1-1 健斗と晶
久しぶりに新作を書いてみました。
登校のペースはまちまちになると思いますが、最低でも週に2回は更新していく予定です。
俺の名前は山本健斗。15歳。北海道の中では割と大きめの街に住んでいる。札幌までは高速道路を使って二時間、JRなら1時間半という絶妙な立地だ。隣町は温泉で有名な観光地だけど、ここは「鉄の街」なんていう堅苦しい呼ばれ方をしている。実際、鉄鋼業や石油化学なんかの重工業が盛んな街で、俺の父親や母親もそれに関わる仕事をしている。近所の人達もなんらかの形で重工業に関わっていると言ってもいい。けれども、最近は住民が減少したとかで色々大変なところもあるようだ。ただ、社会人でもない俺にはイマイチわからない。ここで生まれ育った俺には他の町のことなんてよく知らないし、それに、この街のことを割と気に入っていたから。何と言っても海と山がある。住めば都という感じだと思うんだ。
そして今日は高校の入学式。質実剛健と文武両道を旗印にしたこの地域一の進学校に入学する。高校での俺の目的は、ズバリ、彼女を作ること。中学時代には彼女を一人も作れなかった。女子の友達は割といるのだけどなぜなんだろう。
そしてもう一つの目標。これは結構難しいけれど野球部に入って甲子園に行くこと。うん、明らかに厳しいな。でも、それはわかってる。そもそも野球よりもサッカーに力が入っている街なんだよ。まぁ、それも仕方がない。だって、全国レベルのサッカー部を要する高校があるんだからな。昔はサッカーもかじってたけれど、あんな奴らと同じレベルでサッカーはできないなと思ってやめた。でも、野球は違う。結構好き。下手だけど。
「健斗、おはよう。」
家から出るのと同時に声をかけられた。こいつは俺の幼馴染の紫水晶。こんな名前だけど女だ。
とある芸能人と名前がモロ被りで紫水晶と読むことができる名前がコンプレックスらしい。小学校の頃にそのネタで散々いじり倒したらバットでケツを殴られた経験がある。
「おう。」
俺は適当に返事をしたが、これはいつものことだ。大体、なんでこいつは毎朝のように俺んちの前で待っているんだよ。うざったいことこの上ない。
「なんか冷たいね。いつも通りだけど。」
晶がブスッとむくれながらそっぽを向く。
「別にいつも通りならいいじゃねぇかよ。」
晶のことが嫌いなわけじゃない。ただ、こいつは運動神経がいいんだ。しかも恐ろしいほどにレベルが高い。運動なら何をやらせても人並み以上にこなす。おそらく両親がプロスポーツ選手だったことが原因なんだろうけどな。とにかくこいつと一緒に運動をすると悲しくなってくるんだ。
小学校の時、俺がバスケットボールを始めた時、晶も同じクラブに入って来て実力差を見せつけられた。二人とも初心者だったはずなのに、晶は初日から左右の手でドリブルができ、シュートまで右手でも左手でも打てて、しかもダンクシュートをかましやがった。あれだね、もうやる気なしだね。そんな気分になって俺は初日でやめた。
次に入ったのはサッカークラブ。俺が入るのと同時にまたもや晶も一緒に入って来やがった。そして、華麗なドリブルを披露し先輩たちを五人抜きした挙句、一人オーバーヘッドシュートを決めやがった。あれだね、今度こそマジでアレですよ。やってらんねーって感じですわ。だからサッカークラブもその日でやめた。
で、最後に入ったのが野球クラブ。これはさすがに女子の晶は入ってこないだろうと思ったよ。サッカー以上に野球クラブは男子の聖域って感じだったからね。ところが、やっぱり晶もやって来た。もう勘弁してくれと思ったね。ピッチャーをやれば百キロ近い速球を投げるし、打席に立てばアホのようにホームランを打ちまくる。まさにエースで四番っていうのはこんな感じかと思ったよ。そう言えば、野球クラブにはもう一人女子がいたな。転校生だったような気がするけど、晶と同じレベルで上手かった記憶があるな。でも、またすぐに転校しちゃったから試合には出なかったけど、とにかくすごい子だったな。
ん?お前はどのレベルだったのかって?自慢じゃないが俺の運動神経は普通レベルだ。でもな、野球は好きなんだよ。だからなんとかかんとか頑張って最終的にはベンチ入りくらいはできるようになったさ。ん?バカにしてるだろ?ま、いいさ。とにかく俺はそんな感じ。晶が特別なんだ。
「せっかくおんなじ高校なんだからさ。いいじゃん。一緒に学校に行ったって。」
中学の時と同じセリフだな。にしてもこいつのストーカーっぷりは怖いな。これが男だったらマジで引くレベルだ。バレンタインの時なんか、鬼の形相で逃げる俺を追いかけて来たからな。チョコを渡すために。いやいや、マジで怖かったって。
「高校が一緒だからって一緒に行く理由はないだろう?」
「ある。」
「なんで?」
「家が隣だから。」
「はぁ?」
「なんかさー、健斗がいないとつまんないんだよね。」
それって俺をいじめて楽しむってことか?そう思いながら晶の顔を見るとにっこりと笑っている。こいつ、顔は結構可愛いんだよな。スポーツ少女にありがちな短めの茶髪に色黒の肌。八重歯がこいつにとってのチャームポイントみたいで『可愛いでしょ?』て何度も言われたもんだ。その度に、『あぁ、可愛いな』とかって適当に返事をしてたけれど。
ちなみにおっぱいはあまり大きくない。俺は巨乳が好きだ。だからと言って貧乳も捨てがたいよな。なんていうか、偉大な諸先輩方には巨乳好きが多いような気がする。要はおっぱいが好きだということだ。そう、それだけだ。
あ、そうそう、晶が茶髪なのはちゃんと理由があってな。こいつは釣り好きなんだ。おっさんぽいだろ?毎週日曜日は海で何かを釣ってるらしくて、それで髪の毛の色が抜けたんだとさ。いわゆる潮焼けってやつらしい。
そして身長は俺よりちょっと小さいくらい。俺が176センチだからあいつは160センチくらいかな。あ、これじゃちょっとじゃないな。結構小さいのか。でも女子の平均身長よりは大きいよな。
「そうか・・・」
「あ、健斗、髪切ったの?」
晶が俺の変化に今頃気がつく。
「おう、野球部に入ろうと思ってさ、ちょっと気合入れてみた。」
坊主頭を手で軽く撫でるとシャリシャリしていて気持ちいい。
「撫でていい?」
「ダメだ。」
「いいじゃん、減るもんじゃなし。」
「お前は力一杯やってくるから痛いんだよ。」
「軽く、軽く触るから。ちょっとだけでいいから触らせて。」
家の前で晶に遭遇して数分。未だに先へ進んでいないではないか。
「ダメだ。そろそろ行かないと学校に遅れるだろ?」
そう行って晶を置いてバス停までダッシュする。しかし、晶は全く苦のない感じで俺の隣を並走してくる。ちくしょう。やっぱりこいつに運動では勝てないか。
「健斗の足なら遅れるかもねぇ。」
本当にこいつ、俺のことバカにしないと気が済まない性格なんだな。
俺たちの家は川を越えたら隣町という素晴らしい立地、海も近いしバス停もある。なんと近くには大学まである。惜しむらくはゲーセンが近くにないというくらいか。いや、他にも色々とないんだけど、この際それは忘れてくれるとありがたい。
とにかくバスで学校までは二十分くらい。急がないと本当に遅れてしまう。まずはバス停に行かなくてはっ。
少し短めでしたけれど、続きはすぐに公開します。