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アウトサイド   作者: あいよ
序章
4/16

4:不器用なサバイバル

小川のほとりまで戻ってきた。

この世界にきてから、ここまでで3時間半程度は経過しただろうか。

移動をしていたせいか少し喉が渇いていたので、回収してきたものの整理もそこそこに、

火をつける方法を考えた。


私は嫌煙者だが、この時ばかりは自分が愛煙家であればと思った。

ライターがないのだ、もちろんマッチも、チャッカマンも、直接的に火を起こせるものなどあろうはずもないのだ。


カバンに入っていたのはボールペン、ノート、名刺と名刺入れ、昼に食べた空の愛妻弁当と箸、ハンカチ、カバンの底の方にある資料から外れたゼムクリップ。

当たり前だが、直接サバイバルの役に立ちそうなものはなかった。


しかし火を起こすことは何とかなりそうだった。


まず、近くに落ちていた木の枝から、なるだけ渇いているものを拾いあげた。

それを先程回収した「かまきり」の鎌で少しずつ削り、削った部分が巻きつつ落とさないように、薄い部分を作っていく。

鎌は大いによく斬れるのだが、ナイフよりも大きく、慣れない作業だ。

そのせいか、想像以上に疲れてしまったものの、無事雌鶏の羽がたくさんついたような木の枝ができあがった。

厚さがまばらだし、そんなに羽の数は多くないが、フェザースティックというやつだ。

初心者が作ったものにしては上出来じゃないだろうか。


次にノートから紙を一枚破り、ボールペンで丸を書いて地面に置き石で固定、加えて愛妻弁同の中のゴミからサランラップを取り出して川の水で洗い、ラップで包み込むように水を救い上げた。

これをレンズ替わりにして、紙に書いた黒丸に収束した光を当てることで、火種を作ることに成功。


フェザースティックにも火を移し、他の乾いた木々をくべることで焚火を作り出した。

中学校で習ったようなことが、まさか実際に役に立つなんて思わなかったが、火を起こしたことで、また少しだけ心に余裕ができたようだった。


起こした火を横目に、鎌と一緒に回収してきた外殻を川で丁寧にあらい、ついでに水をすくって火の近くにおくことで煮沸した水を作ることもできたので、飲料水の不安はある程度軽減できたといっても過言じゃないだろう。


となると、水の次は「食べ物」なのだが飲料水の確保ができた時点で、日が沈みかけていた。

多少落ち着いたせいか少し腹も減っていたが、多少落ち着いていたおかげで、夜に出歩くという愚をしなくて済んだ。

この日は火を絶やさず、夜が明けるまで待つことにした。


おそらくだが、火を起こすことができずに夜を迎えていたら、一晩で発狂していただろう。

よくわからない生物のおぞましい鳴き声が時折聞こえ、木々の間を覗いても、森の奥が見えることもない。

こんなところ、明かりもなしに独りでいたら、精神が持たない。

そういう意味でも火は偉大だった。


この日体験した内容は、私を憔悴させるには十分であった。

そのせいか、細切れではあるものの、軽く睡眠をとることができ、深く物事に悩み込む間もなく、無事夜明けを迎えることができた。


*


さすがにもう半日以上何も食べていないため腹が減った。

火はある、水もある、なので次は食べ物を探す必要があった。


まずパッと見て食べられそうなものは、川に泳いでいる魚影だった。

時折川から跳ねるそれは、背びれがピンクっぽく見え、少しだけ変わった色をしているように思えるが、魚であることは確かだった。

とはいえ、泳いでいる魚を素手でとるとか、鎌でとるとか、できようもない。

手持ちで何か魚を取れそうなものはないので、別のものを探すことにした。


次に見つけたのは、ジャングルの木になっているこぶし大ほどの黄色い実であった。

一見おいしそうに見え、臭いをかぐと柑橘類の香りに似た香りがしたが、やはり見たことがない実であった。他にも小さく少し甘めのにおいがする赤い実などもあったが、こちらも見たことがないものだ。


同様に、地面に生えている草も、なっている実も、何もかも。

そもそも食べていいものなのかわからないのだ。

食べ物を得るというのは「何が食べ物であるかを知っている」ことが前提なのだ。

ここが異世界であることを考えると「食べ物のように見えるものが、本当に食べられるものである」という先入観を捨てなければいけなかった。

これは魚だろうがなんだろうが、同じことが言えた。


しかし、確認のしようもなかった。

周りに人の気配はなく、草木ばかりだ。

確認しようがないなら、どうすればいいか。


意を決して食べる以外にないのだ。


私はまず、煮沸した水を用意し、空っぽにしたカバンにできるだけ水を貯めた。

もちろん湾曲した外殻も水がめ代わりに貯めておいた。

最悪動けなくなっても水分だけは取れるようにだ。


そして、最初に口に入れてみるものは、柑橘系の香りがする黄色い実にした。

表面に鎌で切り込みを入れると、外側の皮がめくれ、さらに柑橘系の香りが強い、みずみずしい果肉が見え、食欲をそそった。

貪りつきたい衝動を必死で抑え、鎌の先端で一部をほじり、恐る恐る口に運び、舌に乗せた。


美味しい。


久々に食べた物の味は蜜柑にちかい味わいだったが、蜜柑よりも渋さや苦さといったものが薄く、濃い甘さと心地よい酸味、みずみずしい果汁が口の中いっぱいに広がった。

毒であったかどうか、この時点では判断できなかったが、この味ゆえに衝動を抑えることはできず、あっとういう間に黄色い実1つを食べ干した。


しまった。とおもった。

毒であった場合にそなえ、ほんの小さな一口で済ませるつもりであったのだ。

ここから3時間程度は戦々恐々としていた。


いつ症状が現れるかと。

生き残れる程度の毒であるのかと。

腹の減り具合なども忘れて、ただひたすらに座って、自分の身体に意識を向けていた。

吐き気が来るのか、下すのか、幻覚か、はたまた出血か。怖くて仕方がなかったが、結果としてそういった症状は一切なかった。


毒ではなかったのだ。

食べられるものを1つ見つけた記念すべき瞬間であった。


数時間たち、安全だと判断した私の行動は早かった。

焚火が見える範囲内にある黄色い果実を取れるだけ取り、それを貪った。

途中腹を1度下してしまったが、これはただ単純に水分量が多い果実を一度に食べ過ぎてしまったからであろう。


ともあれ、無事私は食べ物を手に入れた。


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