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アウトサイド   作者: あいよ
序章
5/16

5:余裕と油断

水と食べ物、火を手に入れたわけだが、このままここにいては数日ももたないだろう。

何せ、安心して食べられるものは1種しかないし、この周りで取れる量は限られているというか、ほぼ取りつくしてしまっている。

せいぜいあと1食程度分しかない上に、他になっている木があったとしても、蜜柑もどきばっかり食って、毎回腹を下すというのも避けたい。

すでにこの世界に来てから2回も腹を下している。

3回目くらいお手洗いで落ち着いてしたいものだ。


ともあれ、日が高いうちに少し移動しようと考えたが、ここでまた1つ問題にぶつかった。

どちらにいけば人がいるかわからないのだ。


おそらくだが、かまきりがいた場所から見てこの場所は北に当たると思う。

根拠は木に “こけ” が生えている面と同じ方向だからだ。

そしてかまきりがいた場所より、この場所の方が開けている。

もちろん川があるからだとは思うが、少なくともかまきりに遭遇した方面に移動するよりはマシなので、南に進むというのはやめておくと同時に、川も渡れないので北もなし。


となると、東か西、川の流れに従って言えば、東が下流で西が上流のようだ。

ここでまた中学だか高校だかに習った “文明の起こり” を思い出すと、古代の彼らは下流で流域が広い地域において、ふんだんな水を利用した農作を行い、文明を築いていたはずだ。

となれば、もしこの世界に自分以外の人間がいるとしたら川沿い、且つ下流の方が可能性が高いのではないだろうか。


そう考えた私は、下流方向に歩くことにした。

先程の果物を数個カバンにいれて左手に持ち、右手に鎌を持つ。

一緒に回収した外殻は上着と下着の間に挟み、ズボンのウェストに少し突っ込むことで固定した。いささかデブに見えるがこの際しょうがない。

太陽の位置をみつつだが、焚火が炊けるギリギリの時間までは歩くつもりだった。


*


川べりは想像したよりも歩きやすかった。

河原と呼べるような石原はなく、稀に茂みがあったりはするが、泥のようなぬかるみもなく、草だかコケだかがふかふかと絨毯のように生えていた。


1時間程度毎に休憩を取りつつ、途中で何度かスマホを確認したが、やはり電波らしいものはなかった。このまま持っておいても役には立たないので電源を落とすことにした。

また、休憩で座り込む際、野宿することになってもいいよう、休憩中にフェザースティックを作っておくことにした。


この時気付いたのだが、フェザースティックを作る時、というより鎌を使う時、必要以上に疲れてしまうのは、どうやら気のせいじゃないようだった。

川べりで邪魔な茂みに当たった際も、それを刈るために鎌をつかった。

鎌本来の使い道であり、切れ味も相まって邪魔な茂みをすぐに片づけられたが、たった3分で息が切れてしまうほどの疲れを感じた。


歩いているときはさほど疲れないことを考えると、おそらくだが、この鎌で何かを切ったり刈ったりしてしまうと、必要以上に疲れてしまうようだった。

だからといって、唯一持っている切断ツールを手放すわけにもいかない。

使う機会を考えればいいだけだと考えた。


カバンから蜜柑もどきを取り出し、かぶりついて腹と渇きをいやしながら歩いていたが、一向に景色は代り映えがしなかった。森、森、森。

多少木々が薄くなったり、川幅が広くなったりする場所はあるが、人工物らしいものや道などにもあたらず、ただひたすらに森が続くだけであった。


結局その日も野宿になりそうだった。

カバンに入っていた黄色い果実は残り1つだけとなったので、同じ果実がなっていればと思ったが、最初に見つけた場所以降で黄色い果実がなっていた木はなかった。


日が落ちてしまうと火も焚けないため、早めに野宿を決意した。

前日と同じように火を焚き、鎌で回りを少しだけ整備したところで、少し疲れてしまい、火の近くに座り込んだ。


今日は昨日よりも心に余裕があった。

お腹は少しだけゴロゴロしているものの、飢えや渇きといったものもない。

それに化け物にも遭遇していないし火もある。昨日の状況に比べればよっぽどマシだった。

そう感じてしまっていた。


*


人は余裕が生まれると、油断も生まれるのかもしれない。


日も落ち、少し寝ておこうと思った矢先、ぎぃっという音とも声とも取れるものが聞こえた。

最初は小さく、聞き間違えかとも思ったが、次また ぐえっ という声が聞こえた時、これは聞き間違えではなく、何かが近くまで迫っていると認識することができた。


心臓がばくばくと音を鳴らし、その音に呼応するように視界がゆがむ気がする。

恐慌状態というやつだろうか。

ひとまず私は焚火から火のついた木を1本取って声がした方に放り投げた。

すると、その火に ぼうっ と映し出されたのは ”小さな人型のような何か” であった。


よくよく考えてみれば、火が多くの動物を警戒させるというのは、あくまで元いた世界の話であり、この世界の生物が火を警戒するなんて誰も言っていないのだ。

そもそも誰にも会ってないからな、思い込みの一つだろう。

むしろ、火は知能が高い生物に対して、ここに私がいると知らせているようなものなのだ。


“小さな人型のような何か” は、先端に大き目の石がついた棒を持っていた。

石は木の蔓で括りつけられているだけだが、簡易的なメイスとして振るえば、私を殺傷させるだけの威力を充分発揮できるだろう。


こちらをじっと見て機会をうかがっているようだった。

かまきりの時もそうだったが捕食者に狙われているという状況にあうと、毛肌が逆立つというか、じりじりと張りつめた感覚に包まれ、自分が獲物であると認識させられる。


また “小さな人” は、とてもじゃないが会話ができそうな顔をしていなかった。

動物としては賢いのかもしれないが、目は白目がなく全体が赤くぎらつき、口からは涎が垂れ、火が反射しておぞましく光り、知性は感じられなかった。


襲われた場合、逃げるか迎え撃つしかないが、どうするべきか。

かまきりの時は昼間だったが、今回は夜だ。

火がないところに逃げ回り、別の生物に遭遇したら目も当てられない。

幸い、相手は小さく子供ほどの大きさしかないのだ、もし襲われたら返り討ちにすればいい。


私はそう決意すると右手に鎌を構えた。


それがトリガーになったようだ。

ぎぇえええと声を上げた “小さな人” がメイスもどきを振り上げ襲い掛かってきた。


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