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終戦

「よっ」

アウステラでの救援要請を終えて魔法の国へと戻ってきた。

まずはヘカテリーヌ達と合流したいところだが、下手に連絡すると戦闘に支障が出るかもしれない。

「どうするの?」

「取り合えず適当に歩きましょう」

あちこちから悲鳴やらスキルの発動音やらが聞こえてくる。

国中に魔物が現れているらしい。やはり応援をよんで正解だった。思ったより救助者の人数が少ないのが気になるが。

「曜君、あれ」

「!」

先輩の指差す方を見る。

不思議な光景が飛び込んできた。

浅黒い巨大な人型の何かが魔物に襲われていた。

「「うをぉおおぉーーーーん」」

巨人の叫びは悲鳴のようにも聞こえた。

「あれ、助けた方が良いのか…?」

状況を把握できていないが魔物が襲うってことは何かの生き物なんだろうか?

ズガドーーンッッ………。

「!?」

何かが飛んできてその不可思議な光景を貫き吹き飛ばした。

魔物は塵となり巨人は瓦礫の海に沈む。

「イスマさん!」

とつじょ飛来してきたのは花屋のイスマさんだった。

「う…うぅ……」

息はあるようだが体は無事な所が無いくらいボロボロだ。

「大丈夫ですか?!」

「はぁ…皆さん……ボダッルフォさん、が……」

「喋らないでください」

俺は回復魔法をかける。呼吸が多少穏やかになった。

気が抜けたのかイスマさんはそのまま眠ってしまう。

俺達は近くにいた兵士に身柄を預けて彼が飛んできた方へと足を向けた。

やがて開けたところに出た。

市民憩いの広場、ではない。何かが暴れてまっさらになったような異質な空白。

その証拠に所々すり鉢みたいに抉れている。

中でも一番大きなクレーターに二つの人影があった。

「!?」

一人はボダッルフォさん、だろうか。

一瞬脳が把握を拒んだ。

その半身が波に揺れる海草のようにうねうねと逆立っているからだ。

やがてそれは全身に広がると近くに立っていたもう一人の手の中に伸びていく。

ボダッルフォさんだったそれは巨大なハンマーのような形で動きを止めた。

半裸の男はそれをぶんぶんと振り回す。

「んー良い感じ。名前は破砕筒ボダッルフォってとこかな」

「何……あれ…?」

隣からかすれた呟きが聞こえる。

「魔王軍の鍛冶師マオ」

淡々とした口調でキルシュアが応えた。

鍛冶師?あれが?

