけてくる健斗を睨み返しながらそう言った。


「あ?いいだろ?俺がやりたくてやってるんだから。お前にとやかく言われたくないね。」


 健斗が花形から目を逸らし、背を向けて学校に向かって歩き始める。


「あ、健斗もういいの?」


 晶は健斗の後ろ姿と花形の顔を交互に見た。


「俺はあいつに用はないからな。それにあいつのたった一つの用事も終わっただろうさ。」


 健斗は晶の顔も花形の顔も見ようともせずにどんどん先に歩いていく。


「うん、そうだね。用事は終わったのかもしれないね。あ、そうそう花形くん。私も一つだけ用事あったよ。」


 晶は花形の顔を見てにっこり笑ってそう言った。


「なに?紫水さん?」


 花形はぎこちない笑みを浮かべながら晶の顔を見た。


「私も野球部に入るね。」


 晶は笑みを浮かべたまま花形の顔を見ている。


「え、それってマネージャーで?」


 ぎこちない笑みを浮かべていた花形の表情が柔らかな笑みに代わり、そして次の言葉を聞いて今度は引きつったようなものに変わった。


「ううん、もちろん選手として。」


 花形の言葉に晶はまっすぐに頷きそう言った。


「紫水さんが?野球を?」


 花形は混乱しているのか軽く首を傾げ、そして右手で軽く頭をかく仕草をした。

 

「そう。知ってると思うけど、今年度から甲子園にも女子選手が出れるようになったよね。もちろん地方大会なんかの全ての公式戦にも。私は、日本で一番最初の甲子園に出場する女子選手になるの。そこには健斗と花形くんと私の三人で。まずはそれが今の私の夢。」


 晶は笑顔を浮かべたままそう言った。


「でも、それはうちの高校じゃ難しいよ。北海道にだって強豪校はたくさんあるし、それにあいつには無理だ。」


 花形は現実を直視した言葉を晶に向けた。


「じゃ、花形くんは諦めるの?もう野球やらないの?」


 晶は軽く首を傾げながら強い口調で言った。


「それに、健斗はやればできるはずなの。私に野球を教えてくれたのは健斗なんだから。」


 その晶の言葉に嘘はない。二人がまだ小学校低学年だった頃、初めてプロ野球の試合を観戦して興奮した健斗が無理やり晶に野球を教えたのだ。もっとも、晶はあっという間に上達して健斗を追い抜いてしまったのだが、それでも晶にとっての野球の師は健斗だった。


「まさか。健斗が紫水さんに野球を教えたって?どう考えてもありえないだろ?中学時代のあいつの成績知ってだろ?公式戦だけじゃなく練習試合も含めて塁に出たのはたったの一回。一回だけだぞ?守備では三塁から一塁までボールが届かない。そんな奴が?」


 花形は興奮したように一気に健斗の中学時代の野球の成績を口にした。


「うん。でも、その一回はホームランだったよ。本当にできない人ならそんなことできるわけない。」


 晶が言っているホームランというのは、中体連での最後の試合。つまりは中学野球最後の試合でのことだった。地区大会でコールドゲーム濃厚な五回裏、ツーアウト。恐らくは監督の温情采配だったのだろう。それまでただの一度も出塁したことがないベンチウォーマーの健斗が代打としてコールされたのだった。初球を見逃し、二球目は空振り。誰もが次の一球で終わると思った瞬間、カキーンという素晴らしい音とともに打球はライトスタンドに消えていった。


「・・・あれは、偶然だろう。」

「かもね。健斗もそう言ってた。俺なんかがホームランを打てるわけがないんだって。」


 その時の様子を思い出しながら晶は語っているのだろう。少しだけ目を遠くに向けて話していた。


「だったら、そういうことじゃないのか?」

「でもね、私は思うんだ。健斗はきっときっかけさえ掴めばすごい選手になるって。」


 晶はさっさと歩いて行ってしまった健斗の後ろ姿を見ながら言った。

 それは晶の贔屓目としか思えない言葉だった。中学の三年間で健斗を見てきた花形にとっては。でも、と花形は思う。あいつに全くのセンスがないとは言えない。守備の時の身のこなしやベースランニングなど基本的なものが下手ではないということはわかっていたから。


「だと・・・いいけどな。」


 花形もすでに小さくしか見えない健斗の後ろ姿を見ながら、晶の言葉にそう答えた。


花形という名前に心当たりがあっても何も触れないでください。

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