目の前で起きた事は俺がその手でつちかってきたものとはまるで違っていた。

「ん?新しい素材発見!」

「!」

気がつくと半裸の男は目の前に立っていた。

キルシュアは俺を守るように間に立つ。

「あれ?もしかしてキルキル?まさかそっちに寝返っちゃった感じ?」

妙に軽い言葉を聞き流しながら俺はそいつの握るハンマーから目がはなせなかった。

だがどれだけ凝視しようとそれを理解することはできない。

唯一わかるのはそれが生きているということだった。

人としての形を失ってなお生命活動を続けている。

意識はあるのだろうか、考えたくもなかった。

「ボェ…ア……はぁ…」

「曜君!?」

悪寒が喉の奥から這い上がってきて立っていられなくなる。

「お兄さんも鍛冶師なんだね、嬉しいなぁ、そんなに感動してくれるなんて」

「なんで……そんな…」

「おかしい?そっちも皮とか骨とか身に付けてるよね?死んでたら良いの?じゃあ殺そうか?」

「……っ!っ!」

「もうやめて 嫌がってる」

キルシュアが剣を抜いて魔物にかざした。

「それも僕が作ってあげたんだよね、君のパパとママから」

「…………」

「腐りかけてたから大変だったんだよね~、でもおかげでいい経験になったよ」

「………もう黙って」

キルシュアが剣を振り抜く。魔物は身を反ってそれを避ける。

「いいよ~、前から君も弄りたいと思ってたんだよっねっ!!」

ボダッルフォさんのハンマーが紅く輝き出す。それを叩きつけると強力な衝撃波が産まれた。

俺はキルシュアに抱えられてその場を離脱する。

「貴方は 何もしなくていい」

「……っキルシュア!」

彼女は俺を降ろすと再び魔物に向かっていった。

その頃ヘカテリーヌ達は中央塔を走っていた。

ドゴォーーン。

「「!!」」

突如轟音が響き渡り前方の壁から大量の煙が吹き出してくる。

見ると巨大な穴があいている。

ひび割れた穴の縁からそっと中を覗きこんだ。

もうもうと立ち込める煙の隙間から数人の人影が確認できる。

一人は車椅子のような物に乗っていて長い白髪を無造作に下ろしている。

二人目はかしこまった服の女性。どちらも耳が鋭く尖っている。

おそらくは魔物。

最後の一人は床に倒れ臥していた。

(お待ちください勇者)

乗り込もうとするヘカテリーヌをハルシャークが引き留める。

(だって、あの人が…)

(先程の衝撃とあの様子、おそらくはもう……)

(………)

ヘカテリーヌは下唇を噛み締め肩を震えさせる。

ハルシャークはその肩にそっと手を添えて続ける。

(ですが、勝利の後こそ隙が生じるもの、倒すべき敵がそこに居ます)

それを聞いてヘカテリーヌは今一度聖剣の柄に手をかける。

(あいつらの気を引いて)

(心得ました)

ハルシャークは数メートル距離をとると槍を構える。

『ソニックブレード』

「はあ!」

気合いの声と共に風の刃が迸る。真空は壁を裂き四方へ伸びていく。

それから半歩遅れてヘカテリーヌが飛び出した。

『疾地閃・雷光輪』

地を疾る雷光と化した聖剣の閃きが輪を描く。

それは魔を断罪する刃となって立ち尽くす悪鬼に襲いかかった。

二段構えの攻撃により魔物達は対処が遅れ、後手に回る。

なんとか回転ノコギリをかわそうとするが直後、稲妻が片方の首を掻き斬った。

頭部がボトリと床に落ちるとすぐに塵となり消滅した。

そのままもう一人も手にかけようと再び剣を構える。

そして目に飛び込んだ光景に体が固まった。

一人残った女型の魔物が床に倒れていた人物を人質にとったのだ。

「動かないでください」

「……ふざけないで、もう亡くなってるんでしょ、その人」

「試してみますか?」

ナイフのように鋭く伸びた爪が首筋に食い込む。

そこから真っ赤な液体が溢れてくる。

「勇者様、その者は死んでいます、騙されてはいけません!」

「っ……!」

ヘカテリーヌは剣を握る拳を震わせるが決定的な動きはできずにいた。

「愚かですね、ここで一人救うより、私を殺す方が何倍も有益では?」

「うるさい!だったらあんたが今すぐ止めれば良いでしょうが!」

「ふふ…、できるならそうしたいですが、我々は人の不快を食べなければ明日を生きれない、相争う定めなのです」

「なら全員死んじゃったら困るんじゃないの?」

「ええ、ある程度は残して日々絶望を提供していただきます」

「させないわ、絶体、そんなこと!」

「では、また会いましょう」

「!!」

ドゴワアァァーーーーンン。

巨大な何かが全てを薙ぎ払って突進してくる。

跳びすさってなんとかそれをかわすが既に魔物の姿は無くなっていた。

ただ破壊され開放的になったその場所から大空をゆく巨大な鳥の後ろ姿を眺めているしかなかった。

ただ喪失感だけが空っぽの思考にこだましていた。

「ピー、ピー、ピー」

「?」

その時、突然聞こえた音で我に帰る。

その出所を探ると散乱した瓦礫の中に倒れている老人が目にはいった。どうやら音はそこから鳴っているらしい。

「やはり息は無いようですが、なんの音でしょう?」

ヘカテリーヌにもやはり聴き馴染みは無かったが、同時にどこかで聴いたような気もしていた。

「確か……ヨウ達の世界で…」

それは機械から発せられる電子音。

「ピー、ピー、……生命活動ノ停止ヲ確認。電脳ヨリ複製ヲ転写、再起動シマス」

「なっ……なに?」

やがて事切れていたはずの老人は命の理に反して身を起こした。

「ぎゃっ、ゆ、幽霊!?」

「これはまさか……死者の蘇生…?」

「地上の民か、相変わらず無知が服を着て歩いているようじゃな」

「む、皮肉っぽい……」

「すまんな、癖で事実しか言えんのじゃ」

「貴方は…この国を統治する者ですか?」

「ああ、しばし待て、今町の様子を………」

「!」

突然表れた光の文字列に二人は目を丸くする。

「ふむ…急いだ方がいい、どうやらお主らの仲間がピンチらしい」

「え?」


「キルシュアぁぁ!!」

半裸の魔物に頭を踏みつけられ悶える彼女。俺は聖気を操る先輩に寄り添いタイミングを図っていた。

「おっかしーなー、何度叩いても形が変わらないぞ?」

手に持つハンマーでキルシュアの足を潰す。しかしお気に召さないようだ。

彼女もボダッルフォさんのように生きたまま武器に変えようというのだろう。

だが彼女には魔族の血が混ざっており、魔族同士は互いに干渉しづらいのだ。

「もういいや、壊しちゃえ」

魔物は骨が剥き出したハンマーを振り上げる。

「止めろ!」

思わずその辺にあった石を投げつけた。

放物線を描いたそれは魔物の膨れた筋肉にぶつかると跳ねてコロコロと転がっていく。特に成果はない。

魔物はニタリと意地の悪い笑みを見せるとハンマーをふり下ろした。

その直後、キルシュアの口から紅い閃光が放たれた。

衝撃に魔物がたじろぐその隙に脱出した。

「グルルゥゥ……」

「そういえば君も鬼化できるんだっけ、いいよー、もっと遊ぼう」

「ウグアァァ!」

四足で駆け飛びかかるキルシュア、空中で再び閃光を連射する。

外れたいくつかが俺達の近くに着弾して暴風が吹く。

「良いのかな~?お仲間を巻き添えにして」

「グワァッ!」

キルシュアは手に持つ剣をぶん投げる。

「!」

不意をついたのか魔物の胸に突きたった。

「グルルゥワアアァァァ!!」

それに気をとられている間に飛びかかる。

魔物を押し倒し、剣を押し込んで大地に縫い付けた。

「今だ、離れろ!」

聖気を放つならここだ。

「グウゥゥ」

だがやはり鬼化の最中は声が聞こえない。

いや、むしろ身をていして魔物を押さえつけているように見える。

「無駄だよ……魔族同士は干渉できない…」

剣を引き抜こうとする魔物に必死に抵抗するキルシュア。

やはりそうだ、自分ごと撃てといっているんだ。

首筋を汗が伝う。

チャンスはおそらく今しかない。

聖気は魔を滅する力、武器にされたボダッルフォさんに効果はない。だからこそ鬼化しているキルシュアには致命的だ。

「一瞬でいい、退いてくれ!」

やはり声は空しく響くだけだ。

撃つしかないのか、いや撃つのは俺じゃないんだ。

先輩に……その役目をやらせるのか?

「曜君、ごめん」

「え?」

ドン。

先輩が俺の胸を押す。

寄り添っていた体は離れバランスを崩して尻餅をついた。

そして先輩の掲げる杖が輝き出す。

「栄光は彼の基に、聖なる導きによりその身を言祝がん」

「何これ!何これぇ!」

キルシュアと魔物を幾つもの光の魔方陣が取り囲む。

やがて二人の姿が見えなくなるほど輝きは強まり、辺りが夜と錯覚するほどの眩い閃光を放った。

それはまるでもう一つの太陽のように見えた。

やがて光は天に伸びていき、元のクレーターが浮かび上がっていった。

「……どうして?」

極彩の輝きに晒された筈の魔物は今だその体を健在させていた。

「ふ……ぶっはははははははっがはははははは、なんだよ心配させやがって、とんだ見かけ倒しじゃないかっ!!!」

「まさか…失敗……」

先輩は肩を落として嘲笑う魔物を見つめている。

ひとしきり笑い終えたそいつはキルシュアを殴りとばすと立ち上がった。

「君たちってほんと面白いよね、下らないことに必死になってさ、その癖裏切られたらそうやって傷つくんだ。ばっかみたいだよねー」

「お前みたいな気色悪い奴よりましだろ?」

俺は項垂れる先輩に歩み寄るそいつの前にたった。

「趣味は悪いし下手くそだし、同じ鍛冶師として情けねぇわ」

もう打つ手がない。とりあえず先輩から気をそらさなくては。

「……なんでぇそんあひぞいこというぅのぉ……?」

すると魔物は大粒の涙を流して泣き出した。なんだこいつ。

「……そんなひどいやつはぁ、死んじゃえぇ!」

魔物が樹の幹のような腕をふるうと代わりに俺の腕が消し飛んだ。

断面から黒ずんだ血がこれでもかと溢れてくる。

「っあああ!?あああああっああああ……!!」

痛みで転げ回る。

「ははは、よっわ。一回打っただけでとれちゃったよ、これじゃあ素材にはならないね」

「曜君!?曜君!」

微かに先輩の悲鳴が聞こえる。

やめてくれ、静かに目立たずに救援を待ってくれ……。

「あれれー?もしかして、お姉さんってお兄さんが好きなのー?変わってるねー」

魔物は先輩の方に歩いていく。

「待て…………」

目玉がちぎれそうな程睨み付けるが、肝腎の足が動かない。

「お姉さん、こんな酷い人のどこが良いのー?そんなのより僕と遊ぼーよー」

「遊び?あなたがしてるのは虐めでしょ」

「……違うよ、こんなに楽しいもん」

「可哀想に、あなたは誰かを好きになったことが無いのね、だから誰にも愛されない。ずっと一人ぼっち」

「うるさいなぁ……、僕にはお人形さんがたくさんいるもん」

魔物は指を丸めて笛を吹く。

しかし例の巨人は現れない。

「……!?……?……いいもん、だったらお姉さんを人形にしてあげる、それで一緒に暮らすんだ」

「……人形は人形、あなたを愛してはくれないわ」

「うるさい…、うるさい…、」

「あなたにご両親はいる?いないわよね、魔物だから、だから寂しくて、遊んでほしいのね……」

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい……」

「握ったままじゃ手もとれないのよ……」

「うるさーーーーーいっ!!!!!!!!!!!!」

全てを乗せたそれ以外の全てを拒絶し破壊する拳が先輩に向かっていく。

これまでの限界を超えた威力に空間は歪み、光は捻れ、音は消える。

災害レベルの暴力が世界を軋ませる。

そして突然現れた影がそれを易々と止めてみせた。

後には見る影もない残滓のような烈風が大地をめくりあげていった。

そいつはその中でもまるでそよ風が吹いたかのような涼しげな態度で立ち尽くしていた。

「おま……えぇ…」

「這いつくばって芋虫ごっこかい?随分悠長だねぇ」

感情のない瞳で笑いながらそんなことを言ってくる。

「な……なんで止めるんだよドゥガ!」

そいつはキルシュアの主、俺達の味方になりたいとかほざく不信極まりない魔物だった。

「んー、たまには自分で考えないと成長はないよ、マオ君」

「そっそうか!キルキルだけじゃなくて、あんたも裏切ったんだなっ!」

半裸の魔物は鎧の魔物から距離をとる。

「ほう、まさか我らに仲間意識があったとはな、勇者にでもほだされたか?」

「うるさいっ!どいつもこいつも僕の邪魔しやがってぇ……、怒っちゃうぞぉ!」

「ふっ、お前が俺に敵うとでも?」

「うっ、うぅ……ううぅ…………」

ドゥガが背に負った大剣の柄へ手を伸ばすとマオが後退りする。

「僕の作品なのに……、もう作ってあげないんだからねっ!」

叫ぶと同時にふわりと飛び上がった。

よく見ると背中から白い糸のような物が伸びていた。

それを辿っていくと巨大な鳥の影が大空を羽ばたいているのが見えた。

続いてドゥガにも同じ物が伸びてくるがこいつはそれを目からビームを出して拒んだ。

俺の意識はそこで途切れた。






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